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白雪姫 5

部屋は光に包まれた。あまりの眩しさに目も開けていられなくなって、姫は目を閉じる。成功しますように、と祈りながら。


光が少しずつ収まって、姫はそっと目を開ける。魔方陣の中にいた猫たちに急いで目を向け、そして思わず「か…」と声が漏れた。



「可愛い…」



色ちがいのお揃いの服と帽子を来ていて、兄弟のような似た容姿の可愛らしい小人たちがいた。背は小さな子供ほど。自分たちの姿が変わったことが不思議なのか、自分の手やお互いを見て首を傾げている。その仕草が可愛いし、座っているだけでも可愛いし、何をしてても可愛い。


猫の時も十分に可愛がったが、小人の姿になった彼らはその上を行く。



「まぁ…何て愛らしい小人になったこと。姫の魔法は成功のようね?」



口に両手を当てて小人たちの可愛さに感激している姫の横で、継母はクスクスと笑いながら言った。



「ひめ?」



小人の一人が姫のことを見て、呟く。既に何も教えずとも言葉を話すことができるようだ。



「ひめ?」


「ひめだ」


「ぼくたちのひめさま」


「ひめさま、もううごいていい?」



姫に気付くと小人たちは、ぱっと顔を輝かせる。何人か姫の元に駆け出しそうになって、魔方陣から出るなという姫の言葉を思い出してのか、ピタリと動きを止める。


動かないように、という姫の言葉を律儀に守り、もう動いていいの?という目を向けてくる。


可愛い。ものすごく可愛い。



「は、はい。もう魔法は成功したので、動いて大丈夫ですよ」



姫がそう許可すると、小人たちは立ち上がり、姫の元に一目散に駆け寄ってきた。てってって、と軽い足音が鳴る。



「ひめさまとおはなし、できる。うれしい」


「ひめさま、だっこ」


「なでて、なでて」



一人は今まで話せなかった姫と話すことができて嬉しいのか満面の笑みを浮かべ、一人は猫の時と同じように姫の手に抱かれることを望み、一人はぐりぐりと自分の頭を姫の手に押し付けてくる。



「お義母様」


「何?白雪姫?」


「どうしましょう。この子たちが可愛すぎて私、どうにかなってしまいそうです」


「ええ。分かるわ。その気持ち」



継母は深く頷き、同意した。



「ぼくたち、こびと。ひめさま、まもる」



姫は小人たちに彼らの役割を教えると、彼らは嫌な顔一つせずに即座に頷いてくれた。自分たちの姿を勝手に変えられたことにも怒ってはいないらしく、それどころか姫と話ができるからこっちの方がいい、とまで言ってくれた。



「ひめさま、じょうおうさまになりたがってた。ひめさまは、いいじょうおうさまになる。ぼくたち、おてつだい、する」


「はたらく」


「まもる」



王に笑われてから姫は、人に自分の夢を無闇に語らなくなった。使用人にも、それなりに付き合いのある他国の姫君にも、姫は語ることはなかった。それは、彼らが信用できる人間ではないと分かっていたからだ。


それでも夢を追いかけていると、ふと誰かに自分の想いを聞いてほしい時がある。だから姫は彼らによく話をしていた。


自分はどんな女王になりたいのか、どんな国にしたいのか。猫である彼らは静かに姫の膝に座り、話をする姫の顔をじっと見ているだけだったが、きちんと耳を傾けてくれていたのだろう。



「ありがとう。とても…とても、嬉しいわ」



きちんと自分の夢を理解してくれて、応援してくれる。これほど嬉しいことはない。姫は小人たちの頭を一人一人撫でた。



「さて、小人役は決定。後は、暗殺者役ね」



継母が言った。小人役が決まれば、残るは暗殺者の役だ。悪役となる継母の手先として、姫を殺そうとする役目。小人の時とは違って今度は頼める人に心当たりがない。誰に頼むべきだろうか。



「お義母様の知り合いの方で、お願いできる方はおりませんか?」


「計画を理解してくれて力を貸してくれる人…すぐには思い付かないわね」



うーん…と二人して頭を抱える。いっそのこと、王子に一人二役をしてくれるように頼んでみるか。いや、そうなると王子の負担が大きくなりすぎる。


では、暗殺者役を計画から外すか。姫は悪役に城から追い出されて、その後無事に森の中で小人と出会う。物語の進行を考えれば、それでも不自然ではないが…。



「暗殺者がいなければ、心が綺麗な姫、という印象が薄くなりますよね。暗殺されなかったのは、殺そうとした人間が姫の人格の良さに心を打たれて躊躇ったから。そういう設定ですから。暗殺者がいなければ、命を狙われたけれど偶然助かった、ラッキーな姫君というだけです」


「そうね…それに私が悪役なら最初から自分の手で始末をしようとは思わないわね。城から姫がいなくなっていて大騒ぎが起こっている時に、妃がいないとなると怪しまれるもの。姫を殺したと満足して帰ってきたら、姫がいなくなったがお前は何も知らないのかって尋ねられる。それは避けたいと思うはずよ。だからまずは自分以外の者の手で殺そうと企てるかしら」


「なるほど…その通りですね」



やはり、暗殺者役は必要だろう。どうするべきか…と、悩む二人に



「お二方、私をお忘れではありませんか?」



と声がかけられた。二人は驚いて声の主を見る。小人たちの声ではないのは明らかだ。となると、この部屋で自分たち以外に話すことができるのは…。



「魔法の鏡さん?」



継母に紹介された魔法の鏡だった。



「私がその暗殺者役を引き受けましょう。計画のことはお妃様から伺っております。お妃様が力を貸すと決めた相手、私も可能な限り協力させて頂きます」


「ええっと…お気持ちは嬉しいのですが…」



姫は言葉を濁して、鏡を見つめる。鏡だ。喋ること以外は普通の鏡で、手も足も生えていない。


暗殺者は姫を追って森に入らなければならない。また姫を殺すためのナイフか何かも持たねばならない。協力すると言う言葉は嬉しいが、鏡に暗殺者が務まるとは思えなかった。


そんな姫の考えを読んだのか、「ふふ。人間ではない私に暗殺者などできるはずがない、そんな顔ですね」と鏡は言う。



「心配はありません。解決策はお二方がたった今、行ったことですよ。私も猫たちのように人になれば良いのです」



鏡は得意そうに言った。
















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