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34 親密度測定中?


 昼休み、イリスは食堂の窓際で一人ぼんやりと外を眺めていた。今日、レゼダ達のクラスは実習が長引いて昼休みの時間が遅れている。

 イリスは先に食事を終え、独りでのんびりしているところだ。


 別にボッチ飯とか社会人なら普通だけど。折角『ハナコロ』の世界なんだから、友達つくってショッピングとか楽しみたかった……。


 そもそも、イリスに友達ができないのは痘痕だけの問題ではない。石板を壊し、成績発表で悪役令嬢ぶりを披露。その上、空き時間はレゼダやニジェルが側にいるのだ。気の弱いものではおいそれと話しかけられない。しかし、イリスは気が付いていない。


 イリスはひっそりとため息をつく。


 そんな物憂げな姿を他の生徒たちは遠巻きに眺めていた。彼らにとって、イリスは高嶺の花であり気軽に話しかけられる存在ではなかったのだ。


 窓の外を見ていれば、レゼダとカミーユが仲睦まじく歩いて行く。

 桃色の髪と空色の髪が並びあって空で交じる。それは美しい光景で、作画コストかかってるなーとイリスは思う。

 カミーユの制服姿も様になってきていた。イリスのおかげもあって、カミーユはだんだんと垢抜けてきているのだ。

 学園の制服は、身頃は丈が短く後ろに向かってテールが長くなるジャケットに、リボンのついた白ブラウスとベストを中に着る。ハイウエストのスカートは脹脛丈で、広がりのあるフレアスカートの裾にはレースがほどこされている。男子はスカートがパンツスタイルになった形だ。

 ちなみにヒロインのカミーユは制服の色がピンクだ。レゼダとニジェルは水色で、他の男子生徒と違い装飾が多い。おかげでモブとメインの登場人物がわかりやすくなっている。

 その他の生徒は暗いワインレッドである。悪役令嬢のイリスもワインレッドの制服を着ている。しかし、他のモブよりは黒よりのワインレッドだ。


 平和だなぁ。こうやってアオハルをモブ目線で見るのも楽しいわよね。理想のカップルやん、はよ付き合え。


 イリスがそんな感慨にふけっていると、イリスから少し離れた窓際にヒロインのサポートキャラ、メガーヌが立っていた。レゼダとカミーユが一緒にいたから、先にこちらに来たのだろう。

 キラリと眼鏡を光らせて、レゼダとカミーユを見つめていた。


「あら、メガーヌさん」


 イリスが声をかけると、メガーヌは驚いたような目でイリスを見た。


「私をご存じなのですか?」


 戸惑うメガーヌにイリスは満面の笑みで微笑んだ。


 そりゃそうよ! ゲームではずーっとお世話になってたんだもの! どこに行けば攻略対象者に会えるかだとか、何をすれば好感度が上がるとか、ドレスの相談にものってくれた大親友じゃない。感謝しても感謝しきれない。ソウルフレンドに巡り合った気分!


「ええ。当然ですわ」

「さすがイリス様です。私のようなものまでご存じだとは思いませんでした」


 カミーユを引き取ったと聞いてから、イリスはデュポン家について調べていた。昔からの豪商で、現当主が交易で大きな功績を残し男爵の称号を受けた一代貴族だ。メガーヌももともとは平民で、この学園では肩身が狭かった。


「デュポン商会には我が家もお世話になっておりますもの。前からお友達になりたいと思っていましたのよ」


 イリスがニッコリ笑えば、メガーヌは意を決したようにイリスを見た。


「イリス様にお伺いしたいことがあります」


 メガーヌの声にザワリと食堂の視線が集まる。


「なにかしら?」


 そう返事をして、なんだか悪役令嬢っぽかったかな、などとイリスは思う。

 メガーヌはイリスの返事に、怯むように一歩下がった。やっぱり少し怖かったらしい。


「レゼダ殿下とカミーユさんのことです」


 その声に食堂の空気に緊張が走った。


「殿下と……?」


 イリスは首をかしげてメガーヌを見つめた。


 これって親密度の測定か何か?


 こうやって聞いて歩いていたのなら、メガーヌお疲れ様といたわってやりたい。

 しかし、場所が良くないのではないかと思う。これではいたずらに周りの好奇心を煽ってしまう。


「最近仲が良いと思われませんか?」

「ええ、私もそう思います」


 今度はことさらにニッコリと答える。怖いと思われるのは心外なのだ。

 それに、二人の仲が良いことは悪いことではない。問題なのは、監禁したり、人の声を奪ったりする行為であって、恋する心は自由だと思う。イリスにとっても自分に被害がなければ、『仲良きことは美しきかな』ぐらいのことは言える。


