48 人気コンテスト 2
次はドレスに着替えてのダンスである。
イリスは茫然としていた。
こんなの、こんなの、神コスプレイヤー様しか着こなせないでしょうがぁぁぁ!!
着替えの部屋に用意されたドレスを着て、イリスは泣きたい気持ちになっていた。
着替えて控えの場所に、ノロノロと出てゆく。ダンスのパートナーのレゼダは満面の笑みでイリスを見た。
「イリスはコンテストのドレスをデザイナーに一任したと聞いたから。勝手に用意しちゃった」
レゼダがキュルンと笑う。イリスは言葉もない。
イリスはゲーム上のイリスが着ていたドレスを知っていた。定番のよくある夜会用ドレスだった。しかし、イリスにとってゲーム世界のドレスのデザインはとても難しい。その為、採寸だけ行って、後は最近流行りだと聞くメゾンに任せてあったのだ。父経由でレゼダに漏れたのだろう。
イリスの喉の奥がヒクリとなる。
「……あの、殿下?」
「レゼダ」
「レゼダさま、さすがにこのデザインは……」
「最近、街ではこういうものが流行っているらしいよ。コンテストは町人も投票するから、貴族向けばかりではだめだと思って」
レゼダはニッコリと笑った。
イリスは顔をひきつらせた。
おかしい。ゲームの中ではノーブルなダークグリーンのロングドレスだったはず。
今イリスが着ているドレスは、夜会などで着るには奇抜なドレスだった。
ドレスの一番上の白を基調としたワンピースは長袖エンジェル・スリーブだ。オープン・ショルダーで丈は踝まであり、おへその少し下あたりから左右に広がっている。そのすぐ下はミントグリーンの透ける素材のぺチコートだ。ペチコートは脛丈の長さがあるが、ラップスカートのようになっていて、丁度中央膝頭部分でラップが合わさる。太もも部分はラップが重なっているため透けはしないが、そこから下はシッカリと透けている。ところどころにあるアクセントはピンクだ。
これ、白地が黒なら完全に魔法少女の敵役女幹部じゃない?
イリスのドレスはカミーユのドレスに比べて露出は少ない。しかし、その分、透けて見える足が煽情的にみえる。見えそうで見えない、モロミエよりパンチラ派の夢と希望を詰め込んだドレスである。
オタクとしてはアリよりのアリアリ! イリスたんに着て欲しい! わかるのよ、ええわかります。でも自分が着るのは恥ずかしいー!
「まさに聖なる乙女だね」
レゼダがニッコリ笑う。
イリスは、とりあえずギクシャクと笑ってみる。もうダンスの時間だ。今更違うドレスを用意することはできないし、お任せだと言ったのはイリス自身だった。受け入れるしかない。
「ありがとうございます……」
イリスは力なく礼を言った。そして、チラリとやはり着替えを終えたカミーユを見た。
カミーユのドレスは、フリフリのパニエで膨らませたタイプのミニスカートドレスで、サテンのような鮮やかなピンクのコルセットをしていた。肩の膨らんだパフ・スリーブに、ギリギリの丈のミニスカートで、白いニーハイソックスを履いていた。ピンクのコロンとした太いヒールの靴のかかとには羽根が付いている。輝く絶対領域をもつ、いわゆる魔法少女的なコスチュームだ。
うん、そっちを着るよりはマシ……かぁ?
「カミーユ嬢のその、ドレス……」
ニジェルも戸惑っている。一応足は見ないようにしているのか、目線が彷徨っている。
「おかしいですか? メガーヌさんと一緒に考えたんですけど」
カミーユは恥じらいもなく堂々としたものだ。街中で短いスカートを穿き慣れているからだろう。
「おかしくはないけれど……」
言い淀むニジェルにイリスはヤジを飛ばす。
「可愛いなら可愛いって言いなさーい!」
イリスの声に、カミーユとニジェルがギョッとして振り返った。
「イリスは、本当に美しいね。まるで女神のようだよ」
レゼダが当然のようにイリスの腰を抱き、イリスはうんざりしたようにレゼダを見た。
「まったくもう! 人を玩具にして楽しんでますね?」
唇を尖らせてイリスが拗ねれば、レゼダは嬉しそうにニコニコ笑う。
「うん、可愛い」
ニジェルはそれをみて、ボソリと呟く。
「殿下の趣味はどうかとおもいます」
「……あの、やっぱり、露出が多かったですか?」
カミーユがオズオズとニジェルに問う。貴族と平民ではマナーも美意識も違う。ニジェルと行動を共にするだけ、その差を歴然と感じているカミーユだった。
練習として時を重ねた分だけ、カミーユはニジェルに惹かれていた。しかし、身分を考えれば自分が望んでいい相手ではないこともわかるのだ。
ニジェルは自信を失ってしまったようなカミーユの表情に、胸が少し痛んだ。
「君は似合ってるよ」
思ったままにニジェルが答えれば、カミーユは両手で頬を押さえた。
学園長の合図とともに、四人は舞台に出た。








