26 適正確認
これから入学式だ。ホールへと集合し、入学式がはじまる。
グルリとあたりを見回してみる。
新入生の列の後ろの方には、ヒロインのカミーユ・ド・デュポンが隣のメガーヌと仲良さげに話していた。
カミーユは素材は良いのだが、あか抜けない。町娘としては可愛い。しかし、水色の髪など寝ぐせで跳ねてしまっている。無頓着なのだろう。
洗練された貴族のお嬢様方の中に入ると、なんとも野暮ったく見えてしまうのだ。しかし、野暮ったくはあっても磨けば光る何かを感じさせ、すでに人目を引いているようだ。チラチラと彼女を見ている人たちもいる。
在校生の代表として、三年生の生徒会長が挨拶をする。
新入生代表として壇上に上がるのは、第二王子レゼダ・ド・ゲイヤーである。女の子たちのさざめきが起こる。
イリスと言えば少し遠巻きに見られていた。悪役令嬢らしいキツイ面立ちと、土痘の生き残りだと知られているためだろう。イリスは隠れてため息をついた。
これで友達作れるのかしら? 貴族ってどうやって話しかけるの? あのゲーム知ってる? とか流石にないわー。 本読んだ? 舞台観た? あたりかしら?
式典の最後には新入生の名前が呼ばれ、現時点での適性確認が行われる。
日本の学校でも行われる健康診断のようなものであり、能力値の測定と適性を見るのだ。記憶力・判断力・筋力・瞬発力・持続力・魔力・魅力の七つの能力値をみる。評価は五段階。3が標準だ。適性は、学問、武術、魔法の三種類で、武術と魔法を併せ持つものは魔法騎士を目指したりする。
足りない部分は努力して、次年度にあげていく。卒業まで平均3.5以上にするのが目標である。
聖なる乙女や魔導士になる者は、当然魔法の適性が必須だ。
特殊な水に手を浸し、石板に濡れた手のひらを置けば、手のひらの水が色のついた文字となって石板から舞い上がり、記録書に吸いこまれるのだ。
ちなみにゲームではこのシーンはヒロインしか映っていなかった。
イリスはドキドキとして様子を見守った。
どう考えても、この時点で私は聖なる乙女候補から外れるはずなのよねー。
魔法の使えないイリスである。どうしてゲームで候補者に残っていたのか不思議でならない。
一番初めはレゼダだ。レゼダは堂々とした歩みで前に出て、手を水に浸してから石板へ手形を付けた。
スルスルと桜色に金粉の混じった文字が宙に浮き、能力値が表示される。
【記憶力4 判断力4 筋力3 瞬発力4 持続力3 魔力4 魅力5 適性:オールマイティー】
おさすがの一言よね。もう学ぶことなんかないじゃない。
イリスはしみじみと思う。
続いてニジェルの名が呼ばれる。ニジェルの文字は髪と同じエメラルドグリーン。勇者の色だ。
【記憶力3 判断力3 筋力5 瞬発力4 持続力4 魔力2 魅力4 適性:武術】
ニジェルでも魔力はゼロじゃないのね。私にも少し魔力はあるのかしら? 使える気がしないけど。
イリスは不思議に思った。イリスとニジェルは双子だ。適性もきっと同じだろう。
間をあけてカミーユだ。カミーユの文字はキラキラと輝く虹色ホログラムの乳白色で、教師の間からザワリと声が上がった。珍しいのだろう。
【記憶力4 判断力2 筋力2 瞬発力2 持続力4 魔力4 魅力4 適性:学問・魔法】
持続力が高いのは諦めないひたむきさが表れているのだろう。ヒロインだから魅力や魔力が高ポイントでざわめきが起こる。適性は、学問と魔法だ。聖なる乙女になるには必要な適性である。ゲーム通りだ。
やっぱりカミーユが聖なる乙女よね……。
うんうん、と一人納得するイリスである。
平民の癖に、本当に聖なる乙女なの? 不満げな声が周りに満ちる。
カミーユは慌てた様子で周りを見回した。信じられない様子で、「うそ」と呟く。
レゼダが「ふぅん」と興味をそそられたように呟く。ニジェルもカミーユを興味深そうに見た。
そして最後はイリスの番である。ゴクリ、覚悟を決めて水に手を浸けた。搦めとられるような悪寒が手から這い上がる。ゾワリと身震いし、未来への恐怖のあまり思わずパーンと石板に手を叩き付けた。
ピシリ、不穏な音がして石板にひびが入る。そこから眩い光が漏れ出して、透明に浮き上がった文字がぐちゃぐちゃに乱れる。
「え? え? え? なにこれ?」
慌てるイリスの手をレゼダが引っ張り抱き締める。シティスが石板の前に立ち、魔法陣のシールドを展開する。シティスとレゼダの間にニジェルが剣を構えて立った。
パン、と乾いた破裂音と共に石板が真っ二つに割れた。
静まり返る式典会場。
イリスに視線が集まる。イリスはレゼダの腕の中で、無理やりに笑顔を作って見せた。
やばい。まずい。どうしよう。こういう時、令嬢は土下座とかしないわよね? なんていうの? 今まで知っているあらゆる令嬢降臨して!
前世で見た数々の令嬢を思い出す。しかし思い出した令嬢がまずかった。イリスが思い出したのは悪役令嬢だったのだ。圧倒的に多い、令嬢の悪役感。
「……ごめんあそばせ? 壊れてしまいましてよ? わたくし弁償いたしますわね?」
イリスの一言に、周りは凍る。レゼダがプッと噴き出した。ニジェルが膝をつき、シティスは肩をすくめた。








