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第二話:ダンジョンでは常に危険がつきもの

 帰り道、5Fではブラウンピッグを少し狩って、お肉を合計4kgほどゲット。

 ポーションに次いで重量あたりの換金率がいいドロップで、これ専門に狩ってる人も居るぐらい人気なんだけど、6F近くは人も少なく十分な量が狩れた。


 同じ階層に羊のモンスターも居て、そっちのお肉も1kgほど。羊毛は収納スペース取り過ぎるから今回はなし。


――そろそろ人通りが増える通路だし、ランタンの光量落としておかないと。


 まぁ、決まりって訳じゃ無いけど、ちょっとしたマナーだ。


 何人かとすれ違い、挨拶とちょっとした情報交換をしたりする。


 最近このあたりに降りて狩りを始めたPTの情報とか、最近誰々がメインホールで復活するのを見たといった業界情報。


 私はまったく人の名前を覚えてないから、たまに話が分からない。

 得物とか、装備の特徴を聞いてやっと思い当たる。


 いきなり人に近づくと危ないから、ランタンを一瞬手で遮ったり相手に合図するとスムーズだ。


 ん、今向こうから近づいてる人達は合図のあと明かりを絞ってくれて助かる。


 ソロの乏しい光量になれた目にとって、複数人の明かりは眩しすぎる。


 四人PTの先頭を歩く人物は知り合いっぽい。

 赤い槍に赤系統のアウターとバッグを合わせてて、特徴的なハードケースのバックパックは記憶に残ってる。


「あれぇ? レン君とこんな低層で合うなんて、珍しいね?」


 今の階層は地下2F。


 彼は私と同じぐらいか、PTなら私より下へ潜れる深層ダイバーだし、このあたりで遭遇した記憶はない。


「チハルさんか。今日は新人二人の引率で、もうすぐ帰るとこなんですよ。今帰りなら一緒に上がりませんか?」


 だから一番後ろのハンマー担いだ宇賀さん以外、見慣れないわけか。

 三人PTだったはずだけど、新人引率ならフルPTじゃなくてもって感じか。盾持ちの人はお休みかな?


 私は新人と聞いて、見慣れない二人をジッと観察した。


 たとえ安全な帰路でも、地雷抱えて移動するのは避けたい。


 二人の様子を一言で表すなら、憔悴と言った単語が適切だろうか。

 服は一部切り裂かれた後があり、ポーションで治療したのか傷は無いが、血の跡がある。


「いいよ、見たところ洗礼済みみたいだし。ようこそ、博多ダンジョンへ」


 洗礼と聞いて自分たちが負った傷が偶然ではなく、必然だと気づいた新人二人の顔が引きつる。


――まぁ、そうよね。協会から進められて引率依頼出したんだろうし、まさかわざと怪我させられたなんて信じられないだろうね。


 でも、そのおかげで彼らはダンジョンで生きる心得を学べたはずだし、教訓になったはずだ。


 信じれるのは自分の力だけ、都合の良い助けが来るなんて幻想だって事。


 多少の怪我ぐらいでパニックにならない精神。


 トドメを刺すまで油断しない心。


 そういった事は覚えるまで自分だけじゃなく、周りの人へも被害をまき散らすんだ。早めに矯正できるならその方が良い、多少荒っぽくてもね。


「二人とも、この人は夜名川(よなかわ)チハルさん。ソロのハンドアックス使いで博多の女性ダイバーの中じゃ、一番かもって技量を持ってる。第一陣から潜ってるJK深層ダイバー」


――うーん。新人二人が怯えてるように見える。


 私はあなたたちより年下だよ。

 怯えないでほしい。


「レン君達だって二陣でかなり古参でしょ。私だけ持ち上げるのはズルいなぁ。8Fでも活動始めたって聞いたよ。私は今日6Fしか行けてないし、活動階層じゃ負けてるよ」


 一陣と二陣の差なんてひと月だけの差だ。

 ダンジョン内の混乱を避けるためと、講習のキャパもあってひと月に一定ずつしか合格しないだけだし。

 そんなのは潜る頻度で実働時間も追い抜かれてると思う。


 レン君達の方が年上だし、先行者ってだけで気を遣われるのはちょっとね。


「いやいや、一陣の先輩方が苦労や試行錯誤した情報教えてくれたから、僕らが安全に潜れてるわけだし。それにソロで6Fなんてちょっとスゴすぎますって、基本あそこ複数で襲ってきますよね」


