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49 人気コンテスト 3


 四人が舞台に立ち並び、パートナーの名前が紹介される。


「やっぱりミントちゃんだー!!」


 孤児院の子どもがイリスを指さし、天真爛漫に手を振った。どよめきが沸き起こる。

 

 イリスは気が付かないふりをして澄ました顔をしている。


「チェリーくんも一緒!」


 子供は無邪気にレゼダを指さす。レゼダはニコニコと手を振った。


「レゼダ殿下と……緑の聖なる乙女?」

「ミントちゃんはイリス様と仰るのか?」

「ミント様は死の洞窟へいらしていた聖なる乙女だと噂じゃなかったか? 巡礼者が診療所でお会いしたと」

「王子や侯爵令嬢が下町などくるものか。しかも土痘痕患者に触るなどありえない」

「しかし、あの白い衣のミント様はまさに聖なる乙女だ」


 舞台の下で、拝みだす老人までいる。

 民衆のざわめきに、学園長が青い顔をしてイリスを見た。イリスは素知らぬ顔をする。


 またお説教コースだわ……。


 イリスは遠い目をする。レゼダはそれを満足げに笑って、呆気に取られていたオーケストラに目配せをした。指揮者はハッとしてタクトを振る。


 オーケストラが演奏を奏でだす。レゼダは大衆の視線に戸惑うこともなく、イリスへお辞儀した。イリスもそれに応える。


 カミーユは諦めの思いで周りを見渡した。


 イリス様が緑の聖なる乙女だったんだ。やっぱり、イリス様が望まなくても、聖なる乙女はイリス様だ。


 カミーユも頑張ったのだ。イリスのために、自分のために、全力を尽くして聖なる乙女になるために努力した。イリスのように強く美しく、イリスのように人にやさしく。そうあれば聖なる乙女に相応しくなれるのではないかと思ったのだ。

 それに、イリスもニジェルもメガーヌも、カミーユを応援してくれた。


 聖なる乙女になれないのは仕方がない。だって相手がイリス様なんだから。でも、期待を裏切ってしまうのは悲しいなぁ。


 シュンとしたカミーユの腰をニジェルは強く抱いた。

 カミーユは驚いて、ニジェルを見返す。


「ちゃんと、ボクを見て」


 ニジェルが真っ直ぐにカミーユを見据えて言った。

 カミーユはキュッと目をつぶってからシッカリとニジェルの瞳を見返した。重ねた練習の分だけ、カミーユとニジェルの間には信頼がある。


「殿下よりうまく踊ろうなんて初めから無理だから。僕らは僕ららしく楽しく踊ろう」


 ニジェルがニコリと笑って、カミーユは頷いた。

 

 自分らしく、そうか。無理してイリス様みたいになろうだなんて思わなくてよかったんだ。

 

 カミーユは胸の中の氷が解けていくようだと思った。

 ギュッとニジェルの手を握る。


 ニジェルさまの言う通り。今はニジェルさまとのダンスを楽しもう。


 ニジェルはカミーユの目に光が戻ったことに安心して、ギュンと彼女を振り回した。

 カミーユが笑う。歓声が上がる。レゼダもそれを見て張り合うようにイリスをクルリとターンさせる。カミーユとイリスの目が合って、二人で笑いあう。気がつけば妖精たちが集まって、思い思いに踊り出す。オーケストラの楽器の上に、妖精がちょこんと座り一緒になって草花の楽器を鳴らす。舞台の影では、ソージュとフーシャが守護する娘を親のような眼で見守っている。

 キラキラと空気が澄んで、光が舞い踊る。

 

 キュッと指揮者がタクトを止めて、音楽が止まる。ダンスが終わる。

 四人が並んで礼をすれば、会場には拍手と割れんばかりの歓声が満ち溢れた。

 


 人気コンテストの結果が発表される。

 結果はイリスの勝利だった。

 舞台の上で告げられた時、カミーユは晴れ晴れとした顔で拍手を送った。

 イリスは複雑だ。もちろんイリスも全力で戦った。手を抜いてソージュやレゼダの怒りを買うのも恐かったが、それ以上に真剣に努力するカミーユに対して失礼な態度を取るのだけは嫌だった。

 全力で戦って、全力で負けよう、そう思っていたのだ。しかし結果は勝ってしまった。


「カミーユさん……」

「イリス様の実力です」


 きっぱりとそう言ったカミーユをみて、イリスは思う。これ以上同情してこの子を傷つけてはいけない。


「ありがとう。あなたもよく頑張ったわ」


 そう言って右手を差し出す。

 カミーユはイリスの右手をしっかりと握った。

 

 二人の乙女の善戦を讃える拍手が会場に響き渡った。



 そして、三種の審査の総得点による勝者が発表される。


「この度の聖なる乙女の審査の結果――」


 学園長の顔は、土気色だった。


「イリス・ド・シュバリー、カミーユ・ド・ドュポン、両名同点のため、聖なる乙女の面接は二名によって行われる――」


 前代未聞の結果に、会場はドッと沸いた。

 今までにそんな前例はない。聖なる乙女の最終面接に残るのは一人だった。


「……うそ、でしょ?」


 イリスの背中に冷や汗が流れた。





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