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『無頼勇者の奮闘記』〜無力だった青年が剣豪に至るまで〜  作者: 八雲水経
第六章 マリオネット教団編(征夜視点)
182/251

EP167 オルゼのアゲハ蝶 <☆>

 今回は(規制の関係で)省いた描写がかなり多いです。

 健全な紳士な読者様は、是非アルファポリス版の方をどうぞ!

(ちなみに描写してないだけで、起こった出来事は殆ど同じです。)

https://www.alphapolis.co.jp/novel/115033031/408542049/episode/5607571


 征夜たちがオルゼを出発した数週間後、日はとっくに沈み、夜の賑わいが増してきた頃――。


「それじゃ、条例の件はお願いね!」


「任せてください!」


 淡く輝いている夜灯に照らされた、豪奢な屋敷の玄関口。そこには、二つの人影があった。

 一人はマリオネット教団所属の魔装拳士・セレアティナ。そしてもう一方は、オルゼ周辺に多大な影響力を持っている貴族の紳士だった。


 しかし不思議なのは、本来ならへり下るはずな平民のセレアが、むしろ上から指示を下ろしている点だ。

 敬語などは微塵もなく、人間とは言え圧倒的な権力を持った男を前に、何の遠慮もない。その光景は、かなり異常だ。


 今回のセレアの任務は、"教団に有利な条例を作る"という事だった。

 そしてその方法は、"権力者への接待"である。それが普通の会食でない事は、彼女が抜擢されている点からも明らかだ――。


「セレアさんの為に、必ずや成立させます!」


「ウフフ♡頼もしいわね♡それじゃ、頑張ってね・・・!」


 セレアは相手の目を見てウインクした。

 彼女にとって、これは軽い挨拶のようなものだ。

 しかし男からすれば、美女からのウインクほど興奮する物は無い。


「お、おほぉっ・・・!」


「また会いたくなったら、是非お店に来てね。指名を入れてくれたら、VIP待遇で接客するから♡」


「は、はいっ!」


「素直でよろしいっ♪」


 セレアによって籠絡された貴族は、完全に骨抜きにされている。

 このようにしてまた一人、教団の信奉者が増えたのだった――。


 屋敷の敷地から出て、草原にたどり着いたセレアは、その場に立ち止まった。腹を抑えて、何かを考えている。


(魔力に還元すれば、テレポート出来るかも♡)


 淫魔は男の精力を還元し、人間には使用不可能な魔法を用いる事が出来る。

 悪魔の奥義でもある空間転移魔法、テレポートもその一つだ。


「ウフフ♡たくさん貰った分、ありがたく使わせて貰うわね♡」

<<<テレポート!!!>>>


 セレアが魔法を使うと、視界が一瞬回転した。

 そして次の瞬間、目の前に広がっていたのは――。


「やっぱり、故郷が一番落ち着くわね!」


 膨大な量の人が住むスラム街と、欲望で塗り染められた風俗街。その両方をセメントで固めてぶち撒けた、混沌の町オルゼ。

 セレアは大通りを、溢れ出す色気を隠す事もなく歩いて行く。道行く人がその美貌に振り返り、声を上げる。


「おぉっ!セレアちゃん!おかえり!」


「ただいま!」


「今日も可愛いよセレアちゃん!」


「ありがとね♡」


 町民にとって、セレアは一種のアイドルだった。男は勿論の事、女性すらも彼女に魅了されている。

 この町を故郷とし、そこに住む人々を家族とする。孤児であったセレアにとって、この町は全体が自宅に等しかった。


 自分に群がる町民との他愛のない会話を済ませたセレアは、こじんまりとした酒場の前に立ち止まった。


(やっぱり、まずはここに来ないとね!)


 セレアにとって、町の中でも指折りのオススメスポット。それが、この酒場だった。

 中は大勢の人で賑わっており、外にまで人が溢れている。


(いつもの席が空いてますようにっ!)


