第三十五話:三人で参拝
「お待たせ、結構良いホテル泊まってるのね」
翌日、指定されたホテルが割と良いランクのホテルで、ちょっと気後れしてしまう。
「コンシェルジュに全部任せて取ってもらったから、良く分からないのよね」
「あぁ、カードの?」
私も家族カード持っててコンシェルジュサービスもあったとは思うけど、まだ使ったこと無いな。
「うん。荷物後ろに置いて助手席でいい?」
「いいよ。どうしよっかな、高速使うか下道で行くか。この時間なら下りは空いてるかなぁ」
ラッシュから時間ずれてるし、三号線の下りなら大丈夫かな。高速だと早く着きすぎるかも。
「任せる。にしても最初、雰囲気違いすぎてわかんなかったわ。ハンチングまで被ってるし」
協会やダンジョン行くときは着替えとかも機能性重視だから、ベニィが私の私服見るのは初めてか。
「今日みたいなオフの日はこんな感じよ。できるだけダンジョンの時とイメージ違うようにしてるんだ。好きだってのもあるけど」
ベニィの装いもベージュのセーターと細身のジーンズに、キャメル色のロングコートでクラシカルな色使いでありながら、スタイルは現代的でシックに仕上がってる。
「着替えとかどれぐらい持ってきてるの?」
「ダンジョン用と着替えが三日分ぐらい、クリーニングサービスに頼りっきりだから早くなんとかしたいわ」
「部屋借りるなら早めに動かないと、そろそろ良い部屋少なくなるんじゃないかな」
三月や四月は転居シーズンだろうし、良いところは競争率高そう。
「そうなのよね」
「ベニィなら親も協力してくれるでしょ。保証人か契約者に父親がなってくれるならどこだって借りれるだろうし、ダンジョンに近いとこ借りたら?」
春は変化の時期だよね。
卒業だったり就職だったり、イチカが居るから今のところ家を出るってのは考えてないけど、ベニィは大学とかどうするんだろう。
着いたら聞いてみよう。
◇
「到着。トーカはもう着いてるかな?」
「スタバに居るらしいわ」
「じゃぁ店の前で合流して参道歩こうか」
テキストチャットでもうすぐ着くって報告し、お店を見ながら練り歩く。
和柄のがま口財布や木刀なんかもお土産として売っていて、見るだけでも楽しい。
「観光客多いわねぇ」
「あっちは中国の団体さんかな? あそこは韓国からだと思う」
福岡は至る所に韓国語や中国語の案内があって、それらの国からの観光客が多いと思う。
東京行くよりフェリーで韓国の方が近いくらいだ。
「チハル、ベニィこっちー!」
「うわ、これスタバ!? 写真撮っとこう」
入り口に木が多く使われ、見慣れたチェーン店の普段と違う雰囲気は目を引く。
ベニィと同じように写真を撮ってる人も多い。
京都にも、和風な見た目の店があるらしいから一度行ってみたいね。
私も一枚撮っておこう。
「梅ヶ枝餅どこにする? 太宰府来たなら一つは食べないとでしょ」
「梅ヶ枝餅のお店ばっかよね、どこが美味しいの?」
「どこだろう?」
実は高校受験前に一度来たぐらいで、大して詳しくないんだよね。
「ウチのお気に入りがあるけど、少し並ぶんだよね。あそこ」
トーカが指さす店は確かに人だかりが出来ていて、すぐ買えそうにない。
「せっかくだし、並ぼうか」
一人なら絶対並ばないだろうけど、ベニィも居るし並ぶのも悪くないでしょ。
こうやって自分一人じゃ普段選ばない選択をするのも、友達と遊ぶ楽しさなのかな。
「出来たてだよ~、熱いから気をつけてね」
「ちょっとこれは手に持つのもツラいわ」
「少し戻ってお土産やでも見ようか。ポケット入れてれば冷めるよ」
出来たての梅ヶ枝餅は熱々で、すぐには食べられないだろうからね。
「なんで木刀があるの?」
「さぁ? 和っぽいから? 土産物屋って大抵売ってるよね、木刀」
ベニィの疑問に答えは見つからず。それでも一応手に取ってみるのはダイバーの性か。
