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第六話:大は小を兼ねる



 翌日の木曜、目が覚めても二度寝して、遅い朝食を食べてもいまいち動く気になれずなまま、ダラダラと怠惰な生活を貪っていた。


 弟は部屋で勉強か絵を描いてるはずで。あまり私がグダった姿を晒すのも申し訳ない気持ちが沸いてくるから、どこか適当に出かけようかなーと思っている。


 天神でいくつかのショップ見て、最新のダイバー向けのカタログ集めてもいいかな。明日持って行けば装備の参考になるだろうし。


 あ、そうだ。レン君送ってくれてるかな?

 お、来てる来てる。なるほどねぇ、はじめは明るい照明を持ち込みがちだから注意するのと偏光レンズグラスの存在を教えておくってのは、考えてなかったな。


 一本作ろうかな、ダンジョンで使わなくても夜間運転用に良いかもしれない。


 あと予算によっては最近ワークスマンの品揃えが神がかってる、と。


――うわっ、めちゃ安かよ!しかもレディースもあるし。このジャケットなんて技研認証受けてるメーカーの半分以下の値段じゃん!


 しかもそれらだってダイバー専用に開発されたモノじゃなく、市販品にちょっとした調整を施したレベルのモノしかない。


 最近新人っぽいダイバーみんな同じような装備と感じてたのは、ワークスマンのせいか。確かにこの値段は驚異だわ。


 これに釣られて他メーカーも安くダイバー装備だしてくれないかな。まぁいい、出かけよっか。



 さすが平日昼なだけあって道がすいてる。地下駐車場もどこにだって止め放題だ。


 さしあたってまずは、大画面かな。

 ここは私鉄ホールでやる芝居のチラシが大抵貼ってあって、それをチェックするのは天神に来たときのルーチンになっている。


 福岡は割と演劇が活発な都市で、芝居人口も多い方らしい。福岡で評判が出た劇団は東京公演に行ったりしてる。かぶり物劇団とか有名になったね。



「チハルちゃん?」


 あ、この声はまさか。サリィさん!?


「その特徴的なメガネ、やっぱチハルちゃんだ。なんしよーと?」


「サリィさん、この前死んだはずじゃ!?あぁ、ついに復活出来ず死んじゃったんですね……ちゃんと成仏してください。天国に行けなくてもサリィさんなら地獄で鬼共蹴散らせますよ」


 声をかけてきたのは同じ斧使い女子のサリィさん。第二陣ダイバーでイージス君と同じPTの割と知名度のある女子ダイバー。

 先週の金曜に死んだはずで普通ならまだ出歩けるはずがない。だからきっとコレは生き霊とかそーいったヤツだと思う。


「失礼な!死んだの金曜だからさすがにもう動けるよ。ま、慣れてるし?」


 ダンジョンで死ぬとデスペナを受けメインホールに強制転送される。

 デスペナの内容は最低一週間はひどい倦怠感や苦痛が襲いかかるというもの。これがかなりキツい。


 個人差はあるけど、前に私が死んだときは丸一週間以上ベッドから起き上がるのも苦痛で家から出られなかったくらいだ。ましてや慣れるものじゃない。


「アレは慣れとかでどうこうなるものじゃない気がするんですけど……。私ならアレを味わうくらいなら死んでもいいってくらい死にたくないです」


「なんかすごいこと言ってるよ。それよりチハルちゃんお芝居とか見るんだ?」


「あー、そうですね。演劇部だったんで」


「へぇ~、今日もお芝居見に来たの?レトロガーリーな服バッチリ決めちゃってデートだったり?」


 そういうサリィさんだって、普段アップにしてる髪を下ろして結構しっかりセットしてるじゃない。マスタードカラーのコートは今年の流行色だったはずだし、人のこと言えないでしょうに。


「別にコレ流行追ってるとかじゃなく趣味ですからね。それに今日は新人引率することになったんで装備の下見です。最近の事情ちょっと疎くなってるかもなんで念のためにね」


 ダイバー用装備の進化は早い。特に福岡はIT系ベンチャーも多いからか、ハイテク機器等に関しては下手すれば東京よりも早く製品が並んだりする。

 それらは割とダイバーの事を本気で意識してるモノが多い。プログラムの変更だけでダイバー向けになる商品は割と登場が早かった。


 私のつけてるIDのウェイナビとペアリングできるスマートウォッチがそういった製品で割と早くに登場したんだ。小規模ロットでα版を作って評判が良ければ改良した製品版を全国で売るみたいな感じだと聞いた。それもすぐに改良版が出たりしてとても全部は追い切れないんだけどね。


