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白雪姫 10


「さぁ、大分遅くなってしまいましたが、作戦会議を始めましょう」



姫は両手を叩いて、そう切り出す。協力者の紹介に随分とかけてしまった。姫と継母は同じ城に住んでいるのだから頻繁に会えるが、王子は他国に住んでいてそうはいかない。何度も彼の足を運ばせるのは忍びないし、できれば今日中に決めておきたいことがいくつもあった。



「作戦会議って言っても…こんな机もない森の中でするの?」


「この先に昔、木こりたちが使っていた小屋があるそうですよ。今は木こりという職では食っていけないと町に出てきていて、使っていないそうです。そこを私たちが使わせて頂きましょう」



計画の舞台となる森だ。数年前から使えるところはないのかと情報を集めていたのが役に立った。姫は皆を案内する。


森の奥深くまで歩くと、姫が言っていた小屋があった。小さな小屋だが、長い間人が使っていなかった割にはそこまで荒れてはいず、少し手入れをすればまた使えるだろうと思われた。


中は少し埃っぽかった。誰も使っている痕跡がないのを確認し、ランプをテーブルの上に置いて、姫は計画書を王子に差し出す。



「舞踏会の時は流石に計画書を持ち歩くことはできませんでしたから、王子には口頭だけの説明になってしまいました。これにあの夜には伝えきれなかった計画の詳細が書いてあるので、まずは目を通してください」



舞踏会の夜で彼は本を読むスピードが速いことは知っている。ページをめくるのが速かったし、本の内容もその速さで理解しているようだった。彼ならばすぐに複雑な計画書にも目を通せるだろう。


姫の予想通り王子は計画書を受け取ると、暫く黙り込み、真剣に一つ一つに目を通していく。十分もしない内に、「何点か気になる点があるね。これ」と言った。



「そうです。だから、その問題点を解決するべく集まってもらったんですよ」


「なるほど。じゃあ、まず一つ目。悪役が持つ姫の暗殺の動機は?」



王子の質問に姫の代わりに継母が答える。



「コンプレックスを刺激されたから、ということにしているわ」


「コンプレックスね。具体的には?」


「姫の美しさに嫉妬したから。私と姫は歳もそこまで離れていないし、自分よりも若く美しい姫を見て劣等感を抱いたから、と言えば不自然ではないはずよ」


「ふぅん…外見の美しさへの嫉妬か。良いんじゃない?悪役らしい理由だし、それに…」



彼は姫を頭の上から足の先まで眺め、「君、見てくれは悪くないものね」と呟く。姫はにこりと微笑み、王子に近付く。



「見てくれ"は"…?魔法書、読みたくはないのですか?」


「ごめん。言い間違えた。外見も中身も素晴らしい女性だよ、君は」


「それでいいのです」



姫は満足して頷いた。



「二つ目。これをどうやって真実だと思わせるの?ただの噂だと片付けられない?」


「そうですね。証人が必要でしょう。それらしき光景を見たという証人が」


「証人?」


「例えば、町で怪しいマントで顔を隠した大男が歩いていた。森の中に動物の血ではない血痕があった。女性の悲鳴が聞こえた。森の中に小人がいた。森の中で綺麗な身なりの、町娘には見えない少女を見かけた。そんな証人が現れれば皆、信じるのではないでしょうか?」


「なるほどね。だから、噂を流すだけじゃなくて、こんな劇みたいなことをしなきゃいけない訳だ。実際に見たという証人を作るために」


「はい。それに証人は多ければ多いほど良いでしょう。噂の信憑性が増します。そのために私が選んだ日が、収穫祭の三日前から前日までです」


「収穫祭?」



王子は首を横に傾げた。聞き覚えがない言葉のようだ。収穫祭は姫の国で伝統的に行われている祭なので、他国の彼は知らないのだろう。



「収穫祭というのは、毎年私の国で行われるお祭りです。今年も無事に作物を収穫できたことを神に感謝し、来年の豊作を願う行事ですね。城ではご馳走が出るくらいですが、町では屋台を出したり皆で踊ったり、なかなか賑やからしいですよ」


「へぇ…でも、その三日前から前日というのは何故?」



収穫祭の日にやるのならば、人気が多くなるからなのだと分かる。しかし、その前の日に実行する理由は何なのか。王子は尋ねた。



「収穫祭の日はどの家でもご馳走を作ります。そのために数日前から、子供を森に行かせるんですよ。お祭りの準備に大忙しの大人たちの代わりに、ご馳走の材料を集めさせに。この森は獣も少ないですし、毒を持った植物もあまりありません。子供たちだけで行っても、比較的安全ですからね」


「あぁ、やっと分かったよ。その子供たちを証人にするんだね」



森に採集にしに来た子供たちに、噂が本当であることの証人になってもらう。大人相手だと騙すのは難しいが、子供たちが相手ならば彼らは見たままのことを信じ込んでくれるだろう。


そして、子供たちは自分たちの目で見たことを家に逃げ帰り、親に話すはずだ。自分の子供たちが見たとなれば親たちも信じる気になる。それが姫の狙いだった。







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