Request.02 正義なんて無い、俺達の仕事は・・・
「お前・・・なんてことをしてくれたんだ・・・」
手を弾いたその男は、瑠未明を睨みつけながら更に怒り出した。
「お前、今そこにいたハエを殺しただろ!!なんでそんな事をしたんだ!!」
男は、瑠未明が叩いたハエの方を指差しして更に怒りをぶつけてきた。
それをいきなり言われて、瑠未明は納得いかず、少し表情を強張らせながら言い返した。
「な、なんなんですか!?いきなり!!そりゃ、側にハエがいたら叩きますよ!それに対して、説明もなしに名前の知らない貴方にその事を怒られる筋合いはないんじゃないですか!?」
「ふざけんな!!アイツは俺の大事な仲間なんだよ!!それを目の前であんなことされたら怒るに決まっているだよ!!」
「知らないわよ!!第一、ハエが仲間ってなんなの?友達いないんですか?あ~、そんなだからソファで、寝てるしかないんですよね!あ~わかりました。」
瑠未明がその男性と会話をしていると、横にいて話を聞いていた咲夜が抑えるように割って入ってきた。
「まぁまぁ二人共、落ち着きなさい!樹も、ちゃんと説明してなければああなることくらい、考えれば分かるだろ。」
「ふん・・・」
そう言うと、樹と呼ばれた男性は不貞腐れた顔でそっぽを向いた。それを見て、瑠未明もまたイライラが溜まっていった。
「なっ!あのね~~~」
「瑠未明ちゃんも!とりあえず、紹介させてね♪こいつは天瀬 樹年齢は多分、瑠未明ちゃんと変わらないかな。高校一年生で、絶賛私の事務所のエースでもある。」
「え~?こんなハエとお友達な人がですか~?」
「ははは、まぁ、でもね。凄い優秀ではあるんだよ。良かったらお仕事のお手伝いで一緒に現場に行ってみる?」
「は!?なんで俺がこんな奴と一緒に!!」
「それは私の方よ!!なんでこんな人なんかと・・・」
「そんなこと言わずにね、二人とも♪そういえば今日は、お客さんまだ来ないね~」
「いや、多分もうすぐ来るよ・・・あと2~3分程度かな・・・」
「ふむ、瑠未明ちゃん。とりあえず君用のロッカーを作っといたから荷物を一度置いて、用意しておいた服に着替えておいで。」
「は、はい!!」
そう言いながら瑠未明は、ロッカールームにて着替えを始めた。その間に、自部署の扉が開く音が聞こえお客さんが入って来たようだ。
「だいたい2~3分・・・あの人の言ってた位の時間だ。なんでわかったのかな・・・」
そう言いながら、白い生地に水色のストライプ柄のカーディガンを着けた瑠未明は、ロッカールームを出た。
そこには、一人の30代位の女性が座っており、ひどく痩せこけて、今にも泣きそうになっていた。
テーブルを挟んで向かいのソファには咲夜が座っおり、依頼内容の話を聞いていたい。
瑠未明は、静かに端の窓の前にいる樹の元へ向かい、一緒に立って待機した。
そして、依頼主である彼女の口から出てきたのは、信じられないような言葉であった。
「数日前に、夫が夜中に布団から出ていったと思ったら、冷蔵庫を漁りだしていたのですが・・・近づいて見てみると、生肉を貪り食べていたのです。」
「なるほど、それで旦那さんは奥様に気づいたんですか?」
「はい、私が何をしているの?と聞いたら見たこともない真っ赤な目をしていて、それで私に襲いかかろうとした瞬間に意識が飛んだようで・・・お医者様にも診てもらったんですが、異常はないと。」
「なるほど・・・状況的には名無しレベルか・・・分かりました。この案件、引き受けます。赤い目で襲いかかって来るようなという事なので、念の為2人で行かせます。樹と瑠未明ちゃん早速だけど、この御婦人のご自宅に向かってください。瑠未明ちゃんは研修って形で、仕事内容を見てもらった方が良いかな♪」
それを聞いて、二人は一瞬焦ったような顔をしひきつっていたが、依頼主が目の前にいる状態、なおかつ不安な状態で目の前にいたのでは喧嘩もできず、依頼主の前で深々とお辞儀をした。
そして契約内容等の話が終わると、樹と瑠未明は依頼主と一緒に、依頼主の自宅に向かった。
