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17 レゼダの幸せ引き籠り生活

 

 それからレゼダはイリスの家の離れに住み込んだ。

 世話は当然イリスがすることになった。周りの不安を解消させるため、感染者として扱い、安全であることを証明するのだ。

 毎日王宮からは使者がきて、様子を確認して帰る。

 レゼダはイリスの元でののんびりとした生活を気に入ったようだった。

 一応、レゼダが感染しているかもしれないという手前、イリスが侍従の仕事をすべて引き受けているのだ。


 食事はイリスが運び一緒に食べる。二人で剣の手合わせや乗馬などをして運動し、チェスで遊ぶ。少しの勉強。そして寝る前の着替えまでイリスが手伝う。

 ボタンを外しやすいように従順に首を上げるレゼダを見てイリスはため息をついた。レゼダは十三歳。この世界では一応子供に分類される。


 服ぐらい自分で脱ごうよ……。いくら子供でもそろそろお年頃の男女なんじゃないの? 殿下が私に興味を持つわけない。わかってるけど、傷物令嬢だからって、どうなのよ?


 イリスは思うが、こちらの世界の習慣上何も言うことはできない。

 もちろんレゼダは自分で着替えられるのだが、イリスには黙っている。折角イリスが着替えさせてくれるのだ。二度とないチャンスを存分に堪能しようという下心だ。


 不機嫌にイリスがボタンを外していれば、レゼダがイリスの縦ロールを引っ張り離した。ボヨヨンと縦ロールが跳ねる。

 イリスはムッとする。


「ボヨヨンは止めてください」

「だって可愛いから」


 至近距離でイケメンにニッコリ笑われて、イリスは言葉を失い目を逸らす。恋愛感情などなくても、イケメンはイケメンである。

 レゼダは再びボヨヨンと髪で遊んでいる。

 イリスは咎めることを諦めた。王宮と違う侘しい状況なのだ。こんなことでレゼダが慰められるなら甘んじて受け入れよう。

 黙ってボタンを外しきれば、レゼダが笑った。


「ここまででいいよ。後は自分で出来る」


 一度部屋から出てレゼダの着替えを受け取る。着替えはすべて捨てて良いと父から言われている。ここでの衣食住はすべてイリスの家が用意しているのだ。


 お貴族様、すごいわね……。


 前世では想像できない生活にイリスは呆れかえった。勿体ないので、装飾の少ないものはこっそり洗濯し洞窟へ持っていくことにした。



 レゼダがイリスの家に滞在し始めて二週間が過ぎた。物理的な距離の近さのためか、二人はすっかり打ち解けた。

 今、レゼダのいる離れに入れるのはイリスだけだということもあり、何かとイリスと行動を共にしたがる。そうやって一緒に過ごしていれば、レゼダは意外にお茶目な甘えたがりだということがわかった。


 王子として帝王学を仕込まれているから、愛に飢えてたのかしらね?


 イリスは思いながら、「あーん」と口を開けているレゼダの口に青梗菜を突っ込むのだった。


 朝食を終え、午前中には少し勉強をする。ほとんどレゼダがイリスへ教える形だ。国の歴史や王宮の仕組み、細かい王宮でのマナーなどだ。

 土痘に罹って引き籠っていた分だけイリスは勉強が遅れていた。国の歴史などは勉強していたが、王宮の仕組みやマナーなどはまだ知らなかった。こんなに詳しく勉強するものだろうかと不思議に思ったが、レゼダ曰く、学園に入学するためには必要だという。


「一緒に学園に通えたら楽しいと思わない?」


 レゼダの提案にイリスは頷く。


 確かに、入学はしておいた方が良いのよね。カミーユの近くで軌道修正できた方がいいし。ニジェルの変態化を止めないといけないし。できたらレゼダ様のヤンデレ化も止められたらいいんだけど。


 尋ねれば詳しく教えてくれる知識豊富なレゼダに、イリスは驚いていた。同じ年なのに知識量がだいぶ違うのだ。ずいぶん勉強してきたのだろう。

 秘匿されている妖精についても詳しく、イリスはレゼダからいろいろなことを教えてもらった。


「妖精の長は七人。それぞれ違う色の羽根を持っているそうだ。ソージュ様は紫の長。僕はまだお目にかかったことはないけれど、父の守護妖精は橙の羽根を持つそうだよ。皆、羽根と同じ色のストラに決まった刺繍をつけているから、初めて出会っても誰が誰かわかるんだ」

「ソージュ様は、セージの刺繍ね」

「そう」


 レゼダは残りの妖精の長についても丁寧に教えてくれた。


「こんなに教えてもらって大丈夫かしら?」

「イリスはもう長に会ったから特別にね」

「ありがとうございます!」


 素直に学ぶイリスではあったが、それがお妃候補の勉強の一部であることをレゼダはあえて黙っていた。



 昼食を二人で取り、午後は少し微睡時間だ。夜に黒い森の洞窟や町のワクチン接種の状況を確かめに行っているイリスにしてみると、午後のレゼダとのノンビリタイムはありがたい。レゼダはイリスの事情を知っているから、転寝を咎めることなどなかったし、「膝を貸してあげようか」なんて冗談を言うほどだった。

 眠りこけるイリスの頭を撫でる時間は、レゼダにとっても至福の時間だった。無防備に眠るイリスの縦ロールをクルクルと指に巻き付けてみる。

 起きているときは、反射的に腕を捻りあげたりするくせに、安心して眠ってしまえばされるがままだ。そんな幼子のようなイリスをいとおしいと思う。


 シエスタで英気を養ってから、少しの運動をする。今日もレゼダとイリスは、剣の手合わせをしていた。初めに比べて腕を上げてきたレゼダに、イリスは最近焦りも感じている。焦ったあげく、隠れて筋トレまではじめる始末だ。


 そろそろ負けちゃいそう! でも絶対負けたくない! レゼダ様はもちろん、ニジェルにだって戦闘力で負けるわけにはいかないの! 最悪、戦って逃げ切るんだから!


 フンと鼻息荒く打ち返せば、レゼダの剣が弾かれて宙を飛ぶ。クルクルと回転する木製の剣が、トスンと芝に刺さる。


「わっ! 元気だね?」


 そこにはブルエ王太子が驚いた顔で立っていた。むろん、後ろには騎士が控えている。


「兄上!」


 レゼダはブルエに近寄ろうとして、しかし、思いとどまったのか足を止めた。

 イリスもそれを見て、距離を取ったまま礼をする。


「二人とも気にしなくていいのに」

「殿下!」

「君たちは下がっていて!」


 控えの騎士が咎めるが、ブルエは厳しく静止を命じる。ツカツカとレゼダに近寄って、桃色の髪をくしゃくしゃに撫でまわした。





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