EP16 正体 <☆>
※今回は、アルファポリス版となろう版で、描写に若干の差異があります。(10文字程度)
物語のルート分岐。大胆すぎた描写。様々な理由で、変化を持たせています。
※基本的に「両方読んでほしい場合」は後書きに、「片方を読めば大丈夫な場合」は、前書きにURLを貼ります。
気になった方は、是非読んでみてください……!
ちなみに規制の関係上、アルファ版の方が表現が性的に少し大胆です。
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https://www.alphapolis.co.jp/novel/115033031/408542049
清也は剣を腰にしまい、盾を構えた。そして、怪物に向かって全速力で走り出した。
もはや怪物には逃げる気力さえ残っていなかった。
怪物に近づくと剣を抜き、手に握っていた蛇を抜刀の勢いのままに弾き飛ばした。
そして、そのまま怪物へ飛びかかり背後から刺し貫こうとした――かに見えた。
清也は剣も盾も投げ捨て、背後から怪物を抱きしめた。
怪物はもはや、弱々しく暴れることしか出来ない。
そして目を固く瞑り昨日までの日々を思い起こしながら、こう叫んだ。
「戦いは終わった!もう充分だろ!目を覚ましてくれ!」
清也は悲痛に叫びながら目を開けた。
清也の腕の中には……怯え切った”花”がいた。
泣きながら、清也の腕を引きはがそうと、力の限りもがいている。
「嫌ッ!やめてよっ!!放してぇっ!」
花はどうやら、まだ試練の怪物に襲われていると思っているようだ。
清也は人生で初めて、実際に人が命乞いをする姿を見た。
「しっかりしてくれ花!僕だよ、清也だ!」
清也は花の事を抱きしめたまま、必死に呼びかける。
すると、花は急に抵抗することをやめ、震えながら自分を拘束する者へ振り返った。
「せ、清也!?あいつは?あいつはどこに行ったの!?
あの……そんなに抱きしめると……おっぱいが……///」
花は状況が飲み込めずに混乱しているが、取り敢えず正気は取り戻したようだ。
どうやら花は、清也がさっきまで戦っていた相手だと気づいていない。
「うわぁっ!ごめん!そんなつもりじゃ……!」
清也は抱きしめている自らの手先が、見事に花の胸部にめり込んでいることに気が付いた。
呼びかけるのに必死で先ほどは気付けなかったが、両手の指全体に柔らかい感触が広がっている。
手が沈み込むようなフックラとした弾力から、花の胸が見た目よりかなり大きい事を清也は悟る。
清也にそんな下品な意図は無かったが、罪悪感に押しつぶされそうになり、瞬時に謝った。
「もしかして、あいつを倒したの!?
三日間で見違えるほど強くなったよね……もう、私より強いかも?」
花は死の恐怖から解放されたおかげか、笑顔に満ち溢れた表情になった。
事実を伝えれば、この笑顔は失われ、もう口を利いてくれないかも知れない。
それは清也にしても悲しいが、それでも伝えなければいけないと意を決した。
「落ち着いて聞いてほしい……。さっきまで君が戦っていたのは……”僕”だ。」
それを聞いた花の顔は、恐怖で引きつった。
そして恐怖と失望の混じった声で、清也を詰問する。
「まさか魔物に変身して、私を殺そうとしたの?……それとも、まさか襲おうとした?」
花は清也の目的に関して二つの考察を建てたが、清也には二つの違いが分からなかった。
「違う違う!そうじゃ無い。きっと、僕たちは何かにお互いを怪物に見えるようにされたんだ!」
そこまで言って清也は気付いた。
「そうか!あの薬だ!あれは高山病の予防薬なんかじゃ無い!遅効性の幻覚剤だ!」
清也はハッとしたような表情で言い切った。
「という事は……私を殺そうと思ってたわけじゃ無いのね?」
花は、清也からの確実な意思表明を望んだ。
「うん。君が幻覚剤の作用で怪人に見えたんだ……。ごめん!」
「それならいいの……こちらこそ疑ってごめんなさい!