その道中に、瑠未明は気になった事があり、樹に小声で声をかけた。
「ねぇ、ところで咲夜さんがやっている仕事ってどんな事なの?」
「ハァ!?そんな事も知らないで付いてきたのかよ。しょうがねぇな・・・とりあえず、今回は俺のやり方見ておけ」
そう言うと、樹は依頼主の元に向かい、更に詳しい話を聞いてみた。
内容からすると、旦那さんの豹変は夜が多いらしいが、念の為現在は仕事を休んでいるとのこと。
そして、豹変の度合いとしては毎日ではなく、二・三日に一度程度の場合もあるとのことである。
そんな話をしていると、女性の自宅に到着し、二人は旦那さんが休んでいる部屋に案内され部屋へと入った。
「あなた、こちら・・・話していた方達に来てもらったわ。」
「・・・うるさい・・・うるさい・・・消えろ・・・」
依頼主が、部屋に入るなり旦那さんに異変が起こっており、彼女は後退りしながら部屋の外に出た。
体中を震わせながら、彼女は過呼吸を起こしていた。瑠未明はそれを見ると、とっさに応急処置を始めた。
そして、別の部屋に移動して安静にしているように伝え、樹の元へ戻った。
「ねぇ、なんなの、旦那さんのあの状況・・・なんか普通じゃない・・・」
「そりゃそうだろ、あれは取り憑かれているんだから」
「取り憑かれている?って幽霊とか?」
「いや、アイツは・・・悪魔だ。まぁ、言ってもそんなにヤバイ奴ではなさそうだけどな。」
「あ・・・くま?何言っているの?悪魔なんてそんなもの・・・」
「お前は、魔法の世界から来たんだろ。魔法が存在して、モンスターもいるのに悪魔がいないなんてのもおかしいだろ」
「で、でもこの世界なら・・・」
「この世界だって、いるんだよ。いろいろな悪魔とか、妖怪の類はな。
そう言いながら、樹は部屋の中に入っていった。
瑠未明も、樹の後を追うように部屋の中に入った。そして依頼主の旦那さんの近くまで移動した。
「そして、俺たちSAKURA REQUESTの仕事は、悪魔退治だ・・・。おい、お前・・・その人の中から出て行け。その身体はお前のものじゃない!」
「ぎぎぎ、出て行け、立ち去れ、消えろ」
樹の言葉に反応した悪魔が取り付いている、身体は少しずつ暴走しながらありえない動きをしだした。
「隠れていろ!!名無しクラスでも普通の奴じゃ痛い目にあうぞ!!」
「え・・・あ、うん」
瑠未明は、樹の指示通りに近くの障害物に隠れながら、状況を確認していた。
すると、樹は右手の人差指に漬けていた指輪に触れた。
「いくぞ・・・出てこい!!」
そう言うと、男性の中から白い煙のような悪魔が飛び出してきた。
悪魔は、部屋中を飛び回り周りの物を破壊していた。
樹はそれを見て、少し笑みを浮かべながら、さらに指輪に触れた。
「頼むぞ・・・俺の仲間たち!!」
樹の言葉を鍵に、指輪から数千、いや数万匹のハエが現れた。そしてそれは悪魔に向かっていき、悪魔の身体全体を包み込んだ。
その中で、悪魔のうめき声が聞こえそれ以外は、ハエの飛ぶ音が部屋中に響いていた。
「なに・・・あれ!?気持ち悪い・・・」
そして、悪魔の声が聞こえなくなるとそのハエ達は指輪の中に戻っていった。
「これで、仕事終了だ。わかったか?」
「いや、あの・・・今のは・・・何なの・・・?」
「あぁ、めんどくせぇな!!じゃあ一つ教えてやる。俺たちは悪魔退治が仕事だ。だがな、俺たちはエクソシストとか霊能力者とか、そんな正義のヒーローじゃねぇ」
そう言うと、樹の周りに黒い気配のような物を感じ、そして赤い目をし、背筋からの恐怖を感じる笑みを浮かべた。
それは、さっきの取り憑かれていた男性に似た、いや、それ以上の闇を感じ、そして気づいた。
「じゃあ、あなた達って・・・」
「俺達か?・・・俺達はな・・・」
これは、記憶も力も無くした一人の元魔法少女と、新しい仲間達の・・・闇の戦いの物語である。
「悪魔と契約して、悪魔と共に、悪魔退治する専門家だよ。なぁ、ベルゼブブ!」
彼の後ろに、この世の者ではない存在が現れた事を・・・・・・・・・