地下牢に独り咲く紅蓮の百合
目が覚めると、底冷えする石造りの地下牢の床に転がっていた。
妙に遮られている視界から覗くのは、荒縄で縛った貫頭衣。貨物用に使っていた麻袋が擦り切れ古びたので、腕と頭と脚が出せるように鋏で切れ目を入れたものだろう。
ブリタニア王国農業公社、ジャガイモ(醸造用)という刻印がわざわざ入っている。
こんな服を着ている人間は見たことがない。河原に捨てられた浮浪者の遺体でも、もう少しはマトモな服を着ている……いつどこでそんなものを見たのかまでは思い出せないが。
やけに視界が狭い貌に恐る恐る手を触れる。
……金属の仮面、いや貌まで覆う兜が被せられている。手触りからして最低級の屑鉄である銑鉄。しかも継ぎ目らしき顔の真ん中部分はわざわざ溶接されている。もちろん、手触りだけで銑鉄だと分かる理由のほうはハッキリしない。
鉄格子もなく永久に光が差すこともない牢の前に、帝国の軍装をこれ以上ないほどヨレヨレに着崩した番兵がフラフラと怪しい足取りで歩み寄る。
ミーナがいま着ている麻袋の元の中身であろう、ブリタニアのジャガイモ製の醸造酒を飲みながら。
「……なあ、嬢ちゃん。いったい侯爵家はどんな大それた事をやらかしたんだ?」
「お答えしかねます。当家の顧問弁護士を要求致します」
くたびれた兵士は最低の臭い安酒を呑む。
「……うー、まずい。腸が腐りそうだ」
「腐ったジャガイモには毒があります。死にたくなければおやめなさい」
「はは、そうだな。そのうち死ぬな」
そう言ってまた緩慢な毒酒を呷る。
「親切な嬢ちゃんに、皇子殿下からプレゼントだそうだよ。ほら、開けてみな」
兵士は投げようとし、思い直して直接重い麻袋を手渡した。
麻袋には、『塩漬けの執事の首』が入っていた。
「嬢ちゃん、いや侯爵令嬢ジェルソミーナ、つまり、そういう事だ」
襤褸を纏い外せない銑鉄の兜の隙間から、深紅の雫が溢れる。地下牢の石床に一輪、小さな紅蓮の百合がひっそりと咲いた。
最初の一輪だが、最後の一輪ではない。これから世界に咲き誇る、紅蓮の百合の楽園の始まりだった。
★ え?!☆
「ここで感想をお願いしない」
と
「感想がいらない人と思われる」
って本当だったんですか!
ぜひぜひ感想と、心動かされたキャラクターをお願いします!
その軽い感想が、筆者のやる気に直結します!
これからもよろしくお願いします。