 まぁソロは少ないからねぇ。


 PTと都合が合わず、仕方なくソロってのは少し聞くけど、大抵の人はできるだけソロは避ける傾向よね。


 3Fぐらいはともかく、それ以降はね。


 死んでも復活するとはいえ、一週間以上はデスペナでまともに潜れなくなる訳だし。迷惑が掛かりすぎる。


 私は学校との都合もあって、時間の都合がつきにくかったし仕方ない。

 けどソロにもメリットあって、ドロップは全部自分の物で稼ぎがいい。


 日常的にソロって人は極端に少ないけどね……。


 孤独、不安、恐怖が金銭欲より勝ってしまって、続けられないって聞いた。

 ダイバーは慎重な人が多いから、それを避ける気持ちは分かる。


 知り合いのソロダイバーも、総じて仕方なくソロやってるって人かな。

 それも結構安全マージン取って、安全な階層で時間や潜る頻度を上げてコンスタントに稼ぐタイプ。


「まぁ、慣れれば複数でも安定して狩れるのよ、少しリスク高いだけ。でも限界かなぁ……。今日も危ない場面が何度かあったし」


「6Fって十分フロントラインですからね? あそこソロってちょっと頭おか(ゴホッ)頭にネジが無いとしか思えない」


「ちょ、誤魔化すなら最後まで頑張ろうよ! ひどくない?」


 後ろに居る宇賀さんに同意を求めてみるが、寡黙な男は一度頷くだけで、ソレがどちらに同意してなのかは分からなかった。


「チハルさん別にソロ専って訳じゃ無いでしょ? そろそろ固定でPT組まないんですか?」


「ん~。学校も自由登校になったし、固定探そうかなっては思ってるのよ。ソロだと結構疲労も多いし、けどアテがねぇ。ほら、年齢とかさ」


 たまに臨時ではPT組んでたから、絶対ソロじゃなきゃって意識はない。

 でも、すでにできあがってる人間関係の中へ入ってくのは面倒だし、年下なのにキャリアは長いってギクシャクしそうだし色々とね……。


「ならうちのPTとかどうです? あー、でも入るなら女性いるPTの方が何かと安心ですかね」


「そーいうところレン君っぽい」


「え? どこですか?」


 自画自賛じゃないけど、私の戦力は前線PTからも魅力なはず。けどPT利益じゃなく私のことを第一に考えてくれるのは優しいと思う。


 宇賀さんに視線で同意を求めれば、二度うなずいてくれて訳すなら「激しく同意」って感じかな。


 レン君の優しさ的な柔らかな空気が一行に行き渡った頃、私の耳が僅かな敵の音を捉えた。


――間違い無く敵だ。


 それまで会話しながらも先頭を歩きつつ、辺りを警戒していた私が急に立ち止まったので、慣れた二人はすぐさま臨戦態勢になってる。


 新人の二人は私たちの空気がいきなり変わった事に戸惑い、中途半端に武器を構えて落ち着かない様子。


 私は二人を落ち着かせるよう指示し、耳に意識を集中。


――通路曲がった先。ペタペタと二足の足音はゴブリンだろう、ドタッという音はジャンピングラビットだろうし二匹が争ってる。それに遠くから近づくペタペタとした足音。


「ゴブリン二匹とウサギ一匹、どうする?」


「釣って角待ちしましょう。ウサギが減ればラッキーだし、新人に正面から戦うだけじゃないって教えられるし」


「りょ、釣ってくるね」


 レン君達とは何度かPT組んだことあるし、お互いの能力を知ってるからこそ即断即決。


 角を曲がり、グローブに仕込まれたライトを点灯させる。


 間違い無い、ゴブリン二匹にウサギが一匹。


 ゴブリン二匹がこちらを指さしギャアギャア喚く、ウサギは逃げるかなと思ったんだけど、後ろ足で立ち上がりこちらを観察する姿から逃走の気配は無い。


