使徒の救い 1
運命の出会いなどこの世には存在しない。
もしもあるとするのなら、それは、
ただの質の悪い嫌がらせだ。
いつものように朝は誰にでも訪れる。
ただ僕の場合は、これが最後の朝になるだけだ。
窓から朝日が入ってきてとてもきれいだ。
そして、今目の前には踏み台と天井につながっている首吊り用に作った縄がある。あたりにはボロボロのプリントや教科書が散らばっている。このままだとまた親に片付けなさいと怒られる。いや怒られない。怒ることができない。怒る相手がいないのだから。親の悲しむ顔が目に浮かぶ。もう休ませてくれ。首に縄をかけて踏み台を蹴る。
目の前が真っ赤になる。すると脳裏に、ある女の姿が浮かんだ。腹を押さえあざ笑う姿が。僕を囲んで笑っている奴らが。せめて最後に仕返しでもしておけばよかった。そして僕は、糸が絡んでしまったマリオネットの様に動かなくなった。
あー死ぬとこうなるんだぁ。人生1度きりしかない死を感じる。まるで全身が濡れたように凄く寒い。ん?寒い?死んだはずなのに。おそるおそる目を開けるとそこには1本のろうそくに火がついていた。目の前には鉄格子がありここが牢屋だと理解する。手足には鎖が付いておりあまりよく動けない。どうして自分がここにいるのか、なんでこんなものが手足についているのか全くわからない。すると鉄格子の向こうから何か聞こえてくる。
カツーン。カツーン。これは、足音?誰かが来る。「下準備は終わったのかしら?」「はい。滞りなく。」暗闇の向こうから聞こえた澄んだ声。その声に応えたのは、しわがれた老人の声だ。
何の準備が終わったんだ?不思議に思う。すると、声の主が現れた。真っ赤なヒールに血でも吸わせたのかと思わせる鮮やかなドレス。真紅の髪に淡い紫陽花色の目。統一感がありセンスを感じる。だが次の一言ですべての印象が変わった。「楽しい遊びの始まりよ。」刺さりそうなほどに尖った八重歯を見せ、これから起こることを待ち望んでいたかのように笑った。
その刹那、左頬に強い衝撃が走った。