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撃滅機関の老害共  作者: 長埜 恵
本編
49/57

46 よろしく頼む

 真っ先に驚いたのは、青鳥であった。


『なんで!! オレが!?』


 カメの視界を共有したモニターにしがみつき、クローン体である若者は叫ぶ。

 その声を、ウサギはカメの耳を通して聞いていた。


 まあ、そうだよな。

 自分のクローン元と初めて会ったと思ったらコレだもん、普通びっくりするよな。


 ――そんなことを思っていたウサギであったが、ここで仮面を剥がれたピエロに一瞬の隙ができたことを、見逃す男ではなかった。


「ご尊顔ありがとう! はいドーン!!」


 ウサギはピエロの両耳を掴み、バイクから引きずり下ろす。そしてアクセルを回し、急加速でその場から逃げ出した。


 現在のウサギの体は、対システム用にプログラムコードに直接触れられるようになっている。よってこうやって不意をつけば、相手がシステムの中枢的存在だろうとぶん殴る事ができるのだ。


 ただしそれがバレてしまえば確実に対処されてしまうので、この手が使えるのは一度きりであるのだが。


「……なぁ青鳥。クローン元の個人データの一部が消えていたのは、そういうことだったんだよ」


 逃げながら、カメと脳を共有するウサギは、哀れなる部下に説明してやることにした。


「犯罪者の重要データの改ざんなんて、なかなか普通の人にできることじゃない。かといって、データを持ち出した比丘田がやる理由も無い。ならば残るのは、能力を知られたくないと思う強い権限を持った誰かさんだけだ」


 そしてそれは誰かと考えた時に、カメはピンときたのだという。


「黒幕の条件と照らし合わせてみても、正体は青鳥の元ネタなんじゃないか――ってね。そう考えれば、お前は他のクローン人間より、多少丈夫に作られていたのかもしれないな。でも、カメが持ち出したデータなんてごく僅かだったし、先入観で混乱させるのもまずいから、とりあえず保留にしといたんだとよ」

『えぇ……』

「ま、なんで能力のデータを消したかその理由までは知らんがな。それより、黒幕の正体は確定したんだ。そっちはよろしく頼むぞ」


 辺りが暗くなる。振り返ると、光を遮る大きな手が、バイクを押し潰そうと迫ってきていた。


「――絶対に捕まるなよ、ウサギ!」


 同体のカメに喝を入れられながら、ウサギは黙ってハンドルを握る手に力を込め、バイクごと体を倒したのである。










「オレのクローン元が、この事件の黒幕……!」


 青鳥は愕然としていた。


 過去、テロを計画した犯罪者としてスリープに入れられた自分のクローン元が、今またこんな大事件を起こしている。

 ――スリープ自体を無くし、更生した犯罪者が生きていける社会を創造するという、大義のために。


 そんな事実を目の当たりにし、平常心でいられる人間がいるはずもなかった。


 そう、彼には理解できなかったのだ。

 それならば何故、ヤツは自分が作り上げた社会で幸せに暮らす人々を、あっさり見捨てていけるのか。何故、ヤツは自分が救ったはずの犯罪者すら、スリープに残していけるのか。


 寸分違わぬDNAを持つ青鳥にもその答えは出せず、奥歯を噛み締めていた。


「……感傷に浸る暇は無いよ、青鳥君」


 鵜森の声が、青鳥の思考に介入する。鵜森はモニターから目を離さず、彼にとあるキーボードを投げて寄越した。

 慌ててキャッチし、青鳥は尋ねる。


「これは?」

「半自動DDoS攻撃機だ。要するにいくつかの仮想サーバ上にそれぞれ砲台を置き……や、理屈はいい。押せ。とにかく片っ端から押しまくれ。その際カメさんの視界を映したモニターをよく確認するんだぞ」

「……」

「どうした、急げよ」

「……鵜森さん、オレ、まだ生きていていいんですか」


 青鳥は震える声で尋ねた。それほどまでに、追い詰められた心境だったのだ。


 人質は、青鳥の体がクローン元に乗っ取られた時点で全員廃人状態になってしまう。そうなると分かった上で、約束だからとノコノコとスリープに生贄を差し出すバカはいない。むしろ十二時を待たず、真犯人が乗っ取る可能性のあるクローン素体は、ここで破棄されるのが得策だろう。


 そう考えての発言だったのだ。


 しかし、それを聞いた鵜森は、女性にあるまじき顔の歪め方をした。


「……は? 君の目は節穴か。まだ二時間半の猶予があるだろう」

「……」

「いいからそれを撃ちまくれ。安心しろ、十一時五十九分になってもまだ事件が解決してなかったら、私が君の息の根を止めてやるよ」


 鵜森の言葉は、本気であった。そんな彼女の目に、青鳥はふと火鬼投の目を重ねる。


 ……そうだ、まだ足搔ける時間はあるのだ。そして今の自分は、臨時警察官の青鳥である。

 「そっちはよろしく頼む」と言った上司を思い返す。あれは鵜森だけではなく、自分にも向けられていた言葉だったのだろうか。


 そうだといいな、と青鳥は思った。

 それならば、自分はまだこの世界に役目があるからだ。


 キーボードを持ち直す。せめて、これだけは全うしようと心に決めた。

 たとえ来たる十二時、自分の命が無くなっていたとしても。


 ――この役目が、青鳥セイヤが胸を張って生きていられたという、証なのだ。


 どこかに連絡する鵜森の隣で、青鳥はキーボードに義手を滑らせた。

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