「ついに引率デビューか。てか一陣だもんね、二陣のわたしですら数回引率したことあるから、今回初めてってのが異常なのかな?ウィンドウショッピングに付いてってもいい?わたしはもう用事済ませちゃって暇なんだ」


「いいですよ。どうせ休日ブラブラするのに理由つけただけなんで無計画ですけど」


「んじゃまずどこから行くの?」


「この上にバッグ類豊富なアウトドア系のショップあるんで、そこ行きましょうか」



 店に着くと、壁の上の方にずらっと様々なバッグがディスプレイされていて。衣類もそれなりにある。ハイキングバッグが多めで登山やキャンプ系に力入れてる感じで容量が収入に直結するダイバーにも人気がありそうな品揃えだ。


「あ、アレってレンが持ってるヤツと同じじゃない?」


「みたいですね。確かバイクで転けても中身と人を守るとか言ってましたよ」


 見つけたのはハードケースシェルが外殻を覆ってて目を引くバッグ、非常にデザインが優秀で目を引く。


「後ろ守られるのは安心かもだけどバッグ背負ってれば大体守られるし。オプション豊富なのは良さそうかな?でも重そうよね」


「あと容量25Lだって、1日潜るには厳選厳しくしないとですよ」


「25かー。厳しいなぁ」


 容量があると便利だが、すべてを使い切るほど背負うのは難しいジレンマ。体を動かすから運動性のために胸ベルトと腰ベルトもほしいし、結局行き着くのはハイキングバッグになる。


「それに結局ハイドレーション対応求めちゃいますよね。500mlのペットボトルより1Lのハイドレーションの方が軽く感じますし。


「確かに、ゼリー飲料の空きを再利用したりしたけど結局そうなる」


「やっぱりこーいうハイキングバッグですかね。コレなんか手頃な価格帯ですし」

「65Lぐらいで調節器具類多めで、フレームしっかりしてるヤツかな。ファーストチョイスに選んで長く使えそうなのは」


「良かったら試着してみます?先ほど見られてたバッグも下ろしましょうか?ダンジョンダイバーの方ですよね」


「そうです。じゃぁアレと、さっきのお願いします」


 平日で店員も暇してるのかもしれない。試着できるなら、さっきのも試してみたい。


 私がさっきみてたハードケースのバッグを、サリィさんがハイキングバッグのエントリーモデルらしきモノを背負って良さを入念にチェックする。


 ダイバーが装備を重箱の隅を突くようにチェックするのは職業病みたいなもので評価はかなり辛口になってしまう。


「重心が上なのは運動性の点でアリかもしれないけど、腰ベルトが無いのは不安だなぁ、そしてちょっと重い。コレ背負って長時間はぶん投げたくなるかも。改造ベースには面白そうだし全部わかって買うならアリか?」


