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白雪姫 16


姫がいなくなった城は、大騒ぎになっていた。朝までは確かにいたというのに当然行方不明になり、そして三日も帰ってこないのだ。これは一大事だと城では使用人から臣下まで全員で姫の捜索を行っていた。


その行方知れずになっていた姫が城の門に立っていたところを見つけたのは、町にまで捜索隊を出そうという意見が出てきた頃だった。初めに気付いたのは使用人たちで、姫の元へと走り寄る。



「姫様!お怪我はありませんか?!」



土と埃で汚れたドレスを見て、城の外にいたのことが分かったらしい。酷く驚いて、手足に目立った傷がないかを確認している。



「あの、こちらのお方は?」



そして、姫の隣に立つ王子へと意識を向けた。いつもの彼の普段着ならばともかく、今の彼はそれなりの身分だと分かる服を着ているため、誘拐犯に間違われることはない。あくまでも丁寧な口調で使用人は尋ねてきた。



「こちらは他国の王子です。私の命の恩人ですよ」



微笑みを浮かべて、姫はそう使用人に言う。王子もニコリと微笑んだ。完璧な王子スマイルである。普段の彼を知っている者が見れば驚きで腰を抜かすに違いない。



「お父様の元へ行かせてくれないかしら?話したいことがあるの。城の者を大広間に全員呼んでください。…それにお義母様も」



計画は最終段階を迎える。大広間で姫は継母が彼女に行った所業を明るみにして、悪役は処罰を受けるのだ。姫は汚れたドレスを脱ぎ、姫らしいきちんとした服装に着替える。そして、王子と共に大広間へと向かった。


先に到着していた王が姫の姿を見て、抱き締めてきた。



「おおっ!!我が娘よ!心配したのだぞ!」



王の目にはこの数日満足に眠れていなかったことが分かる、隈があった。顔はやつれ、毒を飲んだ姫よりも顔色が悪い。舞踏会で見た王とは別人のように変わっていた。



「お父様。ただいま戻りました。心配をおかけし、申し訳ありません」


「あぁ、あぁ、少し痩せたな。可哀想に。城の外は怖いもので一杯だっただろう。たがこの城に帰った今は、もう安全だ。お前を誘拐した犯人は必ず捕まえさせるし、安心しなさい」


「いいえ、お父様。外は決して怖いものばかりの世界ではありません。私はこの数日城の外でたくさんのことを学びました。そして、私にはやらねばならないことがあるのです」


「やらねばなるぬこと?それは一体何なのだ?白雪姫」



それが何かを姫が言う前に、「お妃様がいらっしゃいました」と大広間に声が響く。老婆の姿から元の美しい姿に戻った継母が、現れた。



「白雪姫。無事に城に戻れたのね。本当に良かったわ」



無害そうな優しげな笑みだ。しかし、目は笑っていない。殺せたと思っていた姫が現れ、内心は穏やかではない悪役の演技だった。



「お義母様…」


「なぁに?白雪姫」


「…」



姫と悪役が対峙する場面。姫は一瞬継母の罪を皆に知らせるべきが迷うが、勇気を振り絞り継母に向き合う。息を深く吸い、そして良く響く声で大広間にいる全員に告げた。



「私を殺そうとした犯人は…お義母様。貴方です」



しんっ…と大広間が静まり返った。誰も何もいわず、何も物音をたてない。



「私はお義母様によって二度も殺されかけました。一度目はお義母様が雇った暗殺者に森でナイフを向けられたのです。しかし、暗殺者は私を逃がしてくれました。その後、私は森で偶然小人たちの家を見つけ、彼らにかくまってもらいました。しかし、今度は老婆に変身したお義母様に毒林檎を食べさせられ、私は意識を失ったのです。通りがかった王子に助けて頂きましたが、あのままでは私は冷たい屍となっていたでしょう」


