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51 メガーヌ


「……イリス様は、私を汚いとお思いですか」

「盗み見のことかしら? だったら私も同じでしょう?」

「いいえ。私、知ってたんです。カミーユさんのお守りが投げ捨てられることを、でも見て見ぬふりを」


 イリスは考える。サポートキャラなら当たり前のような気もする。

 

「大丈夫よ、そういうこともありますわ」


 イリスはニッコリ笑って答えた。


「ほ、ほんとうですか?」


 不安に揺れた瞳でメガーヌはイリスを見た。


「ええ。本当よ」


 イリスの答えに、メガーヌは眼鏡を外して目元を押さえた。

 突然泣き出したメガーヌにイリスは動揺する。いったい何が起こったのかわからない。


「私、カミーユさんに嫉妬していたんです……。だから、大切な物だって知っていて、あの子たちに教えたんです……」


 え、ちょっとまった。思ってたんと違う。メガーヌはサポートキャラの自覚はないってこと? それなのに嫌がらせのきっかけを作ってたってこと? え、なんで? どういうこと? 私は前世でメガーヌを信じてきたけど、メガーヌはヒロインを友達だと思ってなかったってこと?


 完全なる勘違いを突き付けられたイリスである。心の中に空虚な笑いが響く。


「あの子がうちに来てから、みんなあの子が優先で。あの子なら身分の高い方と結婚できる、聖なる乙女になるように全力でサポートするようにって、父が……」


 あー……。そうよね。急に家に同じ年の女の子がやってきて、姉妹ですって思春期に無理だわ。


 イリスは遠い目をする。


「学園の方々もそうです。カミーユさんのことは平民平民と目の敵にする癖に、私のことは何も言わない。まるで初めから私はこの学園にいないみたい。でも、カミーユさんの話をする時だけは人が集まってくれたんです」


 虐められるのはもちろんキツイ。でも、相手にされないというのもつらいよね。たしかにメガーヌはいつだって人の輪に入らずに見ているだけだった。


 イリスは悩ましく思っていた。メガーヌのやっていることは酷いことだ。話題作りのためにカミーユの情報を使った。でも、彼女の行為がなければ、ニジェルルートの進展はない。


 まぁ、もうやっちゃったことだしねぇ……。メガーヌだって泣くぐらいには罪悪感もあるんだし。


「確かに、私は地味でブスです。魔力もほとんどなくて、何のとりえもないです。高貴な方と結婚なんて望めない。わかってるけど……」

「そんなに自分を卑下してはいけませんわよ。あなたの本意でなくても、カミーユさんをサポートしてきたことは立派です。知らない事ばかりの学園で大変だったでしょう。街でのカミーユさんの評判のよさは、デュポン商会の力が無くてはならなかったわ。それに、ドレスも貴女がアドバイスしたのでしょう? あなたはそういうことが得意なのよ。とりえがないのではなくて、他人を光らせるのが貴女のとりえ。それは貴女自身に光が当たらず悲しいことかもしれないけれど」


 メガーヌのアドバイスが純粋な応援ではなかったとしても、前世のイリスも、今のカミーユもそのアドバイスに助けられてきた。メガーヌにどんな意図があったかはわからないけれど、アドバイス自体は的確だったのだ。

 メガーヌがいなければ、カミーユの今の立場はない。


 イリスの声に、メガーヌは涙でぐじゃぐじゃになった顔をあげた。


「イリス様……私はこれからどうしたら……」

「悪いと思っているのなら、謝ったら良いのではないかしら?」

「でも、きっと、許してはくれない……です」

「謝罪は許されるためにするのではないでしょう? 傷付けた自覚があるのなら、許されなくても謝らなければいけないわ。そして、許される人間になれるように生きていくしかないのよ」


