33 レゼダに報告
イリスは懇談室を一部屋借りて、レゼダを呼び出した。
基本、男子寮に女子は入ることはできないし、その逆もそうだ。レゼダは学園でも注目の的なので、なかなか二人きりの話などできないからだ。
イリスが懇談室で待っていると、嬉々とした表情でレゼダがやってきた。
「イリスから呼び出してくれるなんて初めてだね」
レゼダがパタリとドアを閉めて、当然のようにイリスの隣に座った。
「しかも、二人っきりなんてめったにないから、嬉しいよ」
殿下のこのノリが、チャラ男キャラ認定されるのだと思うわ。
イリスは小さくため息をついた。
「殿下だけにお知らせしておきたいことがあります」
「僕だけ? 特別?」
ニコニコした顔で、小首をかしげる。
イリスもニコニコと答える。
「私、魔力がありませんでした!」
「魔力がない? 微塵も?」
レゼダが怪訝そうにイリスを見る。
「はい! 微塵もです。これっぽっちもです。魔力がゼロです!」
「へーえ?」
イリスは浮かれてレゼダの声が低くなったことに気が付かない。
「だから、私が聖なる乙女になることはないです。あの、子供の頃のお話でお忘れだったらいいのですけれど、『聖なる乙女になったら……』なんてお話をしたことがあって。忘れているなら全然、そう全然思い出さなくていいことですので、このままお忘れになって?」
「君が聖なる乙女になったら結婚を申し込むと約束したね、忘れるわけないよ」
「では、それももう気に病まないでください! 私、聖なる乙女にはなれませんので、結果を待たずに素敵な学園生活をお楽しみください」
イリスがレゼダに魔力がないことを嬉々として伝えれば、レゼダは黒く笑ってのたまった。
「イリスはどうしてそんなに聖なる乙女になりたくないの?」
「? なれないんですよ?」
レゼダの黒さに気が付かないイリスはキョトンとして答える。
「僕と結婚したくないからワザと……ってことはないよね?」
レゼダは黒いオーラを一転させて、キュルンと潤んだ目をイリスに向ける。
イリスは一瞬よろめいた。思わず、うっと呻く。
殿下の、この、子犬のような目に弱いのよ……。だって、かわいい……。
「……あの、えっと、だから……」
「うん?」
イリスがゴニョゴニョと言葉を濁せば、レゼダは小首をかしげた。
あ、あざとい。
イリスは目を逸らした。
「……そういうわけではなくて」
「そうじゃないんだ!」
イリスの言葉を遮って、レゼダはイリスの手を取った。眩いばかりの笑顔をイリスに向ける。
「イリスは僕と結婚したくないわけじゃないんだね?」
「いや、その、でも」
「良かった! わざと聖なる乙女にならないようにするまで嫌われてたらさすがに悲しい」
レゼダに言われて、イリスは胸をおさえた。
罪悪感が酷すぎる……。嫌いではない。嫌いではないのよ。でも、なんていうか、なんていうの?
「そうじゃないんだよね? イリス」
「……は……い……」
ダメ押しされるようにレゼダに問われて、イリスは力なく頷いた。
「なら、イリスに魔力がなくても僕は気にしないよ。僕はそのままの君が好きだから」
レゼダはキラキラと微笑んだ。背景にバラの花が咲いて見える。しかも大輪のピンクの薔薇である。
う、眩しい。なんて嬉しいことをそんなキラキラに言ってくれるの!
イリスはうっかりよろめいた。
レゼダはいつだってイリスの欲しい言葉をくれるのだ。だから、と思って頭を振る。
シッカリするのよイリス! 殿下を好きになってはだめ。メリバもバッドも阻止させていただくんですからっ!
「わかった? イリス」
レゼダのダメ押しに、しかしイリスは無言でコクと頷いた。