 寒空の下で飲む酒も良いが、やはり中で飲みたかったセレアは、少しだけ祈りを込めながら扉を開いた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「こんばんわ”()()”!」


「おっ!セレアちゃん!いらっしゃい!いつものかい?」


「えぇ、お願い!」


「ほいよ!」


 セレアはこの店の常連であり、いつも決まって"紫の蝶(パープルバタフライ)"という特別なウイスキーを飲んでいた。

 淫魔の内臓は人間の何倍も頑丈なため、酒を飲む際にも人間用の酒では物足りないのだ。そこで彼女は、この特殊なウイスキー以外は、全くと言って良いほど飲まない。


 そして何より、このウイスキーはセレアのために作られた、彼女のブランドなのだ。

 当然ながら、実際に制作したのは彼女ではなく酒場の店主であるが、酒の名前は彼女が決めている。


 "オルゼのアゲハ蝶"、それが娼婦としてのセレアティナに付いた異名だった。

 業界や紳士たちの間では、その名を知らない者はいないほどに、彼女は有名だった。


 淫魔と人間のハーフ。人間離れした肉付き。鮮やかな紫の髪。

 異彩を放つ様々な要素が、最も美しい蝶の一つである"アゲハ蝶"のようだと、この店の店主が最初に言った。そして、それが大陸全体にまで広がったのだ。


 彼女に対して親しみを持って接する町民の中でも、一歩踏み込んだ関係を持っている中年の男。

 それが、この酒場の店主だった。セレアには、師匠と呼称されている。


 実を言うと彼は、客としてではな"()()()として、彼女と関わった事があるのだ。

 テクニックの指導だけでなく、護身用の技術を叩き込んだのも彼だ。

 彼としては必要最低限だけを教え込んだのだが、現状の彼女を見るに、ポテンシャルが高すぎたようだ。


「ほいよ!お待ちどうさん!」


「ありがと!」


 大ジョッキに入ったウイスキーをセレアに渡した店主は、楽しそうな笑みを浮かべている。


「セレアちゃん、もう29だっけ?」


「不正解!実は今日で30なのよ!」


「えぇぇッッッ!!!???全然見えないな!むしろ、色気が増してるよ・・・!」


「ウフフ♡ありがと♡相変わらず女を褒めるのが上手ね♡」


「いやいや!これはお世辞じゃないよ!

 30代でも若い女は多いけど、セレアちゃんは本当に全く衰えないな!」


「まぁ、淫魔だからねぇ♡むしろ大きくなったかも♡」


 セレアは、胸元に実ったたわわな果実を見下ろしながら、満足げに答えた。


「そっかぁ・・・!じゃ、これは誕生日祝いだ!代金は取らないよ!」


「ありがとね♡」


 二人の会話は、側から聞くと下品にも思える。

 しかし、古くからの友人である彼女にとっては、ごく普通の会話なのだ。


 会話の話題は少しずつ、近況の話題に移る。


「最近来てなかったけど、何かしてたの?」


「4週間ぐらいお城にいたのよ!教団のお仕事でね♡」


 店主は瞬時に察した。

 教団員が城に行く用事など、ましてや女性が行く理由など、接待の他にないのだ。

 長年の勘と経験、そして何よりセレアに対する理解から、仕事内容など容易に想像できる。


「楽しかった?」


「えぇ、刺激的だった・・・♡お給料も良いし、とっても楽しいし、天職だと思うわね♡」


「ちなみにどれくらい儲けたの?」


「1ヶ月で手取り4000ファルゴね♡衣食住も付いてたし、最高の仕事だったわ♡」


「手取り4000ファルゴ!?おいおい、4年は遊んで暮らせるじゃないか!」


「ウフフ♡そうなるわね♡」


 日本円にして約4000万円。大金と呼ぶには大きすぎる巨額の金貨を、セレアは4週間の仕事で稼いでしまった。

 ただし彼女は、決して違法な事はしていない。あくまで法律の範囲内で、貴族を籠絡しただけなのだ。


「今回は例外にしても、娼館の通常業務だけで月に1500ファルゴは入るわよ?

 それに、他のいろんな仕事を合わせたら月収2000ファルゴってところかしら?」


「流石!高級娼婦は伊達じゃないね!」


「"育ててくれた人"に感謝しなくちゃね♡」


 セレアはそう言うと、男の唇にキスをした。

 高級娼婦とは、単に肉付きの良さや顔立ちの良さだけで成立する職業ではない。

 社交界に対する理解や、貴族を唸らせるテクニック、一般人を逸脱した教養が求められるのだ。

 その点において、彼女はこの男に頭が上がらなかった。


「ハハハ!まぁ、俺も伊達に教育係なんてやってないさ!

