表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/251

EP8 渓谷


 清也は渓谷へと降りるための梯子を無我夢中で駆け降りていく。

 その途中で、梯子が壊れて使えなくなってしまったが、構わずに血の海になっている渓谷の中心へと、一目散に走り出す。


 息は切れ頭はジンジンするが、そんなことどうでも良かった。


 自分にとって初めての仲間。

 前世では金勘定抜きで付き合ってくれる友は、ただの1人もいなかった。だからこそ、死なせるわけにはいかなかった。


「フラウーッ!死んじゃダメだぁっ!」


 近寄って初めて傷を見るが、かなりひどい。

 後頭部を強く打って、大量に出血している。全身を打撲し、口と鼻からも血が垂れている。

 元いた世界でも、この傷ではきっと助からない。


「くそ!くそくそくそ!何か無いのか!」


 清也が必死になって周囲を周囲を探ると、杖があった。

 これなら彼女を治せるかもしれない。そう思い振りかざしたが、反応がない。

 

 たしか、フラウが調合した魔法は5回分。そしてーー。


「僕が切られたのも5回だ……。」


 そう、彼女は回復魔法を既に使い切っていたのだ。

 

「僕が弱かったせいで!くそ!」

 

 何か無いかと思い清也は必死に、彼女のバッグを失礼だと知りながらも探った。しかし小さな種以外は、何もなかった。


 袋には観賞用とかいてあり、魔法には使えないと注意書きがある紙が貼ってある。

 清也は万策が尽きた事を、絶望を以って悟る事になった。




 しかし、遂にフラウが呼吸をしなくなった時、それは起こったーー。


 ガツンッ!


「痛ぁっ!?」


 彼の頭上に、何か硬い物が落下してきた。

 頭頂部の激痛を耐えながら、落下物を取り上げて見ると、それは青い"星型の鉱石"だった。


 いや正確には、先ほどまでは青色だった。今は赤色、いや緑色だ。次々と色が変わる。


「これはまさか!エレメンタルストーン!?こんな物がどうして上から……。」


 頭上を見上げても、鉱石が取れそうな場所はどこにも無い。だからこそ、上から落ちてくるはずがないのだ。

 だが、これは紛れもなくエレメンタルストーンだった。そして清也は、瞬時に図鑑での解説を思い出す。


「工夫して使えば瀕死の重傷を治せる!」


 そしてその"工夫"は今、目の前に転がっているーー。




「杖だ!この杖を使うのか!」


 自分でも魔法が使えるのか、そんな事は分からない。

 しかし成功を祈りながら、エレメンタルストーンを砕く。砕いた鉱石の粉末を、杖の持ち手部分に流し込み、魔法の生成を待つ。


 そしてーー。


「頼む!効いてくれ!」


 そう叫んで、清也は杖を彼女に向けて振りかざした。すると、彼女の体が黄金色に輝いたーー。




 次の瞬間、彼女はパッチリと目を覚ました。




「あれ?清也さん。ここは一体?」


 彼女の声には苦痛の色は一切無かった。


「ここは渓谷だよ。君は袖を掴まれて落ちたんだ。トロッコと一緒に。」


「ああ!思い出した!私、頭を打って……死にそうなほど体中が痛くて……こ、怖かったよぉ……!」


 フラウは泣き出してしまった。

 無理もない、通常なら死んでしまう傷を負って、激痛に耐え続けたのだから。


「で、でも、どうして生きてるんだろう。私、傷もほとんどないようだし……。」


「エレメンタルストーンを使ったんだ。君の杖と組み合わせて。」


「本当にありがとうございます!感謝してもし切れません!

 でも、それって貴重な鉱石ですよね……それを、私なんかのために……。」


 生まれて初めて、お世辞でなく人に感謝された気がする。

 言葉では言い表せないほど、気分が良くなって来る。


「君は大切な仲間だ。仲間より貴重で大切な物なんて、この世にあるわけないだろう?」


 清也は気の利いた事を言ってみる。

 それを聞いた彼女は、更に泣き出した。そして、こんな事を言った。


「でも、エレメンタルストーンを持ち帰ったら凄い剣が作れたんですよね……。

 実は私、町に帰ったら売ろうと思ってたのですが、お礼としてこれをあげます!」


 そう言うと、胸ポケットから血が付着しても分かるほど、白く光り輝く美しい鉱石を取り出した。


「これは、一体?」


 そう言って図鑑を取り出して調べた。


 どうやらこの鉱石は"アイス・クリスト"というらしく、名前の通り"氷属性の原石"で、この鉱石から剣を作ることもできる。


「本当にくれるの!?ありがとう!」


 そう言って立ち上がったが、すぐにある事に気が付いた。

 上に登る手段がない。さっき、梯子は壊してしまったのだ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「う〜ん……どうやって登ろうかな……。」


 清也とフラウは途方に暮れる。日没も近くなり、辺りは暗くなり始めた。


「そろそろ、野犬とか狼が出て来ちゃう頃ですね……。」


 そうなってはまずい。盾のある清也はともかく、ほぼ丸腰のフラウは簡単に組み伏せられ、柔らかい体を貪られてしまうだろう。


「何とかしないと……うん……?」


 足元に、フサフサとした違和感を覚えた清也は、視線を下に落とす。すると、先ほどまで無かった苗が、地面から生えている。

 良く見ると植物の根本には、"観賞用・魔法には使えない"と書かれた紙が刺さっている。


「ジャックと豆の木みたいに、これを伝って登れたら楽だね!」


 夜が近くなり、気温が下がり始めた事で不安になって来た清也は、軽い冗談を飛ばす。

 当然だが、この苗が崖を越すまで渓谷の底で待っていたら、ヨボヨボの爺さんになってしまう。


 たが、彼女は目を輝かせて清也の方に向き直った。


「これで上に上がれますよ!」


 流石の清也も、そこまで馬鹿じゃない。この苗では上がれないと、フラウに言ったがーー。


「大丈夫です!私を信じて!」


 彼女は、清也の手を力強く掴んだ。女性特有の柔らかい肌触りが、手のひらに伝わって行く。

 そしてーー。


<原始より受け継がれし命よ!その無限の可能性の一端を私に見せて!>


 花が詠唱を行うと杖から青い閃光が走り、小さな苗は2人を乗せれるほど巨大な葉を付けて、メキメキと成長し始めた。


 彼女に連れられて葉に乗ることで、清也は無事に渓谷を抜け出すことができた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「今のは一体?」


「あれが、1日に一回の攻撃技です。植物の形や、生える向き、成長速度、その他様々な要素を操れます。

 植物が生えてないと使えないのですが、何故あそこに生えていたのでしょう……?」


「多分、君を助けるためにバッグを漁らせてもらったとき、出てきた種がエレメンタルストーンを使った魔法の余波で発芽して、ある程度まで育ったんだろうね。」


「何はともあれ、抜け出せて良かったです!」


「そうだね!君がいて助かったよ!」


「う、うん……。私も、セーヤがいて良かった……///」


 フラウはどこか恥ずかしそうに頬を赤らめた。清也には、その意味が理解出来ない。

 疲れて気が抜けているのか、気を許したのか、その両方なのか定かでは無いが、フラウは敬語を使うのをやめている。


(それにしても、あれほど凄まじい技だったとは……。凄い仲間を見つけたな!!)


 清也は今後の冒険が、更に楽しみになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