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31 適正確認再び


 イリスはシティスと共に魔導宮の小部屋にやってきていた。

 そこには、特別魔術部門の責任者パヴォが一人待ち構えていた。テーブルの上には元に戻った石板がある。


 やっぱり弁償かしら……。返せる金額なのかしら。


 不安な瞳をシティスに向ければ、シティスは真面目な顔で頷く。

 イリスはゴクリと唾を飲み込んだ。


「イリス嬢、後ほど学園で正式な適性測定をすることになるかと思いますが、先にこちらで受けて欲しいのです」

「どうしてですか?」


 シティスの言葉を不思議に思う。


「とてもいいにくいことですが、あまりよくない結果かもしれないので、事前にお知らせできたらと思いまして」

「……良くない、結果……」


 イリスは不安になってシティスとパヴォを見る。シティスは戸惑うような顔で、パヴォはフードの中からワクワクが隠せないといった顔でイリスを見ていた。その顔は幼い。


 うん、ヤバそう。


「イリス様、水をつけていただけますか?」


 パヴォの高い声にイリスは従った。石板の隣に置かれている、水の入った器に手を浸す。前回と同じように、ゾクリと嫌な感じがする。


 でも今回は慌てちゃダメ!


 反射的な嫌悪感を、大きく息を吸い抑え込む。


「シティス様、イリス様の手を取って、石板に手をつく前に魔力をのせてください」


 パヴォの指示にシティスが従う。シティスがイリスの手首を持ち、そこがほの青く光る。


「では石板に」


 イリスは石板にそうっと手のひらを添えた。シティスは手首を握ったままである。


 今度は透明ではなく濃紺の文字が浮かび上がる。

 

 【記憶力3 判断力3 筋力4 瞬発力4 持続力3 魔力3 魅力4 適性:武術】


 イリスは結果にホッとする。特に目立つ結果ではない。


「イリス様そのままで。シティス様、魔力を弱めてください」


 シティスの発する青い光が弱まる。それに比例して濃紺の文字の魔力のゲージが下がる。今度は2だ。


 パヴォはハァハァと息をして、シティスを見た。


「……さすがシティス様……まだいけますか? もっと下げられます?」


 ハァハァ言っているパヴォをシティスは呆れた目で見ていた。イリスは引いている。


 私、知ってる。この顔、オタクが推しを見てる顔だ……。


 さらにシティスの光が弱まる。ゲージが1より下がり始める。文字も透明に近づいていく。


「あっ、あっ、あ、最高ですぅ……! シティス様ぁ……。こんな繊細な魔力の使い方、シティス様にしかできないわ」

「もう限界だ」


 シティスが言った瞬間石板が震えた。


「イリス嬢、手を放して!」


 シティスに引っ張られるようにしてイリスは手を放す。


 途端に文字がかき消えた。


 パヴォはハァハァしながらイリスを見た。


「やっぱり、やっぱり、石板の文字は魔力の色だったわ! だからやっぱり、イリス様には魔力がありません」

「魔力がない?」


 イリスはパヴォをみた。


「魔力がゼロなんです。今回解析して見て分かったのですが、石板は基本1から5までの評価を測るように作られているようなのです。そこへ0のイリス様が現れた。初めての状況に、判断できなくなってしまったのではと、イリス様の魔力の代わりにシティス様に魔力をのせてもらいました。石板のギリギリ耐えられる数値まで魔力を下げてみたのですが、シティス様はまだ魔力をのせていましたよね?」

「ああ」


 シティスが頷く。


 プログラムのバグかー……。それにしても本体壊れる? 普通。


 イリスは遠い目をしてしまう。


 でも、安心した。よかった。私のせいじゃない。


「この石板ではイリス嬢の適性は計れません。先ほどの結果と合わせて学園には魔導宮から伝えておきます」


 シティスが言った。そして痛ましいものでも見るような目でイリスを見る。


「イリス嬢、あまり気を落とさずに」


 イリスはキョトンとする。


「学園に入学してきたもので、魔力がゼロという話を聞いたことがありません。これからご苦労されると思います」


 シティスの声は悲痛だったが、イリスはガッツポーズを取る。


「やった! やったわ!! これで私は聖なる乙女にはなれないわ! 早くお父様にお知らせしなくては!」


 喜ぶイリスをシティスは間の抜けた顔で見た。


「喜ぶんですね?」

 

 シティスは戸惑っている。


「わかります!」


 共感したのはパヴォで、イリスは不思議に思う。シティスはため息をついた。


「パヴォ嬢も聖なる乙女候補だったのです。魔力は聖なる乙女に勝るのに……。今は聖なる乙女の補佐官でもあります」


 パヴォはフードの中に顔を隠してしまう。


「……困ったことがあったら相談してください」


 しかし、パヴォは俯いたまま小さな声でそう言った。


「はい!」


 思わぬところで先人に巡り合ったイリスである。


「あの、魔力がないと学園は退学になりますか? それはできれば避けたいのですけど……」

「他の成績がよいですし、退学になることはないと思います」

「ならよかった!」


 シティスの答えにイリスは安心した。大満足な結果である。ルン、と立ち上がる。


 早速、お父様と殿下に報告しよう! 


「お待ちください、イリス様」


 声をかけたのはパヴォだった。ハァハァと荒い息をして、熱い視線をイリスに向けている。


 こ、こわい……。


「イリス様、あの触ってもいいですか?」

「ひぇ? 嫌です!」


 涙目でイリスは即答し、ソファーの裏側に逃げる。

 ハァハァしながら言われたら身の危険を感じるのが普通だろう。


「ちょっとだけ。さきっちょだけでいいから……」


 イリスは後ずさり、両手と頭を振って拒絶する。恐怖のあまり声も出ない。


「止めなさい。怖がっています」


 シティスがパヴォを窘める。


「でも、シティス様。ずっと、ずっと、この機会を待っていたんですっ」


 にじり寄るパヴォ。イリスは逃走経路を確認した。


 最悪、殴って逃げる。よし、いけそう。


 手を伸ばしてくるパヴォを払いのけ、青いドアへ駆け寄り、ノブに手をかける。





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