夢
...どこだ、ここ。
気がつくと知らない場所にいた
___いや、ここは
......俺の...家......?
「兄さん」
「ッ__!」
突然、声がして後ろを振り返ると、
「___夢」
そこには妹の夢がいた。
「__お前...なんで、ここに」
突然の出来ごとに、俺は狼狽する
「『なんで』って?どうしたの兄さん」
きょとんとした顔をする夢。忘れたのか...?
「だって、お前は......」
「っ...お前は、死んだはずだろ?」
「__...そうだっけ?」
にこりと笑う夢。その顔はあまりにも白くて...
...そして、美しかった
「そうだよ!...なん、なら...」
「...俺が...××したじゃないか」
忘れもしない。
俺は二年前...妹の夢をこの手で__
精神病だったらしいが、そんなことはどうでもいい。...夢はもう居ないのだ。
あの時、気がついたら手は血まみれで
...目の前には、変わり果てた夢が居た
夢はもう居なかった。
なんで。どうして俺は夢を__
「兄さん」
「っ!」
「...私は、恨んでなんかいないよ」
「...! どうしてだ...夢」
「だって、覚えていないんだもの」
ぺろっと舌を出してはにかむ夢。
「夢...」
「...ごめん、やっぱ嘘。ちょっとだけ覚えてる」
「.....でも、恨んでなんかいない、それは本当だよ」
「...なん、で」
「だって、あの時の兄さんは普通じゃなかったもの。何か、別の人みたいで」
「『...ああこれは、本物の兄さんじゃないんだな。』って思ったの」
「だから、本物の、今目の前にいる兄さんは恨んじゃいないよ。本当だよ」
少し悲しげに、夢は笑った。
その笑顔は儚くて、
少し触れたら壊れてしまいそうだった。
「...ゆ、夢...っ ...ごめん...ごめん...!」
ボロボロと涙がこぼれた。
夢に対する申し訳なさと、また会えた嬉しさで、涙は止まらなかった
「涙をふいて、兄さん」
すっと、夢はハンカチを差し出す
「夢...」
夢はにこっと笑って、こう言った
「兄さんがしたことは確かに悪いこと。でも、大丈夫。私は恨んでいないから」
「...だから、生きて___」
___
______
_______
_________
「っ!夢...!」
ばっと飛び起きる。
薄暗い部屋。あの懐かしい、家ではない
「...夢、か...」
なんだって、こんな時にあんな夢、見るんだよ...
「見たくなかったな...あんな夢」
許して貰えた気になってしまうから
二度と許しては貰えないのに
この先のことを期待してしまうから
先なんてないのに
「はは...」
乾いた笑みが零れた。
頭を鉄格子にコツンとつける
...この先の未来なんて、俺にはない
「夢は所詮、夢だよな」
...あぁ、そういえば。
__そうだ。俺はやっぱり頭がおかしいんだな
こんなことも忘れていただなんて
...妹の名前すら、分からなくなっているのか
妹の名前は...
「...夢じゃなくて...梅だった」