「こっちは値段の割に良い具合よ。値段のせいか生地も薄すぎなくて何か縫い付けても十分耐えそう」


「やっぱりダンジョンに潜る方だと評価が違いますね。登山に使う方々は軽さを求めてもっと薄くて軽い生地製のをってなるんですが」


「軽さもある程度求めるんですけど、地面転がったりしますから耐久性がある方がいいんですよね。もしパンフとかあったら貰えますか?」


「こちらに用意してますのでどうぞ、今見られてたのはコレとコレになります」


「検討します。次は靴?靴は好みというか、分かれるからなー」


 防護性能の高いブーツvs運動性の高い靴という、派閥とまでは行かないまでも正解のない議論として永遠の議題になりつつある。


「サリィさんブーツ派でしたよね」


「ブーツ過激派まではいかないけど、ブーツ押しだよ」


 ブーツ過激派、そんな派閥は無いはずだ。ないよね?いつの間にかきのこタケノコ戦争みたいな戦国時代に突入してるのは嫌だな。


「柄が短い武器使う人はブーツ派が多い気がします」


「そう言われれば?踏みつけや蹴りも有効だから、最初はブーツ無難なんじゃない?得物や自分の戦闘スタイル固まって無いときは特に」


「靴はどこにあるかな。ん~と、あ!隣の建物に靴屋と天神北にミリタリー系のショップがあるみたいです。あとワークスマンの安全ブーツがコスパ最強らしいです」


「どこで調べてんの?」


「ダイバー用の口コミサイトで検索しました」


「そんなのあるんだ」



 靴屋にあるファッション性も兼ね備えたブーツは軽くてよさそうだけど、耐久性は不安があり長く使うには向いてなさそうな出来だった。


 ミリタリー系ショップは割と本格的なブーツが揃ってたけど価格が初心者には手が出にくく、耐久性抜群な軍放出品はすこし重さを感じた。


 やはり靴でもあっちを立てればこっちが立たずな問題に直面する。ダイバー装備はいっつもそうだ。


――価格なども考えると、かなり高確率でワークスマンのお世話になると思う。



「ちょっと時間外れちゃったけどお昼にしない?ダンジョン明けでしょ、何か食べたいのあったら合わせるよ」


「いいですね、あ!それならコアの上にあるお好み焼きとか選べるパフェの店行きましょう」



 この店の特徴は巨大パフェで入り口にはショーケースまるっと様々な種類とサイズのパフェサンプルが並んでいて壮観だ。中にはビール大ジョッキに盛ったパフェとそれより巨大なパフェも存在する。


「へぇ~チハルちゃんがこーいうところ来るのは意外だな~」


「そうですか?部活のメンバーで天神来たとき割と利用しますよ」


「皆でワイワイするような空気を纏ってる姿を想像できない。ソロダイバーの印象が強いからかな」


「そこまでボッチじゃないですよ。あ、でもあまり好んではないかも……」


 そっか、こうやって完全プライベートで会うのは初めてかもしれない。ダンジョンでてメインホールや地上施設なんかで会うときとはお互い服装も違うから新鮮な感じ。


 ダイブするようになってからは、なるべくプライベートではダイバーのチハルと特定されないよう意識して服選んでたんだけど。一発で見破られちゃったのは誤算だった。


 私がお好み焼きと中サイズのパフェ、サリィさんがチャーハンと小サイズのパフェとそれぞれ食後にコーヒーを頼んで待っている間に話すことはやっぱりダンジョンに関する話題。


「サリィさんのとこは火金ですっけ」


「そうだね、PTだと満足出来る稼ぎ出すには長時間になりがちだから、中二日は最低取ってる」


「月水金ダイブ予定にしてましたけど、私も週2にしようかなぁ」


「中一日じゃ、疲れ抜けないでしょ?低層階なら毎日8時間とか聞くけどさ」


「多分肉体的には問題ないんですけど、頭の疲労が抜けなくて」


 自由登校になって初めて月水金に長時間ダイブする予定でいたけど、明日も潜るつもりならこの食事から量はともかく、食べるモノは考えないと不安だ。


「ソロって移動・索敵・戦闘を全部一人でプランニングしないとだから負担大きいでしょう」


「5Fまでなら移動中が休息時間なんでそれほどでもないけど、6Fはホント気が抜けなくって」


「5Fにソロってのはやったことあるけど、6Fは自信ないな~」


「装備次第で結構いけますよ。あ、料理来ましたから食べましょうか」



 お好み焼きにソースとマヨネーズ多めにかけて食べるのがマイジャスティス!


 特別優れた味ってわけじゃないけどソースとマヨネーズを纏った食べ応えのある生地は食欲を満たしてくれる。

 だけどここはパフェが本命だから、これは前菜みたいなモノ。


「そういえば、福岡のお好み焼きって関西のと違うって知ってた?」


「え、そうなんですか?」


「私あっちに旅行したとき食べたんだけど、ふわふわしてて柔らかいの。こっちみたいに焼くときギューッと押さないの」


「広島風は食べたことあるけど、関西風は無いかもしれません。あんまりお好み焼きを食べたって充足感が無かった覚えが」


「福岡のお好み焼きがイメージの元にあると、そうかもね~」


 しばしお好み焼き談義をし、今度広島風お好み焼きのお店に行こうかと話が盛り上がった頃、丁度食後を見計らってパフェが届いた。


「でか!中サイズでかくない!?食べきれる?」


「食べれますよ。大でもイケたかな?」


 この程度の大きさで驚いちゃいけない、これでファミレスメニューのパフェサイズ。この店にはこれの5倍以上のパフェだってあるのだ。


――たしか部員4~5人ぐらいで頑張って食べたっけな。



 プライベートでダイバーと会うのはなんとなく避けてたんだけど、こーいうのなんかいいなぁ。

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