Request.01 私の名前は!!
春の日差し、桜の舞い散る駅前のロータリーでは、人々が行き交う中で一人の少女が立ち竦んでいた。
彼女は、周りを見回しながら車の往来や電車の走る音に驚きながら辺りを観ていた。
「こ・・・これがアース・・・凄い!!機械がいっぱいあるし、何より高いところまで塔がたくさん立ってる♪しゅ、しゅごい・・・♪」
彼女はそう言うと、すかさず地図を広げながら何かを探し始めた。
だが、彼女は地図を見るのが苦手なようで、くるくると回しながら自分のいる場所を必死で探していた。
「あれ?これじゃなくて、ここじゃなくて・・・えっと・・・そう・・・あれ?違うな・・・」
「もしもし、彼女~♪道に迷ってるの~?俺たちが道案内してあげようか~?」
少女が悩んでいると、唐突に金髪でヤンキー風の若い男性が話しかけてきた。その後ろには、スーツ姿の190cmはあろうかという大柄の男性がいた。
「あ、助かります♪実はこの手紙に書いてある住所に行きたんですが・・・何分、アースに来たのが初めてだったので・・・」
「え!?君、もしかして別の世界から来たの?」
「はい、ラミィから、この手紙を頼りに来たんですが・・・なにぶん、右も左もわからないもので」
彼女はそう言うと、手紙を二人に見せた。すると二人の顔が変わり、何かお互いが眼と眼で会話をしているようであった。
「この住所って・・・まさか、ちょうど良くない?」
「うむ、この住所なら君の行きたいところと、この後に私達が向かうところと同じ場所だ。良かったら案内しよう」
「ほ、本当ですか!!ありがとうございます。正直、この手紙が頼りだったんです。」
「オッケ~♪じゃあ今から向かおうか~♪」
二人は、少女に手紙を返すと住所の先へと案内した。
そこは、駅から少し離れた場所にある、三階建ての小さな雑居ビルの二階であった。
彼女の探していた場所、そこには大きな看板で【SAKURA REQUEST】と書かれていた。
「ここが、私の探していた場所・・・私が頼れる場所・・・」
「彼女♪そこで止まってないで、早く上げってきなよ♪所長に紹介するよ。」
少女は、そう言われ二人の後を追って、階段を登って行き、二階に着くと更に小さな看板が扉に掛かっていた。
二人は、先に扉のを開けて中に入ると、何やら会話が聞こえてきたが、恐る恐る扉を開けて入っていくと・・・そこには、髭の生えたアロハシャツに短パンを履いた男性が立っていた。
少女はそれを見ると、すかさずにドアを閉めようとした。
「ちょ、ちょっとまって!大丈夫、怪しいものじゃないから!」
「いや、あの・・・春とはいえその服装は・・・」
男性の言葉に、少女がそう返すと、側にいた先程の若い男性が笑いだした。スーツの男性は、笑いを堪えているようであったが、方が震えているのが見えた。
「所長、やっぱその服装は怪しいですって、彼女めっちゃ引いてるじゃん」
「そうか~、俺のお気に入りなんだけどな・・・」
そう言いながら、所長と呼ばれた男性は、ロッカールームに行って着替えている間に、少女は応接室のソファに座り、メイド服の女性からお茶をいただいた。
「すぐに戻りますから、少々お待ちください。」
「は、はい。ありがとうございます♪(メイドさんだ♪初めて見たな~、あと・・・あっちのソファで寝ている人誰だろう?)」
少女は、お茶を飲みながら端のソファで本で目隠しをして寝ている学生服の男性がいた。
高校生くらいだとは思うが、よくはわからなかった。
少しすると、所長と呼ばれた男性がスーツ姿で戻り、向かい側のソファに座った。
「お待たせしたね。私は総合相談事務所SAKURA REQUESTの所長【佐倉 咲夜】です。よろしく。」
「あ、宜しくおねがいします。私はラミィから来ました。名前は・・・多分、なんですが【下雨 瑠未明】と言います。」
「瑠未明ちゃんね。で、なんか僕に用が合って来たって聞いたけど?」
「はい、実はこの手紙を咲夜さんに渡して欲しいと。誰からもらったのか覚えてないのですが・・・」
そう言うと瑠未明は、持っていた手紙を咲夜に渡した。その中にはここの住所を何かあれば、咲夜を頼るようにと書いてあり、もう一つ咲夜宛の未開封の手紙が入っていた。
それを開き、咲夜は内容を確認した。そして一通りを見終わるとため息をひとつついた。
「はぁ~~~、シオンの奴は、トラブルばっかり持ってやがって・・・瑠未明ちゃん。手紙見たんだけど、記憶が無いんだって?」
「・・・はい、ある時から過去の記憶がなくなってしまって、前の自分が書いたであろうノートを見てはいるんですが、全然思い出せないんです。」
そう言うと、瑠未明は少し顔を下げてしょんぼりした顔で、今にも泣きそうになっていた。
咲夜は、その姿を見ると、少し考えながら小さな声で口を開いた・・・
「なるほど・・・ミアーシャ・コーリアスを頼む・・・か。まぁ、しょうがないか」
「あ、あの・・・私、不安で・・・頼れるのは、手紙に書いてあったここだけで・・・」
「・・・大丈夫。良かったらこの建物の隣が私の家なので、一室を貸してあげるよ。」
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます。」
「ただし、うちの事務所で仕事はしてもらうからね。それが宿代だから♪」
そう言うと、瑠未明は満面の笑みになり、咲夜に向かい精一杯のお辞儀をした。
咲夜も再び笑顔で、よろしくと言うと、置いてあった自分のコーヒーを飲んだ。
今後のことも含めて、いろいろ話をしているとふと、二人のテーブルの側にハエが飛んでいた。
瑠未明はそれが気になり、目で追っていき、テーブルの上に止まった瞬間に両手でハエを叩いた。
「ウワァァァーーーーーー!!」
その瞬間に、端から大きな声が聞こえた。
瑠未明が振り返ると、そこには先程から寝ていた男性がソファから落ちていた。
「だ、大丈夫ですか・・・?」
瑠未明が心配そうに、その男性に近づいて触ろうとした瞬間、差し伸べた手を弾かれた。
「なっ!?」
「お前・・・なんてことをしてくれたんだ・・・」
瑠未明を見ている男性の目は、怒り満ち溢れていたが、目を放すことはできなかった。