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撃滅機関の老害共  作者: 長埜 恵
本編
43/57

40 道中

 鵜森の話を、ウサギらは固唾を飲んで聞いていた。彼女にとっては話し辛い面もあるのだろう。時折、痛みを堪えるように目をつぶっていた。


「……申し訳ありません。私がもっと早く総監に連絡していれば、もっとよく考査していれば、人工知能に余計な情報を与えなければ、このような事態を防げたかもしれません。今更言っても仕方ありませんが、大いに後悔しています」


 珍しくしおらしい様子でうなだれ、鵜森は火鬼投に言った。火鬼投は何か言おうと口を開けたが、その前に陰険な方のジジイが割り込んでくる。


「後悔しきりなのはよく分かった。で、君がわざわざこんなに時間を取って思い出話を聞かせてくれた理由はなんだ? まさかとは思うが、哀れなる傀儡と成り果てた人工知能をサルベージして残してくれだなんて、懇願するんじゃないだろうな?」

「……人工知能は既に変質してしまっている。そんなバカな話をするつもりはないよ」

「どうだか。そうは言っても目の前に現れたら分からんだろう」

「虫のいい話だが、ここに来て暴露している姿を証拠に信じて欲しい。私はむしろ、あの子を止めたいんだ」

「フン、そうか」


 鵜森の言葉に大人しくなったカメだが、一方すっかり説教するタイミングを逃してしまった火鬼投は顔をしかめた。まあ今はそれどころではないと割り切り、彼女に尋ねる。


「それジャ、アナタの懸念事項ってのは人工知能を操ってる黒幕の方ナノ?」

「はい。ヤツはいわゆる今回一連の事件の病巣です。これを取り除かない限り、いくら新システムに切り替えた所でまた同じことが起きかねないのではないかと私は危惧しています」

「でも、新システムには自我なんて無いんだろ? じゃあもう利用されることもないし、大丈夫なんじゃねぇの?」


 ここでウサギも会話に首を突っ込んできた。鵜森は、それを真面目な顔で否定する。


「本来、人間がシステムに何らかの影響を及ぼすことなんざできない。だというのに、それができるという時点でヤツは大変危うい存在なんだよ。下手をすれば、意思が持たないただの人工知能の方が、黒幕にとって御し易い可能性だってある。その場合だと、新システムに切り替わった時点で、今よりもっと悪い状況になるだろうね」

「マズイじゃん」

「そう、マズイんだ。だから、この黒幕をどうにかして抑えなければならない」


 鵜森の目が、ウサギに、そしてカメに向けられた。

 カメはその視線を振り払うように片手を振ると、呆れたように言う。


「バカバカしい。人間の意識をただの信号に変えて、システムワールドの中で探検させるんだぞ? 闇雲に動くだけでは勝算は無いに等しい。加えて真正面から乗り込むなんざ、スリープに取り込んでくれなんて言うようなものだ。すぐに行き詰まるに決まってる」

「そこは一つ抜け穴があるんだ。みんな、ついてきてくれないか」


 鵜森は親指で後ろを指す。時間も無い為素直に従う一座だったが、二つ目の曲がり角を過ぎようとした所で北風は足を止めた。


「……ここで私は別れ、システム管理部に行こうと思います。火鬼投総監、構いませんか」

「ン、そうネ、それがイイワ」


 了承する火鬼投に、スッと太陽が前に出る。


「ほなら僕も行くわ。能力の事もあるし、誰か事情を説明できるヤツが一人おった方がええやろ」

「それはアタシがやるワ。総監であるアタシから直接話した方が通りが早いし、何よりアタシならシステム開発もできル。……代わりに太陽ちゃんには、これを預けておくワ」

「なんです、コレ?」

「一つお仕事を頼みたいノ。このメモリの中には、今スリープしてる人のデータが入ってるカラ――」

「分かりました。システム切り替え時に外付け生命維持装置が必要な人を割り出し、部下を動かして対処しておきます」

「さすが話が早いわネ」

「今度はあの時と違い、総監から情報を貰ってますからね」

「あら、言ってくれるじゃないノ」


 軽口を叩きはしたが、システムが意思を持ったなどという飲み込みにくい事実を混乱極めるあの場で伝えなかった火鬼投の判断を、太陽は正しいと思っていた。

 満足げに笑う火鬼投に頷くと、太陽は北風に体を向ける。


「……北風」

「はい」

「さっきは補佐してくれてありがとうな。無茶振りを聞かせてすまんかった。でも、お前のおかげでホンマに助かったんや」

「いえ、これも仕事の内ですので」

「そうか」

「はい。……また、私の立場でできることがあれば言ってください。あなたの命令なら、私は腕を増やしても対処します」

「お前が言うとシャレにならんなぁ。分かった。お前も頑張れよ」

「ええ」


 太陽と北風が言葉を交わす中、火鬼投はチラと青鳥を見た。

 それに気づいた青鳥は、露骨に嫌そうな顔をする。


「……なんスか」

「……マ、アレよ。……その」

「用があるなら早く済ませてくださいよ。なんなんスか」


 大いに逡巡し百面相をしていた火鬼投は、青鳥の催促にようやく声を絞り出した。


「――色々悪かったワネ、青鳥ちゃん」

「……」

「……」


 どことなく元気の無い火鬼投に、青鳥は目を逸らしながらぞんざいに答えた。


「……別にいっスよ。この義手もそう悪くないですし」

「アラそう!? アンタってクローンの癖に心広いのネ!! そうネ、むしろ片手が義手とかむしろちょっとオトコが上がるってもんよネ!? よーっし許されたワ! サ、行くワヨ北風ちゃん! アタシ達の力でパパーッとシステム作っちゃいまショ!」

「切り替え早っ! 待てやオカマやっぱ一生根に持つわクローン人生かけて遺憾の意を表明するわ」


 北風の肩を抱いて、殆ど拉致するかのごとく陽気に走り出した火鬼投である。怒鳴る青鳥であるが、既にヤツには聞こえていないようだった。


「……あのオカマ、なんとか騙くらかしてスリープに突っ込むこととかできませんかね?」

「残念ながら、そのスリープに一番詳しいのがあのカマザルなんだ。諦めて泣き寝入りしたまえ」

「マジで腹立つ……」


 太陽も去り誰もいなくなった廊下を見つめ、青鳥は人生で初めての舌打ちをしたのであった。

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