 プロとしては、ポテンシャルのある女の子は活かしてやらないとな!」


「褒め言葉だと思っておくわね♡」


 お互いが嬉しくなれるような、褒め言葉の応酬。

 幼くてして両親が失踪した彼女にとって、この男は家族にも等しい存在だった。

 父親と親友の間と言えば、分かりやすいかも知れない。


「稼いだ金はどうしてるんだい?カジノ?それとも、ホストに貢いでるの?」


 店主はそれまで、敢えてこの話題を避けてきた。

 セレアが巨万の富を築いている事は知っていたが、その行き先を彼女は示さない。

 ネックレスやイヤリングなどの装飾品は、そこそこ良い物を身に付けているが、普段着はオルゼの店で買った物だ。

 自宅は娼館の中にあり、そこも賃貸である事を考えると、稼いだ金の行き先は全くの謎なのだ。


 彼女は今年で30歳。勿論、これからも長くこの仕事を続ける予定のはずだが、ある意味で一区切りは付いた。

 誤った金の使い方をしているなら、今のうちに正さねばならない。それが、店主の親心だったのだ。


「やっぱり、まずは商売道具かしら?

 私に合うサイズで、可愛いブラって本当に少ないのよ・・・。パンティーもそうね。なかなか入らなくて・・・。」


「そっかぁ・・・確かに、そのサイズは全然無いよなぁ・・・。」


 この世界は、男にも女にも体格の良い者が多い。

 男の平均身長は175センチほど、女は170センチが普通であり、もっと大きい者も居る。

 胸のサイズに関しても、FやGはともかくEカップなら道端を歩くだけで見つかる。


 そんな中でもやはり、セレアは大きかった。

 身長は182センチ、胸はKカップ。丸々としたヒップに、程よく括れた腹。

 出る所は出て、引っ込む所は引っ込む。淫魔特有の"わがままボディ"を絵に描いたような体型である。


 いくら異世界とはいえ、元を辿れば同じ人間。

 完全に居ないとは言えないが、やはりこのサイズの衣服需要は少ないのだろう。


「下着を買ったら、次はコスプレグッズかしら?