 私は手斧で軽く肩をたたきながら挑発の言葉を吐いた。


「刀の錆になりたいヤツからかかってこい」


――まぁ斧なんだけど。


 無事挑発が効き、走り寄ってくる三匹のモンスター。


 私はすぐさま反転し、音でおおよその位置を把握しながらレン君達が待つ通路へ走る。


 左手にレン君を通り過ぎ、二メートルほど離れた場所で反転。


 多分二匹相手にする事になるだろうけど、刃こぼれのリスクがあるからマチェットはあまり抜きたくない。


 ウサギが先行してレン君の前を通過しそう。


 あのスピードで飛び出されては仕留められないだろうし、私が相手にするのはウサギとゴブリンだろう。


 かなりの早さになって迫るウサギ。


 集中。


 迎撃のため右手の斧に僅かに力を込めた瞬間、赤い線が煌めいた。


 シュッ


――ウサギが跳んだ瞬間消えた! いや、予想した軌道よりずいぶん左だ。まさか槍で突いた!?


 驚愕したときには槍が手元に引き戻されており、続いて角から飛び出したゴブリンの脇にも赤い稲妻のごとく突き刺さる。


 あれは間違い無く心臓まで貫いてるな。


 てことは私が開いてするのは一匹か。


 併走していたゴブリンのおかげで命拾いした方が私に迫る。


 おりゃ!


 気持ち深く踏み込んで、ゴブリンの高さに合わせた斧の一撃が首に吸い込まれ、加減した斧は首を断ち切ること無く、首の骨を折り絶命させる。


 2Fで三匹相手にするのはちょっとした珍事だけど、終わってみればあっけない。


「やるね。あの速度のウサギに当てれるとは……スゴいとしか言い様がない」


「良い感じで釣ってくれたおかげですね、連撃練習してた甲斐がありました」


「反応速度と正確性がすごいし、他に同じようなことが出来る人思いつかないなぁ。一番槍とか名乗ったら?」


「上には上がいるでしょうし、自意識過剰なあだ名はちょっと。お! プチレアのウサギ肉ですよ、ゴブリンの方はレッドクリスタルですね。どうします?」


「肉はMVPのレン君達が貰ってよ、こっちはクリスタル貰えれば十分かな」


「了解。肉は売っても微妙だし、焼き肉広場で食べますか。チハルさんも一緒に食べません?」


「じゃぁ、一口だけ貰おうかな。低層ってほとんど素通りだから、ウサギ肉ってしばらく食べてないのよ」


 買い取り価格でグラム五百円ぐらいの肉は、重量辺りの換金率も悪いしめったに持ち帰らない。市場でも買う機会ないしね。


「確かに最後に食べたのいつだろう? これって深層ダイバーあるあるですかね」


「あるあるだよね。下の方目指すと道中ガン無視だし」


 そういったダイバーゆえの話題なんかで会話をしながら、1Fへと登る螺旋洞窟を通過し、最短ルートで地上へ帰る。


 ダンジョンの出口に近づくにつれ、人工的な明かりが私たちを包み込む。


 僅かな明かりだけのダンジョンになれた目にソレは眩しく、達成感や疲労感を感じて頭がダイブ中の集中状態から切り替わってくる。


 出入り口ゲートの係員に多機能簡易情報端末(ID)を通して各種情報を読み取る機械が設置されていて、それに端末をかざして帰還手続き。


 口頭でも自分に割り当てられたコードと名前を告げダブルチェック。


「JAHKT18050095 夜名川チハルただいま帰還しました」


「無事のお帰りをお待ちしておりました。お疲れ様です」


――この台詞やっぱいいなぁ、帰ってきたって実感がわいてくる。


「帰ってきたぁ!」

2019-03-02 2:39 改稿

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