「……イリス様はご不快ではありませんか?」

「いいえ? なぜ私が?」


 イリスは当然の質問をした。メガーヌはそれを聞いてもう一歩下がる。まだ怖がられているようだ。


「イリス様は殿下の特別な方だと……」

「まあ、変な噂ですこと? 殿下に婚約者は居なかったはず。心配することは何もありませんのよ?」


 怖がらせてはいけないと、イリスは優しく微笑んでみた。サポートキャラには事実をしっかり知っておいて欲しいのだ。それにメガーヌとは友達になりたい。あのゲームでの日々のように、仲良くしたいのだ。


 しかし、メガーヌやクラスメイト達は、『お前ごときに心配されるいわれはない』と受け取った。貴族におけるやり取りとして聞いたのだ。

 メガーヌは即座に謝った。イリスを怒らせるのは得策ではない、そう思ったのだろう。イリスはレゼダの婚約者ではないが、あの王子が唯一呼び捨てをする女性だ。誰もがイリスは特別だと思っていた。


「よ、余計なことをお耳に入れました」

「そんなことはなくてよ? 私も少し興味がありましたから。でも、場所はお考えになってね? 変な噂になっては困るわ」


 メガーヌは、ひっと小さな声を上げ恐ろしいものでも見る様に慄いた。『情報は欲しいけれど、隠れてよこせ』に聞こえたのだ。

 青い顔で慌てて、小さくお辞儀をして去っていった。


 え!? まって! 行かないで! メガーヌ! ご飯まだじゃないの? もっとお話しましょうよ!


 食事を諦めて逃げ出すほどいったい何が彼女をそこまで怖がらせたのだろう。イリスは小さく首を傾げた。


 丁度その時、レゼダとカミーユが連れ立って食堂に入ってきた。


 一層、食堂内が気まずい雰囲気になる。カミーユはそれを察して、キョロキョロとあたりを見渡した。

 レゼダはまるで気にせず、一直線にイリスの元へやってきた。


「イリス、もう食事は終わったの?」

「はい。席を空けますわね」

「ここにいて。食事をとってくるから場所を取っておいてほしいんだ」

「構いませんわ」


 レゼダの言葉にイリスはあげかけた腰を下ろす。ついで食事を持ったニジェルもやってきて、当たり前のようにイリスの隣に座った。

 カミーユは食事をもって席を探しているが、みんなカミーユと目を合わせようとしない。いつも食事を一緒に取っているメガーヌも今日はおらず、カミーユは困っているようだった。


「カミーユさんもこちらにいらしたら?」


 イリスが声をかけた。

 カミーユはパッと顔を輝かせ、イリスの前に座る。ざわつく周囲。

 食事を持ってきたレゼダが、イリスの正面を陣取るカミーユを見て不快そうに眉をひそめた。


「本当は正面からイリスの顔を見たかったな」


 チラリ、レゼダがカミーユを見る。カミーユが慌てて席を立つ。


「し、失礼しましたっ!」


 カミーユの空けた席にレゼダが座り、 ションボリとしてカミーユはニジェルの正面に座った。


 おかげでニジェルとカミーユの距離が近くなったわ! 殿下ナイスアシスト!


 イリスはちょっと浮かれた。


 さて、攻略対象者とヒロインがそろったことだし、お邪魔虫は退散しましょうね。姉がいるとニジェルも口説きにくいでしょうし。


 イリスが席を立とうとしたとき、その腕をニジェルがつかんだ。


「もういくの? クラスが違うから、なかなか会えなくてつまらないよ」


 弟の純粋な瞳にクラリとする姉である。

 学園は全寮制で、男女の住む宿舎はわかれている。なかなか兄弟であっても家にいた時とは同じように会うことはできない。


「そうね。もう少しお邪魔していい?」

「邪魔なんて。お昼くらいはイリスの側にいたいな」


 レゼダがニッコリと笑った。花びらが舞い散るようだ。眩しい。


 殿下が学園に入ってから、チャラ男発揮してくる……。ゲームでは誰にでも優しい外面チャラ男キャラだった。でも、現実は誰彼構わずチャラいというわけではないのよね。ブルエ殿下が生きてらっしゃるからかしら?

 

 イリスは愛想笑いを返した。

 

 食事をとりながら、クラスの様子などを聞く。イリスにとっても、カミーユの好感度上げには興味があるのだ。平等に好感度を上げてしまうと、攻略対象者全員に刺されてしまうので、できればそれは避けてほしい。ニジェルがカミーユを殺したら、御家取り潰しだし、イリスがカミーユの代わりに祈りの塔に入れられる。イリスはカミーユと違い魔力がないため、生命力を捧げなければならないのだ。


 ブル、背中から悪寒が這い上がる。


 カミーユはどっちが好きなのかしら? わかれば協力できるんだけど……。


 カミーユを見つめれば、カミーユは恥じらうようにニコリと笑った。


 んんん! かわいい!

 

 イリスはカミーユのはにかみ顔に思わず唇を噛んだ。

 




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