「まぁ…素敵な作り話ね。私が悪役で姫が主人公なのかしら?」


「いいえ。現実のお話です。私は貴方に殺されかけた。町の方に聞いてみてください。きっと一人くらいはいらっしゃるでしょう。それらしきものを見た、聞いたという方が」



姫と継母の会話に、王子と小人たちも声を上げる。



「僕も証人だよ。僕が見た時、この子は確かに死にそうだった。もし僕が彼女を見つけるのが少し遅かったら死んでいただろうね」


「ひめさま、へんじ、しなかった」


「どんどん、からだがつめたくなった」


「こわくて、なんどもなまえをよんだけど、へんじ、してくれなかった」



姫たちが声を上げるごとに、継母に突き刺さる視線が冷たいものになっていく。悪役は孤立していき、王さえも自分の妻から離れていった。



「き、妃よ、真なのか?姫を殺そうとしたなど…」


「王よ、まさか。私が愛しい娘を手にかけるとお思いで?血は繋がっていなくとも、白雪姫は私の大切な娘。きっと彼女は脅されているのです。誘拐犯に違う者を犯人だと言うように脅されているのですわ」



継母がそう言った時だった。



「いいえ。お妃様が犯人でございます」



大広間の扉を開けてそう高々に宣言した者がいた。マントを被った、恐ろしい雰囲気を持つ男だ。暗殺者役の魔法の鏡だった。



「私は姫を殺せと命令された暗殺者です。姫を殺し、殺した証拠として彼女の心臓を渡すようにと言われていたのです。優しい姫君を殺すことをためらった私は、代わりに獣の心臓をお妃様に献上しました。お妃様はその心臓を見て嬉しそうに笑い、そして塩茹でして食べたのです」



暗殺者の言葉に、ざわっ…と周りの民衆が騒ぎだした。暗殺者まで現れれば姫たちの話が真実であることが分かる。妃が姫を殺そうとしたいう事実に、民衆は動揺したのだ。



「誰か…妃を拘束しろ!!」



王が叫び、傭兵がやって来る。傭兵は妃の腕を掴む。しかし、それまで動かなかった彼女はその手を振り払った。そして、ゾッとするような高笑いをし始めた。



「あははは!!ええ!ええ!そうよ。私がしたの。だって、だって…羨ましいでしょう?憎らしいでしょう?皆から愛され、皆から慕われる若く美しい白雪姫。憎らしい。妬ましい。だから殺してやろうと思ったのに!!あはははは!」



そう狂ったように笑いながら、彼女は傭兵に連れていかれた。妃の豹変に言葉を失う者たち。誰もどうすれば良いのか分からないようだった。そんな中で姫はまた声を上げた。



「私は外で多くのことを学びました。殺されかけて、死の恐怖を学びました。そして同時に私は今まで何をやってきたのだろうと後悔しました。何も知らず城で育った私はこの国の姫としてちゃんと役割を果たしていたのかと疑問を持ったのです。出した答えは、私は何も役割を果たしていなかったということでした。王族は国のためにその身を捧げなければなりません。自分の役割を果たさねばなりません。どうしたら私がその国をより良くできるのか、私は考えました」



そして、と姫は続けた。姫は王に向き直る。



「お父様…いえ、王よ。私がこの国の時期王になることをお許しいただけないでしょうか?」


「王に…女王になりたいと言うのか?」


「はい。この国のために、この国をより良いものにするために、私は女王になりたいのです。冬に誰も寒さで死なず、飢えで死なず、誰もが幸せに暮らせる国に。そんな国にしたいのです」



王は昔のように姫の夢を笑うことはしなかった。姫の目が本気であることが分かったのだろう。姫がどれだけの覚悟を持って女王になりたいと言っているのかが分かったのだろう。王は目を伏せて、暫く沈黙していた。再び、目を開ける。姫は王の答えを静かに待った。



「女王は今まで誰も就いたことのない立場だ。きっと反対意見も多かろう。茨の道だ。それでも、姫は前に進むと言うのだな?」


「はい。茨の道であろうとも、この足が血だらけになったとしても、私は進み続けたいのです」


「…よかろう。そこまでの覚悟があるのなら、やってみなさい」



わぁ…と歓声が上がった。新しい女王の誕生を祝う声が上がる。勿論中には顔をしかめ、今までの伝統を壊そうとする姫に鋭い視線を送る者もいた。新しい波に逆らおうとする人が現れるのは当たり前のことだ。姫はこれからその者たちも納得する成果を上げなければならない。


しかし、彼女ならばやってくれるだろうと彼女をよく知る者たちは思った。


ここに、新しい女王が誕生した。



























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