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白雪姫 11


「次、三つ目だね。僕の助けによって君が助かると書いてあるけど、具体的には?」



この王子の質問には姫もすぐには答えられなかった。実は姫もその問題だけはどうするべきか悩んでいるのだ。



「それが問題なのですよね。毒を使ったことにしようかと思っているのですが、王子がどう助けるか…」


「偶然、僕が解毒剤を持っていたなんて不自然だしね。かといって刃物で刺されたとなると、周りに人がいなかったんだから君は止血もされずに死ぬはずだ。運良く意識不明というだけ、なんてあり得ない」


「…そうですよね」



姫のことを憎んでいる悪役は、刃物を使うならば完全に殺害するまで攻撃を止めないだろう。まだギリギリ意識がある状態の敵をそのままにするとは思えない。


やはり毒殺を企てたということにした方が、まだ姫が意識不明なだけだったということに説明がつくはずだ。いつ小人たちが戻ってくるのか分からない小屋の中で、犯人は姫が完全に絶命するまで見届けることはしないだろう。時間がかかり過ぎるから。


しかし、王子がどうやって解毒をするか。その場で王子が薬草から薬を作ったことにするか。いや、この森は町から近い。薬草は取り尽くされていて、この辺りには残っていないはずだ。



「いっそのこと、そこはファンタジーなものにしたらいいんじゃないかしら?」



悩み込む二人に、継母がそう言った。「ファンタジー…ですか?」姫が聞き返すと、彼女は満面の笑みを浮かべる。



「そう。この世には魔法なんてものがあるんですもの。もっと不思議なことが起こったって良いでしょう?…真実の愛のキス、とかね」


「しんじつ…の…あい…き…?」


「何だって?」


「真実の愛のキスよ。素敵じゃない?王子は眠り込んだ姫を見て恋に落ち、姫に口付けをするの。王子の愛によって毒は溶かされ、姫は目覚めて、めでたしめでたし。どうかしら?」



継母はニコニコと微笑みながら、姫と王子を見つめる。何故か暖かい目で見られ、キスというとんでもない言葉が飛び出し、姫は思わずガタッ…と席を立った。



「キ、キスっっ…なんてっ、必要ないはずです!!そもそも何故それで解毒ができると?!非現実過ぎます!!」


「あら、どうしたの?白雪姫。良いじゃない。町の人たちが好きそうな話だわ。ただ助かった姫というよりも、まるで奇跡のような助かり方をした方が人の記憶に残りやすい。それに姫の計画通りでは城を追い出されたり、暗殺されかけたり、物騒過ぎるわ。長い間語り継がれる話にしたいなら、少しくらいロマンチックな部分も必要よ」


「必要ありませんっ!!」


「まぁまぁ…何を照れているのかしら?」


「お義母様!何を…」


「ふふ。だって、二人を見ているとちょっかいを出したくなってしまったんですもの」



姫をからかい楽しげに笑う継母。


次の王を生むことは、王族としての義務だ。世継ぎを生まずに王が死ねば、貴族たちの間で自分たちが利用しやすい王を立てようと争いが始まる。それは今までの歴史でも頻繁に起こってきたことだ。だから、王族は必ず子供を残して死なねばならない。それは、分かる。


だが、口付けというものは義務でも責務でもなく、愛し合った者同士がするものだ。政略結婚が多い王族では、夫婦でも唇を重ねるなんて経験はない者も多い。


つまり、まぁ…姫といえども気恥ずかしいのだ。口付けというものは。そのため、聞き慣れないその単語に過剰に反応してしまうのも無理はない。



「…お義母様の案は却下です。それはお義母様が見たいから言っていることでしょう?」


「僕としても…遠慮したいかな。やったことないし」


「あら、残念だわ」



見たかったのに、と言いながらもあっさりと継母は諦めてくれたので、姫はほっとした。ひとまず王子が偶然解毒剤を持っていた、という方向にしようということで話は落ち着いた。


計画の実行の日まで姫たちは綿密に準備をした。小人たちが三日よりも少し前から、森に入って彼らだけで暮らせるように、料理や生活の仕方を教えたり。暗殺者役の魔法の鏡とどこで落ち合うか、どのタイミングで悲鳴を上げるかを決めたり。森の地図を見て、どの場所が一番目撃者が多くなるかを考えたり。


あっという間に、収穫祭の五日前になった。夜になると小人たちと共に城から出て、森へと入る。作戦会議に使った小屋をそのまま彼らの家として使うことになった。人間が数人か住むには狭いが、彼らの大きさならば丁度良い広さのはずだ。



「本当に大丈夫ですね?教えた通りにできますか?」


「うん。だいじょうぶ」


「りょうり、がんばる」


「ひめさま、くるまでひっそりくらす。こども、いても、こえかけない」


「こまったら、おおごえあげる。しろにかえる」


「はい。その通りです。小人たちがいると聞いて捕まえようとする人も現れるでしょう。二日だけなので大丈夫かとは思いますが、危なくなったらすぐに逃げて下さい。計画のことは気にしなくても大丈夫です。計画の失敗よりも、計画の成功のために貴方たちが無理をする方が私には辛いことですからね」


「わかった」


「ぼくたち、やれるよ」



何度も念を押して小人たちと別れ、姫は城に帰った。小人たちが心配で城の窓から森を眺める姫に、継母は声をかける。



「心配かしら?」


「はい。前から森で隠れ住んでいた小人たちに保護された、という設定のためには仕方がないことですが、やはり猫たちが危ない目に遭わないか心配になります」


「あと、二日もしたら会えるわ。ちゃんと計画通りにいったら。そういえば鏡との打ち合わせは済んだの?確か姫を殺したと私を欺くために、獣の心臓を持って帰る予定なのでしょう?あの森に獣はいないから、あらかじめ用意しておかないといけないと言っていたけれど…」


「上手く手に入ったそうですよ。遠くの国で仕留められたイノシシの心臓を買うことができたそうです。町との交流がない猟師したちから直接買ったそうなので、計画のことを勘づかれる心配もないだろうとのことです。ついでに、猟師の服もおまけにもらったと嬉しそうにしておりました」


「そう。魔法の鏡、手足が生えた途端に随分とアクティブになったわね」


「そうですね」



二人は顔を見合わせて、笑い合う。



「もうすぐね」


「はい。もうすぐです。私が何年も何年も…夢見ていた日ですね」


「あら、貴方が夢見る日はその頭に王冠を被る日でしょう?」


「そうですが、計画を現実で実行できる日も待っていたんです。…お義母様、改めて」



姫は窓から離れ、話していた継母に向き直る。ドレスの裾を両手でつまみ、ゆっくりと恭しく頭を下げる。彼女に最大限の感謝を示すためだ。



「お義母様、改めてお礼を申し上げます。お義母様がいなければ私はきっと、この夢を夢だけで終わらせていたでしょう。あの時、お義母様が私のことを信じ力を貸してくださったから、ここまでこれたのです。本当にありがとうございます」



貴方の希望のためにも、私は必ず女王に。

























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