 魔女の格好、聖女の格好、女医の格好、マイクロビキニ、ボンテージ、エプロン・・・上げ出したらキリがないわね。貯金は・・・殆どしてないわ。」


「なるほどなぁ・・・客に合わせて変える感じ?」


「そうね!責めてほしい人と、責めたい人が居るから、両方に対応してるの!」


「ちなみに、本音ではどっち派?」


「ヒ・ミ・ツ♡両方出来た方が、いろんな事を楽しめるでしょ?」


 セレアはそれとなく答えを濁した。

 実際のところ、自分でも適性がSとMのどちらに在るのか分からないのだ。

 サディスティックに責めるのも好きだし、マゾヒスティックに責められるのも好き。

 自分としても、その両方が自分であると思っていた。


「でも、まだそれだけじゃないだろ?あとのお金はどこに行くんだ?」


 話をはぐらかそうとしたセレアに対し、店主は更に詰め寄る。


「えぇ〜!どうしよっかなぁ・・・!」


「教えろよぉ〜!俺とお前の仲だろぉ〜?」


 男はそう言うと、セレアの体をくすぐり始めた。

 足を優しく撫で、首筋をさすり、腕を包むように一巡する。


「アハ!アハハハ!分かった!分かったってばぁっ!くすぐらないでぇっ!アハハハッ!」


「さぁ、セレアよ答えるのだ!どこに金を使っている!?」


「いやぁ・・・恥ずかしいんだけどなぁ・・・耳貸して。」


 セレアはそう言うと、他の人に聞こえないように男を手繰り寄せた。

 耳に唇を当て、ゆっくりと囁く。こうすれば、他の人には聞かれない。


「実はね・・・。」






「えぇっ!?"孤児院に寄付"!?」


「あぁっ!言わないでよぉっ!」


 想像の斜め上を行く用途に対し、店主は思わず声を上げた。幸いな事に、他の誰にも聞かれていないようだ。


「よ、よかった・・・他の人には聞かれてないわね・・・。」


「いやいや!聞かれて困ることなんてないでしょ!」


「慈善家扱いされたら恥ずかしいじゃない!」


「いや!だって慈善家じゃん!」


 セレアとしては、孤児院への寄付を他人に知られるのは恥ずかしい事のようだ。

 普段から"下品な娼婦"としての立ち振る舞いを徹底している彼女にとって、まるで"心優しい慈善家"のような扱いをされるのはむず痒いらしい。


 しかし店主としては、あまりにも立派な慈善活動に対し、感心せざるを得ない。

 カジノやホストなど、歪んだ金の使い方しか想像していなかった彼としては、罪悪感すら湧いてくる。


「な、なんか・・・すまない・・・お前の事を誤解してたよ・・・。」


「もうっ!こうなるから言いたくないの!」


 セレアとしては、自分に対する印象を変えて欲しくない。

 あくまでこれは"偽善"であり、自分の自己満足であると自負しているからだ。


「教団は怪しい組織よ・・・勢力をドンドン拡大して、人を殺したりしてる。

 そんな組織から貰ったお金を、私は使いたくないだけ。だから、せめて子供たちの救いになれば良いなって・・・。」


「いやいや!やらない善よりやる偽善だよ!立派な行動だと思うよ!?」


 世間一般からすれば、セレアの行動は慈善活動に他ならない。

 方法こそ"卑猥"だが、貴族から金を巻き上げて子供たちを救っているのは義賊と変わらない。


「子供を助けたいから、教団に手を貸す。ただそれだけなのよ。

 オルゼの人たちは教団を支持してるけど、他の町だとそうじゃない人も多いのに・・・。」


「もっと誇らしくすれば良いんだよ!いっつも自信満々なセレアちゃんらしくないよ!」


「う、うん・・・。」


「それに、娼館の給料も寄付してるんだろ?

 なら、子供たちに肩入れしてる訳じゃなく、あくまで財産を寄付してるだけじゃないか。

 その過程に教団がいるだけで、大切なのは寄付をしてる事実だよ。」


「ま、まぁ・・・そっか。でも、寄付をした事に関しては、あんまり褒めないで欲しいわ。本当に、ただのエゴだから。」


「変なところで謙虚だなぁ!」


 セレアとしては、これまでの自分の行為を慈善活動とは決して思っていない。

 見返りを求める気も、慈善家として称えられる気もない。ただ、困っている子供たちを助けたかっただけなのだ。


「孤児院に寄付ってのは、やっぱり自分と重なるからかい?」


「まぁね・・・。"一流"になれた今でこそ笑い話だけど、当時はそこそこ怖かったしね。

 ・・・あぁ!勘違いしないでね!あなたの事を恨んでたりはしないから!」


 セレアが〇〇歳の時に、両親は隣り合う世界へと引っ越しを行なったのだ。

 彼女はまだ幼く、旅には耐えられないと判断した両親は、無責任にも彼女を置き去りにした。


 その翌朝、町を歩いていた彼女は捕らえられ、気が付いたらオークションに賭けられていた。

 それからはただひたすら、一流になる為の修行と教育の日々である。


「嘘じゃなく、本当に感謝してるわ。今となっては、この仕事以外考えられないしね。

 だからこそ私は、プロとして誇りを持ちたいの。勿論、他人から見れば嫌な仕事かもしれないけど、好きでやってる事を堂々と言えるようになりたい。

 その為にも、若い子たちが嫌々務めるような職にはしたくない。ただ、それだけなのよ。」


「セレアちゃん・・・立派になったねぇ・・・。」


 教育係としては感涙物である。

 彼女は自分の生き方に美学を持っている。そして、"一流のプライド"を顕示している。

 もはや自分の教え子とは呼べないほど、遥かな高みへと上り詰めていた。

 娼婦だけでなく、人として"完成された女"となっていたのだ。


「私の力じゃないわよ。支えてくれたみんなのおかげ!・・・勿論、産んでくれた両親にも感謝しなくちゃね!」


「うぅっ・・・!そうだねぇっ・・・!」


「ちょっ、泣かないでよっ!真面目な顔して話したけど、理由の大半は"子供が好き"ってだけなんだから!

