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EP161 脱出


「めぼしい物あった?」


 書類棚を漁り終えた征夜は、ミサラに尋ねた。

 結構な量の書類が入っていたが、大半は事務連絡に関する物であった。

 各地にある支部の予算や、新規雇用した団員の履歴書など、重要度が低い物が多い。


「こっちもビジネスに関する本とか、話術や帝王学の書物だけです。・・・あれ?奥に何かある・・・。」


 膨大な量の本が収められた棚を探っていたミサラは、ギッシリと並べられた本の奥に、何かが隠されている事に気が付いた。

 手前の本を払い除けて、隠すように守られたその本を引っ張り出していく。


「これは・・・日記でしょうか?」


「その日記は奴の物だと思う。・・・取り敢えず、それは外で読もう。そろそろ引き上げ時だ。」


「たしかに、そろそろ会議が終わる頃ですね。」


 ミサラと征夜は、早急にこの場所を脱するべきだという見解で一致した。


 ミサラはともかく、征夜はお尋ね者の身であり、一般団員には分からなくても、サーイン及びラドックスなら間違いなく気付く。

 何はともあれ、ラドックス暗殺を狙う中で、彼らと鉢合わせするのはまずいだろう。


 二人は慎重な足取りで歩み出し、暗くジメジメとした教団のアジトを抜け出した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 アジトを抜けると、時刻は正午を回ったところだった。

 照り付ける日差しが密林を温め、木漏れ日の作り出す温和な景色が、視界を優しく包み込む。


「船出には丁度いい天気だね!」


「風も強くないし、島を出るなら今ですね!」


 二人の見解は一致していたようだ。

 この島で出来る事は、すべてやり尽くした。アジトでの捜査は終わらせたし、教祖の暗殺は不可能だと分かった。

 出来る事がほかに無いのなら、この島に居る意味も無い。むしろ、やるべき事は全て、大陸の中にあると分かったのだ。


「アジトに忍び込んで、書斎を調べるような人物・・・。

 それはきっと、教団を潰そうとしている人に違いない!」


「まずはその人たちと合流し、保護する必要が有りますね!」


「あぁ!きっと助けを求めているはずだ!」


 二人の旅の方針は、アジトに侵入した二人組と合流する事に決定した。

 しかしそこで、征夜は思い出した。自分には他にも、大切な目的が有る事に。


「・・・あぁっ!!!」


「うわっ!?どうされましたか!?」


「ソントに帰らないと!約束に間に合わない!!!」


 既に、花達と交わした再会までの日数が、3週間を切っている。

 この島からソントまで、果たして3週間で到達できるだろうか。それは、かなり怪しいだろう。


「お仲間さんですか?」


「あぁ!ソントに帰らないと!どうにかして間に合わせたいけど、何か方法はあるかな!?」


 征夜は正直、かなり焦っていた。

 約束の日に間に合わなければ、花は自分を死んだと思うだろう。

 そうなってしまうと、再会の確率は限りなく低くなる。


「3週間でソント・・・では、こうしませんか?

 私が大佐に、”身体強化魔法”をかけます。そして、大佐が私を抱えて走るんです。」


「なるほど身体強化・・・たしかにそれなら、馬では通れない場所を生身で抜けられる・・・。大幅なショートカットが可能だ・・・!」


「はい!その通りです!ただ、これは”赤魔法”なので、途中で源魔力を補給する必要が有ります・・・。

 教団本部にある魔法陣なら、それが可能です。ですから、一度オルゼを経由していきましょう。」


「分かった!君に従うよ!」


 征夜には”源魔力”という言葉がよく分からなかった。

 しかし、赤魔法には本人の魂を用いるという事が分かっているので、そう言った類の物であると解釈した。


「まずは船だ!桟橋に行こう!」


 征夜はミサラと共に、港へ向かって駆けだした。


~~~~~~~~~~


 欝蒼と茂るジャングルを抜けると、石段の回廊が見えて来た。

 その奥には青く広大な海が広がっており、手前には焼き尽くされた港町がある。


「ここは・・・大佐が私を助けてくれた・・・。」


「あぁ、あの港だ。この近くには、僕が借りた小舟が残ってる。それに乗って大陸に戻ろ・・・・・・ん?」


「どうされましたか?」


 征夜は突然、遠方に目を向けたまま静止した。

 その視線は一手に集約し、何かを見つめている。


「アレは・・・”アラン”さん!?」


 征夜は思わず目を疑った。

 波打ち際に佇んでいる薄着の男が、師の親友である中年に見えたのだ。


 そして、それは当たっていた。


「アランさ~ん!!!」


「ん?・・・おぉ、スケマサの所にいた坊主か。」


 驚愕と共に駆け寄って来る征夜に対し、男は平静な返事をした。

 彼は確かにアランであり、右手に小さな水晶を抱えている。


「こんな所で何してるんですか!?」


「野暮用だな。お前は・・・教団の支部を調べに来たってところか?」


「え、えぇ・・・まぁ・・・。」


 あまりにも淡白なアランの反応に、征夜は調子を狂わされてしまう。

 まるで最初から、彼が来ることを分かっていたかのようだ。


「このあたりの海竜は、粗方片付いたらしいな。ここに来る途中で、一頭も出くわさなかった。」


「はい、大規模な掃討作戦が有ったらしくて・・・。」


「なるほどなぁ・・・なら、もうここには・・・いや、しかし・・・。」


「どうしました?」


「いや、何でもない。話す事が無いなら、一人にして欲しいのだが。」


「す、すいません!失礼します!」


 ここに居ては、アランの邪魔になると征夜は察した。

 久しぶりに会ったからと言って、積もる話があるわけでは無いのだ。ならば、これ以上ここに居る意味も無い。


「大佐、あの人は誰ですか?」


「ただの知り合いだよ、それより船を探さないと。」


「そうですね!」


 征夜は後ろに控えていたミサラと共に、再び自分の小舟を探す作業に戻った。


~~~~~~~~~~


 二人が居なくなった後、アランは右手に抱えた水晶玉に語り始めた。

 淡々と何かを報告するように、誰かと話している。


「こちらユニット3。本部か?」


「こちらユニット8451。本部です。」


「目標の所在は不明。

 おそらく、既に他の組織の手に渡ったと思われる。

 今後の動きについて、本部の指示を仰ぎたい。」


「・・・電話を代わった。ユニット2だ。アラン、どこの組織に渡ったのか分かるか?」


「分からん。だが、十中八九アブソリュートオリジンだろう。」


「・・・仕方がない。君は"選定の剣(・・・・)"の探索を頼む。それと同時に、"王の器"もな。」


「分かった。一度、本部に帰還する。」


 本部への報告を終えたアランは、水晶玉をポケットに仕舞い込んだ。

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