「武器として木刀ってどうなの? 前にチハルが使ってる人は居るって言ってたよね」
「初期はバットやシャベルに次いで持ってくる人居たよ。バットは家に無かったけど木刀はなぜかあったとかで」
「男の子とか持ってそうだよね」
「確か東京のレンタル品としても木刀があったわ」
「シャベルやバットよりは武器として使うのに想像しやすいし、悪くはないんだよ。使うなら素振り用ぐらい重さがあった方が良いと思うけど」
試しに一番重いのを持ってみるけど、悪くない感じかな。
リーチもあるし、豚や羊には難しいだろうけど十分使えると思う。
「チハル握力すごいわね、そんな端を持って振れるなんて」
そうか、今って力が強くなってるんだった。
「十層攻略したら身体が変化するらしくて、今ちょっとした力持ちよ」
「それって、レベルが上がった的な?」
「マキナは最適化って言ってたかな。11Fからは上がった身体能力と、スキルやマジックアイテムとかが無いとキツいんじゃないかって思ってる」
「最適化されたらアタシの体力もなんとかなるかしら?」
ベニィが最適化の恩恵を受けたら、今より脳筋になりそうだなぁ。
「そのためにはトーカの装備強化と、ベニィも体力トレーニングが必要ね」
ルート分かってるから、日帰り攻略も出来なくは無いと思う。
けどソレにはゴーレム部屋にたどり着いて、戦えるだけの体力が要る。
「体力を求めてるのに体力が必要って……」
◇
「梅ヶ枝餅って梅が入ってる訳じゃ無いのね」
「そだよ。名前の由来は知らないけど」
「確か道真公に差し入れするとき、梅の枝を添えたんだったかな? 元々梅とはゆかりがあったはずだよ」
私のうろ覚えな解説に二人が感嘆の声を上げる。
「チハルは物知りね。トーカはお気に入りの店があるのに知らないし」
「美味しければそれでいいじゃん」
トーカの言うとおり、雑学は観光のちょっとしたスパイスだ。
「中行っておみくじ引こうか。絵馬も書きたいし」
むしろそっちが本命まである。
「いいわね、行きましょ」
「お参りすればベニィも少しは地図が読めるようになるかもだね」
「トーカ今度覚えておきなさい」
私たちは境内に入り、牛の象の前を通り池に掛かる橋を渡った。
「この橋はカップルで渡ると別れるってジンクスがあるんだよ」
「割と有名だよね」
「へぇ、どうして?」
「名物の梅ヶ枝餅がヤキモチとも言えるからかな? 縁結びとしても御利益あるみたいだし、こじつけだと思う」
確かどっかにある石まで目をつぶって歩ければ別れないっても聞いた。
中学の担任だったかな、教えてくれたのは。
◇
お参りして、おみくじを引くと私は中吉。中身も悪くない。
「アタシ小吉、転居と旅行よしって書いてあるわ」
ベニィのは失せ物と病気に少し気をつけよってくらいだけど、学問はあまり良くないらしく結んだ方がいいのかなって思う。
「トーカは?」
「ウチは大吉、てか大吉以外引いたことないんだよね」
まさか、ホントに神様も認めるレベルで運が良いとか?
「そんな人ホントに居るんだ。弟の合格祈願に絵馬書くけど、二人は?」
「じゃあ地図が読めますようにとでも書こうかしら」
「ウチはいいかな」
そうだ、ベニィに聞きたいことあったんだった。
「ベニィって卒業後の進路ってどうなってるの?」
「こっちの短大にAOで合格してるけど、チハル達と出会ったし休学かしらね。どこからかチハルとPT組んでるの知ったみたいで、この前話したらすごく期待されちゃってたわ」
両立するにしても、一年目は必修の授業多くて難しそうだし。
「できるだけ早く三人で攻略して、ベニィに親孝行させてあげるよ」
二人なら難しかっただろうけど、三人なら目処が立つ。
「期待してるわ」
「よし、絵馬も書いたし鍛冶屋見学行こっか」




