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白雪姫 4


「王子役は決まったのね。良かったわ」



舞踏会の翌日。姫はすぐに継母の部屋を訪ねて、昨日出会った王子のことを話した。彼女は王妃という立場上、舞踏会を抜けることは許されなかった。姫が会場から出て行ってから全く戻らなくて気になっていたようだ。



「本当は、未来の結婚相手なのだからもっと慎重に選ぶべきなのでしょうけれど…貴方は彼で良いのね?」


「はい。彼以上に自分に合う夫はいない、と確信しております」


「そ、そう…貴方が良いのなら、良いのよ」



彼女からすれば、本当にそんな頼りない夫で良いのか、と心配になるらしい。働かず、妻に仕事を任せて、自分は食ったら寝ての繰り返しの生活を送る夫。確かに言葉だけを聞けば、心配になるのも無理はない。しかし、これで良いのだ。



「これで王子役は決まりです。後は小人と暗殺者ですね」


「姫が、小人のことは心配いらない、と言っていたけれど…」


「はい。紹介しますね。この子たちです」



姫は、大きなバスケットを出した。上にかけてある毛布を外す。



「ミャー…ミー…」


「これは…猫?」


「はい。私が可愛がっている猫たちです」



姫は昔から動物が好きだった。そして、動物たちも姫のことを良く慕ってくれる。今までも何匹か動物を飼っていたことがあったが、この猫たちは特に賢い。


猫は全部で七匹いた。仲は良く、バスケットの中で皆で集まっている。姫は何匹かを優しく撫でて、バスケットの側に一冊の本を置いた。古い、ボロボロの本だ。姫が長年手入れをしていたので埃を被ったりはしていないが、お世辞にも綺麗とは言えない。



「お義母様は、聞いたことがありますか?魔法というものがこの世界には存在するのだと」



姫は、ゆっくりと語りながら本のページをめくる。そして、怪しげな魔方陣が描かれたページを開いて、継母が見やすいように本を向ける。


ページの上には、動物を人間にする方法、と癖のある字で書かれていた。



「私の夢を応援してくれる人は多くはありません。だから小人たちの役は彼らに任せようと決めていました。彼らならば、私のことを主だと慕い、手伝ってくれると思います。…といっても、お義母様もすぐには飲み込めませんよね。魔法なんて…」


「魔法…貴方も魔法が使えるの?」


「貴方"も"…?」



継母は席を立ち、後ろにある鏡に近づく。姫が首を傾げて守っていると、彼女はその鏡に手を置いて「鏡よ。鏡。魔法の鏡」と呟いた。



「はい。お妃様」


「しゃべっ…?!」



継母が触れている鏡は、彼女が呪文を唱えると言葉を話し始めたのだ。この世界に魔法があることは知っていても、言葉を話す鏡があるとは知らなかった姫は驚いて飛び上がりそうになった。



「まさか私以外で魔法が使える人がいるとは思わなかったわ。良かった。魔法が使えると知ったら貴方も気味悪がるだろうと不安だったの。紹介するわね。こちらは魔法の鏡。私の幼い頃からの相談相手で親友よ」


「初めまして、姫君。お会いできて光栄です」


「は、初めまして?」



口がないのに流暢に言葉を発する鏡に話しかけられ、姫は声が少し裏返った。漸く慣れてくると、ほぉ…と興味深い鏡を観察する。



「どのように声を出しているのですか?声帯は?呼吸はしているのですか?その鏡の中に肺があるのですか?」



鏡に近づき、ペタペタと触る。しかし、やはり口のようなものはないし、鼻もない。どうやって呼吸をして、声を出しているのだろうか。



「ふふふ。やはりお妃様から伺っていた通り、変わった姫様のようだ。私のことを気味が悪いと思うどころか、魔法の鏡の構造を尋ねられるなど長い人生で初めてです」



鏡は嬉しそうに笑った。



「この鏡、母の私に唯一遺してくれたものなのよ。母は魔法を使えない人だったから、彼女にとってはただの古い鏡だったのでしょうけれど…私にとっては違った。母を失い、一人ぼっちだった私の話し相手になってくれた大切な鏡よ」



鏡とも貴方が仲良くできそうで嬉しいわ、と継母は言った。そして、姫が持ってきた本に視線を移した。



「貴方の本はどこで見つけたの?魔法書よね?」


「城の図書館で埃を被っていたのを偶然見つけたのです。その本に書かれている簡単な魔法ならば、既に成功しています。でも、流石に動物を人間にするのは初めてで…」



姫が今まで使ったことのある魔法は、蕾の花を咲かせたり、お湯を沸かしたりといった簡単なものだ。動物の姿を変える、魂の入った器の形状を変える魔法は、本に載せられている魔法の中でも特に難易度が高いものだった。



「あら、大丈夫よ。私が手伝ってあげる。今まで一人だったから、暇でね。魔法の練習ばかりしてきたの。少しなら助けになれるはずだわ」


「本当ですか?!」


「ええ」



実は、猫たちに手伝ってもらおうと思い付いたは良いものの、ちゃんと人間の姿にできるのか不安だったのだ。失敗して、もしこの子たちに何かあったら…という不安が拭えなかった。だが、彼女が手伝ってくれるのならば、きっと成功するだろう。


姫は、継母と協力して床に魔方陣を書き始めた。複雑な形の魔方陣で、少しでも書き間違えれば魔法が違った効果を発揮し、失敗する場合がある。そのため、二人とも細心の注意を払って準備を進めた。



「さて、これで良いかしら?」


「何度も確かめましたし、間違いはないと思います」



魔方陣を書き終えたら、その中心に猫たちを置いて、自分たちは陣を外に出る。中に入れば、自分たちまで魔法にかかってしまうのだ。



「貴方たち、少しの間、この中で大人しくしてね。できるかしら?」



姫が猫たちにそう言うと、彼らは姫の言葉を理解したかのように大人しく床に座った。七匹の全員が、魔方陣から出ようとする素振りがない。猫たちの様子を見て、姫は満足そうに頷き、継母は驚いた声を上げた。



「この猫たちは人間の言葉が分かるの?」


「人間の言葉、というよりは、私の言葉だけ分かるみたいです。私の言うことは良く聞いてくれるんですよ」



これで準備は終わりだ。後は、魔力を流しながら本に書かれた呪文を唱えれば良い。



「魔法の難易度で、必要になってくる魔力量も変わってくるわ。二人で一緒にやった方が良いかもしれないわね。白雪姫、私の後に続いて唱えてね」


「はい」



二人は魔法書に書かれた呪文を唱えた。



「「我は魔力を受け継ぐ者。いにしへより自然と関わり、深い交友を持つ者なり。我の魔力と引き換えに、陣に置かれし魂に、仮初の姿を与えたまえ」」









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