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28 学園生活


 学園生活はつつがなく始まった。


 シナリオ通り、レゼダとカミーユ、ニジェルとメガーヌは同じクラスになり、イリスは別のクラスだ。

 メガーヌはどうやら、カミーユが養女に入った男爵家の娘のようだった。同じ苗字を名乗っている。メガーヌはあっという間にカミーユの親友的存在となったようだ。ただ、とても引っ込み思案なのか、誰かがカミーユと一緒にいるときは離れた場所にいることが多い。


 ご令嬢などに囲まれているときは、カミーユの側で守ってあげればいいのにと思わないこともないが、メガーヌは輪の外に逃げてしまう。大人しそうな彼女のことだ。気の強いご令嬢に立ち向かうことなどできないのかもしれない。


 最近のイリスは、『千年の眠り(シティス)』ルートにさえ入らなければ、問題ないと思ってる。そして、シティスの恋人が生きている今、そのルートはないと思える。


 イリスはカミーユの恋を邪魔する気はさらさらないし、レゼダとは婚約もしていない。

 普通に王子と聖なる乙女が結婚すれば、王道のハッピーエンドになると思われた。

 ニジェルにしても緊縛拘束趣味は無いようだし、普通に普通に結婚すれば特に問題はないのだ。




 イリスは学園内の掲示板の前に一人立ちすくんでいた。

 先日あった入学テストの結果が張り出されていたのだ。


 ノォォォォォ!!


 結果に呆然とする。

 先ず、実技の剣術。これは自信があった。当然の一位だ。そうでなくては困る。最悪の場合、王子も魔導士も騎士も物理で倒して逃げ切る所存なのだ。負けるわけにはいかない。

 そう思って臨んだトーナメント戦。数ある男子を薙ぎたおし、ニジェルを打ち負かし、燦然と一位に輝いたイリスは模造剣を空に掲げた。女子の歓声が響いたのは言うまでもない。


 そして魔術。最下位。わかる。それでよい。納得だ。なにしろ何もできなかった。ニジェルでさえ小さな風を起こしたのに、イリスは本当に一切何もできなかった。心配した妖精が縦ロールからイリスへ手伝いを申し出てくれたが当然断った。それをしたら不正である。ついでに今後の学園内での出入り禁止をお願いしたら、妖精たちが髪を引っ張って抗議して大変だったので、魔力を使ったお手伝いは禁止、ということで納得してもらった。フヨフヨ漂ってお話ししている分には、可愛くて癒される。



 最後にペーパーテスト。これが問題だ。これもなんと一位だったのだ。

 本来ならばここでは、カミーユが魔術の実技とペーパーテストで一位にならなければならないのだ。その為にレベル上げをした日々をイリスは思いだす。ここで、実力を周囲に認められ攻略対象者から興味を持たれる重要なイベントなのである。しかし、今回カミーユは魔術で一位、ペーパーで二位だった。


 ヤバい。ヒロインの恋愛フラグを折ってしまった?

 いや、でもまぁ結果オーライかも。特にヒロインの恋愛フラグを折る気はないけど、メリバを防ぐためには攻略対象者から興味を持たれない方がいいはずよね。カミーユなら可愛いから、攻略対象者以外の子にもモテるでしょ。


 メリバフラグを折ったと気軽に考えるイリスである。


 殆どの問題はレゼダに教えてもらったものだったし、応用問題はゲームで見覚えのある問題ばかりだったから出来が良かっただけなんだけど。

 なんか、カンニングしたみたいな気分だわ……。


 ゲームで得た知識で取った高得点。ある意味オタクの実力発揮なのだろうけれど、なんとも据わりが悪い。かといってわざと間違えるのも違う気がする。


 チクチクと視線が刺さる。入学式の後で、イリスは石板を割った規格外新入生としてすでに有名人になっていたのだ。どれだけ腕力で割ってしまったと説明しても、令嬢がそんなことできるわけないと誰も納得してくれない。挙句の果てに謙虚だと言われる始末だ。


 でも、この結果ではっきりしたわ。私の魔術の適性はない! 聖なる乙女の適性はない! そして武術の適性はある。私の将来は武官! 石板、腕力で割れたってみんな納得!


 


「イリス凄いね」


 声をかけてきたのはレゼダだ。レゼダは今回魔術は二位、ペーパーテストで三位だ。武術は三位である。二位はニジェルだ。


「殿下にご指導いただきましたから……」


 なんとなく罪悪感を感じるイリスである。


「レゼダ、だ」

「レゼダ様」


 僕が教えてきたのは学園の勉強じゃなかったんだけどね、レゼダがボソリと呟くがイリスは意味がわからない。

 キョトンとしていれば、ニジェルがイリスの腕を引っ張った。レゼダから距離を置かせるためだ。


「令嬢として武術で一番はどうかと思ってたけど……、学問の成績もいいなら何も言えないね。ボクも頑張らないと」

「今回はたまたまよ、ニジェル。武術だって僅差だったわ」


 イリスは慌てて否定する。ニジェルには油断してほしい。頑張って武術など磨かれては困るのだ。今回だって接戦だった。本当はニジェルが押していたのだ。


「そう言えば、ニジェル。試合中に何かに気を取られたでしょ? あれがなければ私負けてたわ」


 ニジェルはイリスの指摘に苦笑いする。ムキになって必死で戦うイリスがちょっとかわいいな、なんて思った瞬間に逆転されたとは口が裂けても言えない。


「試合に集中できないボクが弱いよ」


 これは、ニジェルの本音だ。しかし、ニジェルの弱点がイリスなら、直接対決では不利ではある。メンタル強化が今後の課題だとニジェル自身も思っている。さすがにいつまでもイリスに負け続ける気はなかった。


 騒めきが聞こえて振り向けば、カミーユとメガーヌが掲示板を眺めていた。カミーユはイリスを見つけてパッと顔を輝かせた。


 うっ! ヒロインの笑顔っ! 眩しい!


 思わず後ずさる。


「イリス様! おさすがですね!」


 トトトと駆け寄るカミーユを遠巻きに見ているメガーヌ。


「カミーユさんこそ」

「頑張りました!」


 素直に喜ぶカミーユに、後ろの方から図に乗ってる、マナーを知らない、そう聞こえよがしな陰口が飛んだ。

 カミーユはその声にギクリと体を強張らせる。


「し、失礼しました、イリス様」


 ヒロインて、大変ね。


 イリスは、深くため息をついた。そして周りに聞こえるよう通る声でカミーユに告げた。


「本当にカミーユさんはマナーをご存じないようですわね」

「っ! ……す、すみません」


 カミーユが身をすくめる。


「今後、私がみっちり教えて差し上げますわ。覚悟なさいね?」


 ニンマリ、イリスは笑いながらあたりをグルリと見渡した。周囲にいた人たちは、一歩下がる。メガーヌも一歩下がった。


 あ、悪役令嬢が過ぎたかも?


「ありがとうございます! イリス様!!」


 鈍感強引ヒロインは、そう喜んでイリスの手を取った。


 うん? 悪役令嬢のはずなんだけど?


 喜ぶカミーユにイリスは戸惑いつつ、カミーユにマナーの指導をする口実ができたことに安心した。


 まずは、跳ねた髪の毛を直して基礎的なマナーね! 私が可愛い淑女に育てたる!


 変な気合が入るイリスである。




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