それにしても……人間だけを対象にした幻覚を見せるとは……かなり高度な技術が必要なはず。
この世界にそんな技術があるとは驚きだわ。それとも特殊な素材が?いや、それでも……。」
花は完全に自分の世界に入ってしまった。こうなっては手がつけられない。
とりあえず誤解は解けたようなので、清也は花の手を引いて下山することにした。
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麓まで来ると、試験官の男が待っていた。
「2人同時……つまりは合格か。え?お前たちに何をしたか知りたいのか?
……まぁ、慌てるな。テントまで来い。そしたら教えてやる。」
男はそう言うと、清也達を先導するように、ゆっくりと歩き始めた。
テントに着くと中には家具とベッド、そしてコンロもあった。
机の上には地図と写真が乗っている。
「こいつは見なくていい。」
そう言うと、男は写真は伏せてしまった。そして、代わりに地図を机の上に乗せた。
「まず、お前たちに飲ませたのは幻覚剤だ。これを見ろ。ここが看板のある分かれ道だ。
実はふたつの道は”どちらも山頂へ繋がってる”。そして山頂に着いたら、看板があるだろ?
もし指示の通りに帰らなきゃ、先に上についた奴が早く下山しすぎて不合格さ。実は狼煙は山中では見えない。
指示に従えば、下から来たもう片方と鉢合わせで殺し合うって寸法さ。」
あっけらかんと言った。しかし殺し合わされた二人は、そんな事では納得できない。
特に、清也は人生で感じたことが無いほどの猛烈な怒りを覚え、剣を抜いた。
そのとき、清也の瞳が一瞬だけ”琥珀色の強烈な輝き”を放ったーー。
「何が”殺し合うって寸法”だ!ふざけるな!もう少しで俺は花を殺すところだったんだ!げほっ、げほっ……。」
口調が荒くなり、普段の清也とは似ても似つかない。
穏やかに暮らしてきた24年の人生。これまで出した事の無い強烈な怒号に、喉が対応しきれず咳込んでしまう。
清也は剣を男に向けたが、男は刃を人差し指と中指だけで受け止めた。
清也は激昂していたので気付かなかったが、男は内心でかなり動揺している。
しかしそれでも、男は毅然として清也に喝を入れた。
「この試験は受験者の仲間との絆を試すものだ!
もし、お前が酒場で出会ったばかりの奴と受験したならば、どちらかが死んでいた!
お前たちが生き残ったのは、仲間を大切にしていたからだ!
仲間とは絶望に満ちた未来を、希望で照らす光だ!
どんなときでもお互いを助け合わなきゃならない!姿が違うだけでお互いがわからなくなるようでは過酷な冒険で生き残れはせんぞ!」
男は当然のような口調で、清也に怒号を浴びせ返す。
「黙れ!これから共に未来を共に作る仲間を奪おうとしたお前に!時代を切り開く冒険という行為を語る資格はない!」
清也は自分でも驚くほど、容易に反論が飛び出してくるのを感じる。
剣を握る手にも、段々と力が上乗せされていく。
「清也!そんなことしちゃダメ!!」
極度の興奮状態で完全に我を忘れ、男を叩き斬ろうとしている清也。
そんな彼の暴走を、現実に呼び戻したのは花の祈りだった。
握りしめた剣は、カシャンと音を立てて床に落下した。
「ご、ごめん・・。」
清也は男ではなく花の方を向いて謝ると、取り落とした剣を拾い上げ、鞘に収めた。
「と、取り敢えず……お前たちはこの試験を突破した。
俺に剣を向けたことは不問にする。よくやったな若造、合格だ。」
男は慌てたように言うと、振り向いて書類を書き、2人に渡した。
「もう良い、行け。冒険がお前たちを待ってるぞ。」
そう言われて清也と花はすぐにテントを出た。草原は既に、夕焼けで照らされているーー。
2人が遠ざかったのを確認してから、男は冷や汗を流しながら呟く。
「アイツ……いや、まさかな……。そんな事、ある訳無い……。だが、アイツなら今度こそ……。」
他に誰もいなくなったテントの中で、男は写真を立て直した。
そして古き日の思い出をカンテラで照らしながら、懐かしそうに眺めた。