 スンとメガーヌが鼻をすすりあげた。

 イリスはメガーヌにハンカチを渡す。


「もしメガーヌさんが一人では無理だというのなら、私が付き合ってもよろしくてよ?」


 イリスの言葉に、メガーヌはハンカチを受取り涙を拭いた。


「イリス様……、イリス様だけは初めから私を見てくださいましたね」


 陶酔するような目を向けられて、冷や汗の流れるイリスである。


「だれも正確に私の名前を呼んでくれない、メガーネ、メガーネって。そんな初めのころからイリス様だけは、メガーヌと……」


 ゲームの知識とは言えないイリスである。


「お願いします、イリス様。カミーユさんに謝罪したいんです。お付き合い頂けますか?」

「もちろん構わないわ」




 その日の夕食後イリスは二人を部屋に呼んだ。

 そこで、メガーヌがカミーユに今までのことを謝罪した。もちろんカミーユは驚いていた。

 しかも、そこで、デュポン家からくるカミーユのお小遣いをメガーヌが渡していなかったことが明らかになった。デュポン家からの仕送りはメガーヌが一人で二人の管理を任されていたらしい。メガーヌ曰く、「カミーユが欲しがらなかった」からだというが、明らかに嫌がらせで、その嫌がらせのためにカミーユはバイトに精を出し、そのバイトのおかげで下町での知名度が上がったのだ。


 う、うーん。ゲーム、えぐいわー。デュポン男爵もお金は個別に振り込みなさいよね。家族だからって円満、姉妹だからって仲良いとは限らないのよ、ほんと。特に血がつながってないんだし。


 メガーヌは、今までの仕送り分を全てカミーユに引き渡し、今後仕送りをわけてもらうとカミーユに言った。

 カミーユはそれを受け取って、困ったように笑う。


「そもそもお小遣いを貰って良い立場じゃないとおもうんです。学園に通わせてもらえるだけで十分なのに」


 カミーユは養女という遠慮もあって、お小遣いを貰えるとは思っていなかったらしい。


「それに今まで必要なものは全部メガーヌさんに用意してもらっていたから、それも不安で……」


 たしかに! カミーユはドジっ子だ。ゲームでも必要なものは全部メガーヌが用意してくれて、必要な時に出してくれたっけ。冷静に考えれば、完全な依存関係よね……。


「カミーユさん、それでもそろそろ自分で出来ることを増やした方がいいと思うわ」


 イリスが言えば、カミーユはしゅんとした。


「あ、の、カミーユさんが許してくれるなら……、私、自分のものを準備するときに、声をかけても……いいですか?」


 メガーヌはオズオズとした様子でカミーユを見た。それがカミーユに対するメガーヌの贖罪の一つなのだ。


「いいんですか!? お願いします! メガーヌさん!」


 真っ直ぐに答えるカミーユに、イリスは眩しく思う。


 さすがヒロイン、聖なる乙女ね。普通、やすやすと許せないと思うけど、その辺がヒロインになれる器ってことかしら。


 イリスはカミーユの懐の広さに唸るしかなかった。



 その後、イリスはメガーヌに懐かれるようになった。いろいろな情報を教えてくれるようになったのだ。

 ナチュラルにサポートキャラを務めていたメガーヌの情報力は流石のものである。


「イリス様の人気はとてもすごくて、イリス様がダンスで着用されたドレスの形はどこで買えるのかとデュポン商会にも問い合わせが……。どちらのデザイナーに注文されたのですか?」


 メガーヌが問う。


「レゼダ様が用意してくださったので、私にはわからないの」

「まぁ! レゼダ様が! お二人の仲睦まじさは街でも有名です。街のアイスクリーム屋さんでは、チェリーミントダブルという商品が売れているそうですよ。あ、味はチョコミントとストロベリーのダブルで、ちょっと紛らわしいんですけど。デュポン商会のカフェでもチェリーミントのゼリーを出しています」


 イリスはゲッソリとして笑う。


 推しカプでメニューを作りたいのはわかる。オタクとしてはありがたい! でもね、ここはメロンとソーダでニジェルとカミーユでしょうがァ!!


「困ったものね。私はともかく殿下にご迷惑をおかけしてはいけないわ」


 ミントがイリスと知れた以上、チェリーもレゼダだと知られているはずだ。第二王子とは言え、一国の王子と婚約者でもない娘とのうわさが広がるのは困る。


「あくまでチェリーくんとミントちゃんですから。表向きは魔導宮の見習い魔導士カップルです。変に否定すれば、チェリーくんが殿下だと認めたようなものになりますし」


 メガーヌが少し悪い顔で笑った。さすが、やり手貿易商の娘である。商魂たくましい。イリスは疲れた顔で笑うしかなかった。




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