 男の子も女の子も、自分の意思で未来を決めれるようになって欲しい。ただ、それだけなのよ。」


「いや・・・ほんとに・・・もう・・・なんて言ったら良いか・・・グスッ・・・。」


「じゃあ、そろそろオチを言いましょうか・・・。」


 延々と泣き続ける師匠に対し、痺れを切らしたセレアは驚愕の真実を述べた。


「寄付した孤児院を出た子が、この前ウチに来たのよ。それも、1人や2人じゃなく数十人で。・・・なんて言ったと思う?」


「なんて?」






「私達も一緒に働きたいです!って・・・。」


「・・・ダメじゃん!!!」


「だから言ったじゃない!!!」


 早い話、彼女は自らの意思に反して、"憧れの存在"となってしまったらしい。

 自分のようになって欲しくないと思い、彼女は寄付をした。そのはずが、"彼女のようになりたい"と思う女性を生み出してしまった。


 これでは失敗どころか、むしろ逆効果である。

 店主の涙は一瞬で吹き飛び、爆笑に包まれている。


「で?どうなったんだよ!?」


「取り敢えず、見込みの無さそうな子は帰らせたわ。だけど、この町に住む事にしたらしいの。

 カジノで、ダンサーやバニーガールとして働く子が多いらしいわね。」


「見込みのありそうな子は?」


「オーナーが面接をして残った子ね。今は修行中だけど、今年にはお店に出るかも。」


「そりゃめでたいな!みんな楽しんでるかい?」


「・・・そうじゃなきゃ、あの面接には受からないわよ♡」


 店主は暗に察した。

 セレアは、一流になれたからこの性格になったのではない。"この性格だから、一流になれた"のだと。


「何事も楽しむのが一番よ♡人生は一度きりだからね♡」


 酔いが完全に回ったセレアは、先ほどのクヨクヨとした調子が消え、本調子を取り戻したようだ――。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「そういえば、セレアちゃんって子供好きなんだ?なんか意外だなぁ!」


「ウフフ♡子供が嫌いな人なんて居ないわよ♪特に女ならね♡」


「いや!そうじゃない人も多いと思うぞ?」


「そうかしらねぇ・・・♪」


 セレアは段々と、頭が回らなくなってきた。

 気が緩くなり、表情もフワンフワンと浮いている。

 彼女を茶化したくなった店主は、この隙をついて畳み掛けていく。


「あっ、もしかして、子供が好きってそういう・・・?」


「違うから!ショタ◯ン的な意味じゃないから!」


 店主の発言の意味を理解したセレアは、慌てて否定する。

 流石にこれを肯定する訳にはいかないのだ。


「やっぱり、子供には手を出さないよねぇ?」


「当たり前よ!〇〇歳より下の子には、手を出してないわ!」


 セレアは、まんまと店主に嵌められた。

 素面であれば、絶対に気付くような誘導尋問だ。しかし、今の彼女は判断力が低下している。


「ん?〇〇歳より・・・?」


「何回か、魔が差しちゃって・・・♡」


「何回かある時点で、魔が差したとは言わんのよ。」


 正論をぶつけた店主だが、更に深い話を聞きたくてウズウズしている。


「いや!でも私からじゃないから!」


「というと?」


「なし崩し的に・・・///」


「う~ん・・・これはショタ◯ン。」


「いや!違うから!そうじゃ無いからぁっ!」


「まぁ、そう言うのも有りなんじゃないか?息抜き的に。」


「ま、まぁ・・・アリかなぁ・・・♡ちゃんと合意取ってるしねぇ・・・♡」


 セレアの中で、限りなくアウトに近いアウトが、アウト寄りのセーフに変わった。

 嫌がる事はしていないし、間違いを起こさないように正しい知識も教えた。

 ならば、大人として教育的な事を行なったと自負できる。


「それとは別に、可愛いと思うわよ!純粋にね!」


 ただやはり、寄付とこれとは話が別である。

 決して邪な心持ちで子供を支援しているわけでは無い事を、セレアは再三に渡って念を押した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 その後、店主との会話とスキンシップは、色々な意味で盛り上がった。

 酔いと興奮が全身に回り、セレアの脳内はピンク色の欲求で満たされた。


「休憩室、使ってくかい?」


「一緒にね♡」


「了解!」


 セレアは、店主の肩にもたれ掛かるようにして、従業員専用の休憩室へと連れ込まれた。

 鍵とカーテンを閉め、外からの邪魔をシャットアウトする。内側から開ける鍵は店主が持っており、セレアは完全に閉じ込められた。


 その後、二人の間に何があったのか。語るまでもないだろう――。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 1時間ほど経って、セレアは休憩室から出て来た。

 頬の赤みは元と同じ程度にまで戻り、足取りも安定している。どうやら、酔いはかなり覚めたようだ。


 問題は店主の方だ。

 足元がふらついており、ゲッソリと疲れている。"休憩"室から出てきた人間とは、到底思えない。


「せ、セレアちゃん・・・俺も若くないんだ・・・流石に、30回はキツイよ・・・。」


「なかなか本気を出せる相手がいないから、いろいろと溜まっちゃって・・・。」


「ま、まぁ、セレアちゃんが満足できたなら・・・それで良いかな・・・。」


 どうやら、淫魔の本領を発揮してしまったらしい。

 セレアが本気を出すと、並大抵の人間は死んでしまう。その点では、店主は生きているだけで凄い。


(この人も良い線行ってるけど・・・もう少し、スタミナが欲しいのよね・・・。

 昔と今じゃ、主導権が逆転しちゃったわ・・・。)


