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風ゆく夏の愛と神友  作者: いすみ 静江✿
第四章 慈愛のサファイヤ
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第四十話 心のスケッチ

 フラ(Republique)ンス( francaise)パリ(Paris)に入ったAyaとKouは、シャン(Avenue )ゼリゼ(des )(Champs-)(Elysees)を散策していた。


「あそこにむく様がいらっしゃるわ!」


「Aya、視力がいいのは雌豹並みだな」


 Kouに背中をぽんと叩かれた。

 照れたAyaは以前のように後ろから迫られても怒らなかった。

 それは、相手がKouだからだろうか。


「Aya様にKou様。驚きました」


 むくは、スケッチブックを広げていた。

 2Bの鉛筆を描きかけの人物の上に置くと、二人をにこにこと見つめてほっこりと笑顔になる。


「ああ、河合亜弥様ですね。おめでとうございます」


 Ayaは、ここへ来る途中に用意していたものがあったのだが、使い道を間違えてしまった。


「きゃー。ありがとうございます」


 バラの花束でAya自身の顔を隠してしまったのだ。


「Aya。そのバラは何だっけ? 自分のではないよ」


「あ、ごめんなさいね。はい、年の数だけ揃っているわ」


 Ayaは、花束に笑顔も添えて差し出す。

 むくは、顔が固まってしまい、うっすらと涙まで湛えている。

 やはりそうなったかと、Kouの顔には書いてあった。


「う……。受け取れません。これでは、Aya様のお花がなくなってしまいます。それにお花を買うお金もなくなってしまいます」


「や、やだわ。むく様……。私達、他人じゃないの。神友でしょう? 少なくとも私はそう思っているわ」


 行き交う人々を描いていたスケッチブックに涙が落ちる。

 Ayaが、買ったばかりのピカソのハンカチを差し出すと、むくの変化に気が付いた。


「あら? リップクリームだけ塗っているの? 桜色が似合うわ」


「アチャ。少し女の子になりたいです」


 そこへ、スマートフォンが鳴動する。


「ウルフおじいちゃまですか。はい。はい。分かりました」


 お辞儀をしながら話すのは、国民性だろうか。


「おー、ウルフ師匠。相変わらずタフでお元気だろうか?」


「この頃は、そんなに元気はありませんよ」


 むくが小声で伝える。


「私は帰ります。もう夕方ですし、何か召し上がりますか?」


「いいわね。手紙に書いた通り、腕を振うわ――」


 Ayaは、話すトーンが落ちたかと思うと、顔を上げた。


「むく様? 『私』! 『私』と仰りませんでしたか? ご自身のことを……!」


 むくは、シャンゼリゼ通りのレモン色の風に吹かれ、髪をさらさらと流しながら微笑む。


「はい、『私』です」


 Ayaは、むくがスケッチブックを落すのも構わずに、抱きしめた。


「むく様――!」



 Ayaは、むくの頬を涙で濡らした。




 ――その日から暫くは、むくのスケッチ旅行を共にした。





 ◇◇◇


 Ayaは、神友との別れの朝に、母との別れを思い出した。

 切なくて、何ともいいようのない無情さ。


 しかし、そのお陰で李家で仕事をすることになり、Kouとも出会えた。



 巡る四季の中で、この夏のしぶとさは忘れられない。


 むくの崩壊とそこからの立ち直り。



 Kouが、どんな形でもいいからAyaを愛してくれたこと。



 そして、AyaもKouに気を許せるようになったこと。






 恋が愛へ――。


 Ayaの恋も愛へと季節を変え、色づく葉が美しい。



 ……それは、心の色だから。



 むくが描いてくれた、『AyaとKou』を胸に抱く。


「さあ! Kou、新しい仕事よ!」
















Fin.

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