EX 七光り
一つの事故から始まった数奇な人生。
一組の男女を縛りつける運命の鎖。
能力も社会経験も無い青年が挑む、一世一代の大冒険。
今、悠久の時を紡ぐ神話が、全宇宙を巻き込む巨大な運命が、人知れず始まろうとしている――。
この旅を始める前に、自分の事を思い出してみよう。
名前は"吹雪征夜"。かつては大企業の御曹司として、今とは違う名で、違う人生を生きていた。
父の名前は吹雪悠王、母の名前は吹雪冷奈。
自分で言うのは自慢のようで嫌だが、どちらも良い親だったと思う。
それに引き換え、当時の自分を振り返ると、絵に描いたような"ボンクラ"だった。
国内最高レベルの私立大学、慶田大学に幼稚園から入学。当時は知らなかった事だが、今にして思うと完全な"裏口入学"だった。
同級生の中でも、常に最下位だった。今となっては懐かしいが、体育の授業では頻繁に泣いていた気がする。
そんな中で、何かが違うと感じたのは初等部の入学式だった。
周囲で多くの少年たちが「本当に受かったんだ!」とか、「これで勝ち組だよ!」などと誇らしげにしているのを見て、彼らが"何か"を乗り越えて来たのだと子供心に感じた。
中等部になると、流石に自覚したものだ。
自分は本来なら、こんな所に居る人間ではない。親の力だけで、ここに立っているのだと――。
高等部、大学にもエスカレーター進学。そして、父の会社に新卒から"幹部待遇"で就職。
そのどれもが、親の力によって得た結果だ。
世間一般で言う"親の七光り"を、当時の私は体現していたのだろう。
もちろん、抜け出そうと思った事もあった。
だが人間と言うのは、簡単には変わらない生き物だ。
24年も積み重ねた"怠け癖"と"非常識"は、成人して以降に変えられる程度の物ではなかった。
仕事は部下にやってもらう。そうでなければ、むしろ迷惑になる。
雑用など、出来る事だけをやろうとしても、それすら出来ない事が多くあった。
現状を変えたいと思っても、簡単には変われない。
奇跡が起きて、"もう一度人生を歩める"なら、今度こそ誰にも頼らず生きていく。
そうすれば、自分でも真っ当な人間になれる。
そんな、夢のような事を考えながら、日々を惰性で過ごしていた。
まさか、実現するとは思わなかったが――。
忘れもしない。アレは西暦2021年5月21日の事。
当時の自分は一人暮らしをして……いや、ここから先は思い出す必要もない。
今日まで生き続けて改めて思う。吹雪征夜の人生は、あの日に始まった。
そして"彼女"に出会った事は、私から退屈を奪い去った。
千年戦争、第一次統一大戦、天陰の聖戦、新宇宙覇権闘争……挙げ出したらキリが無いほど、多くの地獄を見て来た。
負けて泣いた事も、勝って泣いた事も、戦えずに泣いた事もある。
結局、戦いで得られる物など何も無かった。それが分かっていても、戦う事しか出来なかった。
それでも、願わずにいられない――。
こんな人生に意味があるなら、それを証明してみたい。
こんな自分に価値があるなら、それを"彼女"に見せてあげたい。
それだけを思って、今日という日まで生きてきた――。
※次回以降は、三人称視点で描きます!