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27 お説教の始まりだ


 イリスは学園の懇談室へ連れてこられた。

 三人の攻略対象者は、イリスに不信の目を向けている。

 石板を壊したせいで式典はめちゃくちゃだ。その上、彼らのお姫様、聖なる乙女カミーユに入学前に接触したことが知れたのだ。

 突っ込みどころ満載である。


 さて、どこから怒られるのかしら……。っていうか、弁償できるものなのかしら? 初日からいろいろ無理……。泣きたい。


 イリスは遠い目で懇談室の天井を見た。


 あ、凝った壁紙なのね。蔦の絡まる意匠に花。この蔦をたどっていくと向こうのつたと絡まって……。


 完全に現実逃避するイリスを見て、シティスがため息をついた。


「まず、石板ですが魔導宮で修復するので弁償の必要はありません」

「! それは良かったですわ! ありがとうございます! ありがとうございます!」


 ガバリと頭を下げれば、ゴチンとテーブルに額がぶつかり、ブルンと縦ロールが跳ねた。


「壊れた原因も究明しなければいけませんし、それを嬉々として待つ魔導士もおりますので」


 シティスとイリスは同時に特殊魔術部門の責任者を思い出して苦笑いする。


「でも原因は力強く叩いたせいだと思います……」


 イリスがシュンとする。


「石板を壊す腕力って……イリスはどこまで強くなるつもりなの」

「ニジェルには負けないわ!」


 最悪、攻略対象者を殴って逃げるんだから!


「いや、そろそろ負けてくれない? 令嬢としてどうかと思うよ」


 ニジェルがため息をついた。

 

「原因は力じゃない、そうだよね?」


 レゼダの問いにシティスが頷く。


「それを調べたいと思います」

「ま、魔力なんてないですよね?」


 イリスがシティスを見た。シティスの片メガネに魔法陣が展開する。そうして、確認するようにイリスを見てからため息をついた。


「そうですね。やはり魔力が多いとは思えません。あってもニジェル様と同じくらいでしょう」

「であれば、私の特性は武術ですよね? 魔法はないですよね? 聖なる乙女の可能性はないですよね?」


 イリスがシティスを問い詰めれば、シティスはゆったりと微笑んで見せた。

 イリスが安心して、息をついた瞬間。


「可能性が高くなりました」


 想像していた答えと反対の答えに、イリスはのけ反る。


「石板が壊れるなど前代未聞です」

「だから、強く叩きすぎただけです!」


 なんてことだ。こんなことなら、もっとそっと触ればよかった。残業終わりのエンターキーのごとく叩きつけなければよかった。


 きっと、ゲームでもこのアクシデントのせいで、イリスの正確な適性が不明となり聖なる乙女候補から外れなかったのだ。


「石板が直り次第、あらためてイリス嬢の適性を判断することになるでしょう」

 

 シティスの言葉にイリスは疑問に思う。


 ? だとしたらその時点で外されるのよね? ゲームでは外されなかったってことは石板なおらなかったの? シティス様やパヴォ様なら意地でも直しそうだけど。ゲームでは関わってないのかな?


 考えてもわからないのでイリスはとりあえず保留することにした。



「では、本題に入ってもいいかな?」


 レゼダがニッコリ笑う。


 石板が本題じゃなかったのか……。


 イリスは視線をそらした。 


「イリスが彼女のこと知っていることは聞いていたよ。でも、あんなに仲が良いなんて、どれだけ町で遊んでいたのかな?」


 レゼダの問いに、シティスも同感だというようにイリスを見た。


「で、けっきょく、あの子は何なの。イリス」


 不機嫌に問い質すニジェル。


「痘痕に塗る椿油の店にいた子よ。私も話したのは一度きりなのに、驚いているぐらいよ」


 イリスだって驚きなのだ。会ったのはたった一度きり。しかも、二年も前だ。バレないように変装までして、身分も名前も明かさなかった。それなのに、この展開。イリスにしてみれば、ゲームの陰謀にしか思えなかった。

 ただ、イリスの詰めが甘かっただけなのだが。


「それにしたって、イリスのことをお姉さまだなんて。イリスはボクの姉なのに」


 なんだ。ニジェルはそれで不機嫌だったのね。可愛いこと言うじゃない。


 ニジェルはなぜか真っ当なお姉ちゃん子に育っていた。喜ばしいことである。


「なにを当たり前のことを言っているの。名前を明かせなかったから、便宜上そう呼んでいただけよ。私の弟はニジェルだけよ」


 ニジェルは納得したように頷いた。


「それでイリス嬢はあの子の身寄りをご存じなのですか?」


 シティスに問われ、イリスは口を噤んだ。ニジェルもレゼダもいるここで、サド家の隠し子だと言って良いとは思えなかった。


「一度会っただけですもの。存じません」

 

 イリスは俯いたまま小さく答えた。


 その様子を見てシティスは小さく肩をすくめた。シティスもイリスからカミーユの存在を聞いたころから、彼女のことは気になっていた。調べれば、彼女の母は元サド家のメイドで、シティスの面倒を見ていたがある日突然姿を消した者だった。父に直接確認は取れていないが、何かの関係があると思ってはいる。しかし、サド家が公表しない以上、シティスもまた知らぬふりをするしかない。


「……わかりました」


 イリスとシティスの間に、なんとも言えない空気が漂った。


「イリス、君は本当に目が離せないね。閉じ込めてしまいたくなるよ」


 レゼダがため息交じりに言う。イリスはゾッとした。流石『籠の中の愛』ルートのレゼダだ。監禁願望がだだ漏れている。


「殿下、女性は縛り付けるものではありませんよ」


 ニジェルが注意した。『愛の鎖』ルートのニジェルが、縛ることを否定したことに、イリスは感動した。この傾向なら、ヒロインと結ばれても大丈夫だろう。


「そうよね! ニジェル、さすが紳士だわ!」


 ニジェルの真っ当な成長にイリスは感激し、目をキラキラさせてニジェルをみた。ニジェルは照れたように微笑み、当然だよとうそぶく。

 イリスは目頭をそっと押さえた。レゼダは不服そうだ。


「それに姉のことはボクが守りますから安心してください。殿下」

「君の姉君は守らなくても大丈夫かと思いますよ?」


 ニジェルが言えば、シティスが笑った。


「なんといっても王宮で、王子を捻りあげるような人ですからね。そして先ほどは聖なる乙女候補まで」


 シティスの一言で、レゼダもニジェルも、何とも言えない顔で黙った。

 イリスは恥ずかしくて穴にでも入りたい気分だった。




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