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40 コンテストに向けて



 聖なる乙女の次なる審査、人気コンテストに向けて準備が始まった。


 要するにミスコンである。

 街の人を含めた人気投票で、最終的な聖なる乙女候補を一人に決める。そして、その一人が現在の聖なる乙女と面接し、次代の聖なる乙女として認められれば、正式な訓練が始まるのだ。この最終面接で、聖なる乙女として認められないことも多いが、それは不名誉なことではなく、結婚は引く手あまたとなり、王宮での就職も約束されるのだ。


 カミーユは忙しそうだ。人気コンテストの前には攻略しなければならないストーリーが色々あるのだ。カミーユのオイルの瓶をおしゃれに開発したり、町で服を流行させるクエストでは、お店でカリスマ店員になる必要がある。他にもコンテストでは、ダンスを披露しなければならないので攻略対象者とその練習リズムゲームだ、コンテストに使うドレスのデザインなどやらなければならないことは多岐にわたる。

 カミーユは放課後、街へ出てアルバイトをしながら人気を集め、攻略対象者と愛を深める必要がある。


 ゲーム。楽しかった……。


 いそいそと校門を後にするカミーユを見ながらイリスは思いをはせる。


 カミーユのバイトするお店に攻略対象者がきたりして、その後、デートしたりね。魔導士デートは夜の大人っぽいデートだったっけ。別れ際唇にキスされるかと思ったら、鼻先で子供扱いされたと思ってムッとするのよね。そしたら、本当に唇に、キャー!


 思い出して赤面するイリスである。


 でも、シティス様とパヴォ様は仲が良い様子だし、そのルートはなさそう。だとしたら、殿下? 殿下のルートはちょっと切なかった。人目を気にしながらのデート。同級生から見られないように、建物の影で壁ドンとか鼻血出た。殿下の意外な一面を知るたびにどんどん好きになっちゃうのよ。でも、殿下には婚約者がいるから好きになっちゃいけない、そう思いながら時間が止まれば良いって思うのよね。悲しい気持ちで殿下を見ればお花を背負った殿下が、髪を撫でてきて、やっぱり好きだと実感しちゃうのよね。カミーユたん、つらたん。あと、殿下、髪触るの好きすぎ。あれは子供の頃からの癖ね。


 それに比べるとニジェルルートは明るいわ。街中のデートではずーっと手をつなぎっぱなしで、キャッキャウフフだし。二人で迷子の子猫を探したりね。子猫に二人で首輪を選んであげるんだった。それとお揃いのチャームでネックレスを作ってつけあったっけ。帰り際、二人で何度も振り返ったりしてね。まさに青春。あー、でも、あのネックレスは首輪の伏線なのか……。そう言えば子猫を入れ墨に入れてたっけ。こわいわ。


「イリス」


 突如声をかけられて、ヒュンとなる。なぜならニジェルの声だったからである。


「ど、どうしたの? ニジェル」

「イリスはコンテストの準備進んでる?」


 問われて、イリスは、あーと目を逸らす。イリスは何もしていない。そもそも負ける。イリスは学園でも町でも人気がないと思っていた。

 それでもさすがにドレスぐらいは作らないといけないかなとは思っている。


「ま、まぁまぁね? ニジェルはカミーユさんとダンスの練習してる?」

「なんで?」

「なんで、と言われましても……そうかなーって」

「してないよ」

 

 イリスは不思議に思う。ゲームでは、この時点で好感度が一番高い攻略対象者がカミーユへダンスの練習をしようと誘うのだ。今までの流れからすれば、討伐の際に武術の訓練をしたニジェルが一番好感度が高いはずだった。


 ニジェル、好かれてないのかしら。せっかく二人っきりで武術の練習したのに……。


 イリスは不憫な子を見るような目でニジェルを見た。

 ニジェルは不思議そうにイリスを見返す。

 すると、スッとイリスの隣にレゼダが立った。


「では、殿下がカミーユさんの練習相手?」

「殿下ではないし、なぜそう思うの?」

「いえ……同じクラスですし?」

「僕はイリスの練習相手でしょう?」


 レゼダがニッコリと笑った。


「え、あの、特に練習は……」

「練習の必要ない? 二敗中なのに? まさかわざと負けるつもり? そんなに僕が嫌いなの?」


 畳みかけてくるレゼダにイリスはうっと言葉を詰まらせる。


「だって、カミーユさんは社交ダンスの経験がないでしょう? 誰も教えて差し上げないのに私だけ練習するなんて不公平では?」

「そう? カミーユ嬢は街でとても人気だそうだよ。それならイリスのほうが不利でしょう。週末、隠れて一緒に見に行こう。カミーユ嬢の働くお店、気にならない?」


 レゼダがそう言って、悪戯っぽくウインクした。

 不意打ちの幼げな仕草に、イリスの胸がキュンとする。


 隠れてなんてズルいわ! そんな楽しそうなこと絶対断れない!


「行きます!!」

「じゃあ、昔みたいに変装して行こう。敵情視察だからね」

「ボクもいきますからね?」


 ニジェルが口をはさんだ。レゼダが嫌そうな顔をする。


「王子の護衛です」


 ニジェルは澄ました顔をしている。


「護衛なんかいつもつけないよ。イリスとは子供の頃から何度か行っているし」

「それは魔道士様が一緒でしょう?」

「ニジェルは何の心配をしてるの?」

「ですから、殿下の」

「イリスじゃなくて?」

「っ!」


 レゼダは意地悪に笑った。ニジェルは言葉を詰まらせる。


「僕の心配ならイリスがいるから大丈夫。イリスはニジェルより強いでしょ」 

「護衛は一人より二人のほうが」

「目立つ。そろそろシスコンも卒業したら?」


 バチバチと火花を散らせる二人。

 しかし、イリスは二人の会話など耳に入らず、あらぬことを考えている。


 ゲームだけあって、王族とか普通に買い物してる世界だもんね。そういう設定にでもしとかなきゃ、イリスもカミーユに婚約者を取られたりしないわけだしねぇ。乙女ゲームだから驚くことでもないけど。

 最近、学園のことで必死で街にはいけてなかったから、ちょっと楽しみ。みんな元気かな。覚えていてくれてるかしら? 


「ね? イリス?」


 突然レゼダに話を振られて、イリスは驚いた。


「はい?」

「イリスの方が強いって話」

「あ、はい」


 話の流れがわからなかったイリスは反射で答える。


 ニジェルが大きく溜息をついた。


「というわけで、イリス、週末はデートだよ。二人っきりなんて初めてだね」

「敵情視察ですよね?」

「うん、敵情視察でデートだよ」


 レゼダがニッコリと笑って、イリスはようやく嵌められたのだと気が付いた。




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