 当時の彼女は今よりもかなり弱かった事もあり、加えられた教育が、少しだけ怖かったのを覚えている。


(力も全然無かったし・・・まだ慣れてなかったもの・・・。楽しさと怖さが、良い感じに混ざり合ってたわね・・・♡)


 直近の彼女が行為そのものに恐怖を感じる事は、残念ながら一切ない。


 首を締められても、腹を殴られても、手足を拘束されても、全てが茶番に過ぎないのだ。

 10代の半ばで魔族として覚醒した彼女の女体は、人間を超越した腕力と魔力を持っている。

 ならば、どんな状況でも"逃げられる"と言う安心感が、纏わり付いてしまう。


(まぁ、自由に動けないのも嫌だから、難しいところよね。)


 かと言って、完全に支配されたいわけでもない。

 自由に世界を歩きたいし、様々な人と出会いたい。その矛盾した願望が、彼女を難しくさせている。


 その末に、教団に入るという結論に至った。

 死の危険を伴う任務で、不足しているスリルを補完する。そして任務として様々な場所を移動する中で、様々な人と出会える。まさに、それは天職だった。


「今夜はどうするんだい?泊まりたいなら部屋を貸すけど?」


「う~ん・・・久しぶりに帰ったし、夜のパトロールでもしようかしら?」


「通報されない程度にしとけよ~?」


「まぁ、何かあっても賄賂を渡せば良いわよ!色々とコネもあるしね!」


 ここだけの話。セレアはオルゼの警官の大半と関係を結んでいた。

 また、娼館も警察と癒着しており、この町の実質的な支配者は、町長ではなく娼館のオーナーであった。


 町の重要な産業である風俗業。その斡旋を一手に担う彼には、莫大な富が集約している。

 このオルゼはトップから末端に至るまで、彼には頭が上がらない状態なのだ。その影響力は、正に"マフィアのドン"と言っても過言ではない。


 オーナーとも、半ば"愛人関係"にあるセレア。

 しかしその事は公言せず、権威として振りかざす事もない。


 彼女は自分を、"下品な売女"であると自虐するが、その実態はただの"お人好し"である。

 繁殖の欲求は生物の本能であり、そこは人の評価を落とす材料にはなり得ない。

 そう考えると彼女は、この町で一番の純粋な心を持った女性と捉える事も出来る。


「そろそろ行くわね!今日はありがとう♡」


「おう!いつでも来てくれよ!」


「それじゃ!夜のパトロールに・・・・・・いや、行かないわ。」


「んっ?どうしたんだ?」


 急な方向転換に、店主は驚いた。

 セレアの視線が一点に注がれ、微動だにしない。


 酒場の隅に置かれたダーツの的。

 そこには、満点を連発する投擲を行い、ハイスコアを簡単に更新した男の周囲に、大きな人だかりが出来ている。


 セレアほどの美女が肌を晒したのに、誰一人それを目撃していないのは、考えてみれば不思議な話だ。

 彼らの注目が、全てダーツに寄せられていたのなら、筋は通るだろう。


「あの人・・・なるほどね♡」


 人だかりの中心に立つ男を注視したセレアは、ある事に気がついたようだ。


「どうかしたのかい?」


「"獲物"を見つけちゃったのよ♡色んな意味でね♡はい!これお金!ご馳走様♡」


 勘定を払ったセレア。しかし、酒代よりも金額が多い。


「セレアちゃん?ちょっと多いよ?」


「これは無理させちゃった代金よ。・・・たくさん飲ませて貰ったし・・・♡」


「こちらこそありがとう!気をつけて帰るんだよ!」


「はぁい♡師匠も、あんまり飲み過ぎちゃダメだよ!♡」


 別れの挨拶を済ませたセレアは、身支度を整えた。そしてすぐに、臨戦態勢へと入る。


 男はちょうど、店を出るところだった。

 セレアはそれを追って、背後から尾行する事にした――。


 セレア、最初はモブにする予定だったのに、あれよあれよと準レギュラーに昇格しちゃいました(笑)

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