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EP14 接敵

 

 登山道はよく整備されていて、乾いているため歩きやすい。それは、とても試練の道だとは思えなかった。

 通常なら居る筈のゴブリンやスライム、角うさぎなどのモンスターも、一匹もいなかった。

 しかし、2人とも決して油断しなかった。これが嵐の前の静けさだと分かっていたからだ。


 しばらく進むと分かれ道があった。

 看板が置いてあり、こう書かれている。


―――――――――――――――――――――――――


 〜試練に挑みし者たちよ〜

 選ぶが良い。二つの道のどちらかを。

 一方が絆の大樹へ繋がり、一方が繋がってはいない。

 右の道は道が険しく。

 左の道は歩みやすい。

 友を真に信ずるならば、やるべき事はただ一つ。


―――――――――――――――――――――――――


 清也は納得した。片方が降りて来れば良いと、念を押された理由。

 そして高山病の薬をわざわざ飲ませたのは、ここで選択を迫るためだ。しらみつぶしに二つの道を行けば、時間切れで高山病になってしまう。


 その事は、花にもわかっていた。


「二手に別れよう」


 清也がいうと、花は無言で頷いた。


「僕が右に行くよ。先に山頂についたら、遠慮なく下山してくれ。」


 清也は花を安心させるために、笑顔と共に付け足した。

 その表情を見た花は、嬉しそうに笑うと同時に少し恥ずかしそうになった。


「け、険しい方の道行ってくれるんだね……。ありがとう……。」


 花は少し俯くと、モジモジと体を揺らした。

 真っ赤になった顔を見られたくなかったからだ。


「一人で大変そうなら、遠慮なく逃げていいからね。

 もし棄権になっても、別の試験を受ければいいから気にしないで!」


 清也は実際のところ、花と旅さえできればそれで良いと楽観視していたので、この発言はフォローではなく本音だった。


 彼は特殊な環境で育って来たため、精神年齢が年齢と対応していない。

 そのため、並の成人男性であれば言えないような言葉も、躊躇なく言うことが出来る。

 自然な流れで繰り出される下心の無い甘い言葉は、花の心を的確に穿っていく。


「うん、分かった。気を付けてね!」


 花と清也はお互いを安心させるように、とびきりの笑顔を作って別れた。


 2人には分かっていた。ここからが本当の試験なのだとーー。


~~~~~~~~~~~~~~~~


 右の道は警告された通り、さっきまでとは異なり険しかった。足場はぬかるみ、穴ぼこだらけで、斜面も急だった。

 何十分も同じような道が続き、清也はバテて立ちくらみがしてきた。視界が歪み、肺に空気が入らない。


「まだなのか、山頂は……。」


 倒れ込みそうになりながらも歩き続けると、入り組んでいたさっきまでの道とは異なり、足場がしっかりと固まった、(ひら)けた場所に出た。

 奥を見渡すと、巨大な木が一本だけ立っていた。


「あれか!」


 清也はあの木こそが絆の大樹であると察した。駆け寄ると、確かにハート型の葉が付いている。


 それをもぎ取ると、すぐに振り向いて下山し始めた。まだ狼煙は上がっていない。

 清也は自分の方が先に着いたのだと知り、少しでも早く下山した方が、花の帰りが楽になるのではないかと思った。


「なんだ!楽勝じゃないか!」


 晴れやかな声で清也は言った。足取りもかなり軽くなった。


 帰ろうとすると、また分かれ道があり看板が立っている。

 よく見るとそこはさっきの開けた場所だ。


――――――――――――――――――――――――


 〜絆の証を手にした者へ〜

 帰るまでが試練である。

 この先に待ち受けるのは、真の試練を与えし者。


 友と築いた信頼が、希望の未来を照らし出す。

 初めに通ったその道と、同じ道を行くがよい。

 右を通ってきたなら右を、

 左を通っていたなら左を、

 無限に彷徨いたくないなら、そうする事が賢明だ。


――――――――――――――――――――――――


 行きには気付かなかったが、看板の詩は一定のリズムで書かれているようだ。

 歌のつもりで書いたのかも知れないが、作詩したやつは才能が無い。と清也は思った。


「まぁ、迷って死にたくはないし……。」


 清也は大人しく看板に従うことにした。


 目的を達成した後だからか、行きよりも歩きやすく感じる。

 ある程度進むと、真っ直ぐな道に出た。

 見通しがよく、雑木林の向こうの山道まですべてが見える。


(……ハッ!前から来る!)


 清也は視界に移り込んだ、登山道の足場に沿うようにして歩み寄って来る影に、敏感に反応して腰に刺した剣に手を置いた。




 それは、これまでに見たこともない怪物だった。頭は緑で、仮面を被ったような顔をしている。

 棒のような(ヘビ)を片手に持ち、体は青一色だった。背丈は清也よりも少し小さいくらいだ。


「止まれ!」


 言葉が通じないと分かっていても、その異様な見た目に、清也は叫ばずにいられなかった。


 するとその怪物は奇声を上げて飛び上がり、蛇を清也に向かって振り下ろした。

 既に死んでいるのだろうか、蛇はピクリともしない。


 清也は咄嗟に、盾でそれを防いだ。

 そして、そのまま隙を晒さぬように、盾でできた死角から怪物を斬り上げた。


 冷気が空気を白く染める。

 当たったかに見えたが、実際は体を捻って避けていたようだ。そして、そのまま蛇で殴りかかってきた。

 今度は避けられなかった。蛇は清也の肩に当たり、鈍い痛みが走る。

 やはり蛇は死んでいるのだろう。噛まれる事はなかった。


 三日間殴られ続けてきた清也にとって、この程度の痛みはなんて事無かった。

 後ろに飛び下がり、距離を取る。


 すると相手も蛇を下向きに構えた。隙のない構えだ。

 ひょっとすると武術の概念があるのだろうか。恐らく、以前の受験者から学び取ったのだろう。




 分かってはいたが、この"試練"は想像よりも手強そうだ。清也は一層、気を引き締めた。

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