表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/70

番外編7 解釈は自由?


 イリスは学園の廊下をひとり歩いていた。

 イリスが歩けば、生徒たちは口を噤み、道を空ける。

 特に、ニジェルを剣で打ち負かしてからは、男子が恐れの目で見てくる気がするのだ。


 私にはいつになったら友達ができるのかしらね?


 イリスは思いつつも、悪役令嬢の宿命として受け入れるしかないのかと諦めモードであった。


 ふと、廊下の先を見ると女生徒たちが窓際に集まって、階下を覗きこんでいる。

 キャッキャと黄色い歓声があがっている。

 その中に、レゼダとニジェルの名が混ざっていたので、イリスもつられるようにして、窓から階下を覗いてみた。


 そこでは、男子数人が休み時間を使って剣の鍛錬をしていた。レゼダとニジェルもいる。

 学園内でも有名なイケメンふたりが、制服のジャケットを脱いだ姿で、木刀で剣を交えている。

 汗ばんだシャツが、体のラインを拾いなまめかしい。

 女生徒たちが見蕩れるのはしかたがないだろう。


 イリスはジッとふたりの様子を見つめていた。

 先日の武術のトーナメント戦では、ギリギリでニジェルに勝つことができた。

 しかし、本当にギリギリで一瞬の隙さえなければ、自分が負けていたとイリスは思っている。

 だからこそ、ふたりの技術を見極めようと真剣なのだ。


 レゼダ殿下とは試合が当たらなかったけれど、この様子では相当上手くなってるわ。

 ニジェルはこのあいだよりもずっと技術が上がっている。

 このままじゃ、すぐに追い抜かれちゃう!


 イリスは焦りを感じていた。

 なにしろ、バッドエンドに進んだ場合、全員腕力でぶちのめし逃げ切るつもりでいるからだ。

 そのためには、大前提で攻略対象者の誰よりも強くなくてはならない。


 まずいわね。私も訓練しなくっちゃ。

 だいたいズルいのよ! あのふたりの長い手足!! 格好いいじゃない!!


 しかし、舞うようにして剣を合わせるふたりは、楽しそうだ。爽やかな笑顔と、煌めく汗が美しい。

 はじめは真剣に観察していたイリスだったが、思わず見惚れてしまう。


 ……うん。ニジェルも殿下も攻略対象者というだけあって、抜群に格好いいのよね。目の保養だわ~。


 イリスの頬はニマニマと緩んだ。

 イケメンのツーショットは乙女心をそそるのだ。


 悪い顔をして殿下を追い詰めるニジェル最高ね。

 必死な顔して避ける殿下も良いわぁ。

 ああっ、ニジェルの剣は重いからまともに受けたら、駄目なのに!

 あ、ニジェルったら意地悪ね。わかっていて、わざと煽ってる。

 まんまと煽られる殿下も可愛い! 小さい頃と変わってない。


 イリスは子供の頃を、懐かしく思い出していた。

 訓練の一環でした鬼ごっこ。離れにいたときは一緒に剣の練習もした。


 私も混ざりたくなってきちゃった。


 イリスは思わず微笑んだ。


 そんなイリスを見て、周囲は思わずため息を吐く。


「……ほら、イリス様がレゼダ殿下をご覧になっているわ」

「まぁ、あんなに愛おしげな眼差しで……」

「いつも冷たい眼差しのイリス様も、レゼダ様のお姿を見るときは違いますわね」


 イリスは噂する女生徒たち周囲の視線を感じ、顔を上げた。

 女生徒たちは、慌てて目を逸らし、レゼダたちに視線を戻した。


「……に、ニジェル様、頑張ってー!」

「ニジェル様、素敵!」


 あえて、イリスに聞こえるようにニジェルを応援する。

 そうすることで、女生徒たちは「レゼダ殿下ではなくニジェルのファンである」と、イリスに表明しているのだ。

 恐れ多くもイリスのレゼダ殿下に色目を使ったりしません、という意味である。


 ニジェルって意外と人気なのね。


 イリスはそれを聞き、少し鼻が高くなる。なんと言っても自慢の弟なのだ。

 モテるのは純粋に嬉しい。


 それに対して……レゼダ殿下は意外と人気ないのかしら? あんなに格好良くて、優しいのに不思議ね。


 レゼダの心配をするイリスである。


 するとちょうど手合わせを終えたレゼダとニジェルが、女生徒たちがたむろする窓を見上げた。

 キャーッと歓声が沸き起こる。

 ニジェルの名前を呼ぶ女生徒たちを見て、イリスは少しレゼダが不憫に思えた。


 これじゃ、あまりにもレゼダ殿下が可哀想だから……。


 イリスは、レゼダに向かってヒラヒラと手を振った。そして、口パクでレゼダの名を呼んでみる。

 レゼダはそれを見て、パァァァと全開の笑顔になった。

 そして、イリスに大きく手を振る。

 隣のニジェルは嫌そうな顔でイリスを睨み、シッシと手を振る。


 イリスは思わず苦笑いする。

 ニジェルが「見るんじゃない」と言っているのがわかるからだ。

 イリスは「ハイ、ハイ」とニジェルに口パクで答え、軽く手を振り窓から離れ、廊下を歩き出した。


 それにしても、ふたりとも格好良かったわね。小さいころに比べて筋肉だってついてきて……。


 イリスは思わず力こぶを作ってみる。

 

 ……うん。どう見ても負けてるわね。腕力真っ向勝負は不利だわ。瞬発性や技術を磨いていかなくちゃ。


 イリスは今後の訓練計画を練りながら、教室へ向かっていった。


 廊下にたむろしていた女生徒たちは、イリスの背中が見えなくなってから、キャーッと盛り上がる。


「ねぇ、見ました?」

「ええ、もちろんですわ」

「あの、レゼダ殿下の笑顔……イリス様にしか向けられないのですわ」

「拝見できてラッキーでしたわね!」

「アイコンタクトでお話なんて」

「「「素敵~」」」


 女生徒たちはひとしきり騒いだあと、ヒソと声を潜めた。


「それに、見ました? ニジェル様のイリス様への粗雑なあしらい……」

「ちょっぴり嫉妬も混じっているようにも感じられて」

「あら、どちらへの嫉妬なのでしょう」

「それは、ねぇ。うふふ」

「そうよ、解釈は自由なのですわ……」

「姉弟愛も友情も美しいですから」

 

 ニヤニヤと笑う女生徒たち。


 なにも知らないニジェルとイリスは、同時にゾクリと身震いした。


 おわり

たまゆき先生著コミカライズ版

『私が聖女?いいえ、悪役令嬢です!~なので、全員破滅は阻止させていただきます~』第三巻

本日発売です。

記念の番外編を更新しました。

原作共々応援していただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