第十三話:なれた頃が一番怖いんだ
「この辺だと思うんだけどなぁ~」
しばらく虐殺カーニバルというには、泥臭い試合の連続をこなしてある程度慣れた頃を見計らって新たな敵が居るエリアへと移動してきた。
同じ2Fでも3Fに近づくとゴブリンとウサギ以外にやっかいな敵が出始めるんだ。
「なに探してるの?」
「このあたりから黒いヤツが飛んでるんだよ」
「え……もしかしてG?」
「ちがうちがう、カラスなんだけどね。空を飛ぶ敵は少し厄介だから体験させたくて」
「カラスか、それなら……」
未だ私も虫系モンスターに会ってないけど、いずれ出てきてもおかしくない。もし虫に苦手意識があるなら早めに訓練して慣れさせたほうがいいかもなぁ。
"この辺は天井も8mぐらいあるし、上も警戒しててね"
今までのエリアでも絶対カラスが出ないという保証もないから注意させてたけど、これからは一層空への警戒が必要になる。
"もしかしてアレ?ほらあそこ"
トーカが指さす先には、空から飛び降りてチョンチョンっと歩いた後また飛ぶカラスがかろうじて視認できた。
「目が良くて羨ましいね、夜目も利くのかな?」
カラスは殆ど音が拾えなくて私は索敵に苦労する敵だ、もしトーカが視力や夜目に優れるならそれは強力な武器になるはず。
「どうだろうね?今まで気にしてなかったや」
「もし夜目が利くとか、自分の長所が分かったら大切にしたほうがいいよ。それで拾える命もあるはずだから」
「わかった。カラスはどうやって倒すの?」
「基本はウサギと同じ感じ、奴等は目とか狙ってくるから避けながら叩き落としてやる感じ」
技量のある槍使いで滑空する敵にも突きを当てる人がいるけど、アレはかなり武器の扱いを極めてセンスがないと不可能な技だろうね。
魔法やスキルなんてないけれど、アレは間違いなく修練によって体得したスキルとしか言い様がない。
「ウサギはなれてきたし、はじめウチがやってみていい?」
「いいよ、迎撃失敗したらとにかく頭の位置は絶対ズラして」
――未知の敵にも積極的になれてきたし良い感じだ。
「よし、こっちに気がついたみたい。ちょ、早くないですかね!カラスさん!」
「気をつけて!奴等殆ど頭狙ってくるからヘルメットかぶってても避けるのは備えててね」
地上のカラスは地面に向かって降りるときふんわりと降りてくるけど、あいつらカワセミみたいに突っ込んでくる。
「おりゃっ!」
駄目だ、斧を当てに行ってる。
「斧を進路上に置いておく感じで!斧でダメージとかなくていいから!」
「むぅ……次!」
得物を逃したカラスは再び飛び上がり、トーカへと向かう。
今度は良い感じか?
斧に激突したカラスは羽ばたきながら地面へ着地しようとしてる。ウサギほど無様に地面へと転がりはしないが十分なスキだ。
「そこ!見逃しちゃ駄目!」
「こんちくしょう!」
片手での振り下ろしになってしまったが、鳥の骨は脆くたとえバットだったとしても再び飛び立てないくらいのダメージのはずだ。
片方の羽が断ち切られ、再び飛び上がることは出来なさそう。
「えいっ」
とどめの一撃は足でのストンプ。全体重を乗せたストンプで全身の骨が砕け、カラスは絶命した。
「ウサギよりは、楽かもしれない」
「たまーにコイツ等が他と戦ってるとこに参戦してくるんだよ。引率で倒してないと結構苦戦すると思う」
「それは、かなり厄介かも。どっちに集中すればいいか分からないよ」
「その場合はどっちに対しても自分が有利になる攻撃で対処して、相手にスキができたら致命の一撃をお見舞いかな」
「お、ドロップはサーベル?シミターとか言うのかなコレ」
「シミターかな?買い取りは数万だったと思う、希にオークションでちょっといい値段が付くかな。持って帰ろう」
「へぇ~、メイスだとどれくらい?」
「メイスは割と人気あって、協会買い取りで5~6万だったかな。オークションも割と入札競争激しい部類だよ」
「え!?そんなにするモノだったの!?ゴブリン産だよ?」
「メイスは市販品ってないからね、鈍器は人気だからそんな値段になってる。長柄のメイスは前衛も距離をとって戦いたい後衛にとっても使えるからさらに高い」
「実は優秀な子だったのね、メイスちゃん」
「そうだよ、私はかなり過激な斧信者だけども、メイスはかなり良い武器だと思う」
「自分のことを過激な斧信者ってカムアウトする18歳女子……」
「言っとくけど、アックサー女子会って結構メンバー居るからね!?」
「なにそれ!」
「全国ダイバー斧使いクラスタのチャンネルがあって、そこの派生女子支部の呼び名」
元は武器の情報交換チャンネルから派生して口コミやBBSでの勧誘だったりで、今や各武器毎のチャンネルが大抵あるらしい。
「ま、この調子でカラスも狩っていこう。ウサギもゴブリンもでるから適時殲滅で」
――武器の出がかなり良い。この辺の階層じゃこんな短時間に武器がでるなんて初めてだ。トーカのビギナーズラックなのか、本当にラッキーガールなのか。
"お、ゴブリンとカラスがじゃれてるよ?"
"たまに同階層のモンスター同士が争ってることがあるんだ、少しレアな光景だよ"
"アレは……、こっちから接敵してゴブリンを吹き飛ばして、カラス先に処理がいいかな?"
"いいプランだと思う、もしもの時はサポートするから。今考えた通りやってごらん"
"よし、やるぞ!"
かなりのスピードで駆けるトーカに続いて走る。
この勢いのままゴブリンに当たれば、結構吹っ飛んでしばらくは無視できるはずだ。行け!
「ふんっ!」
敵の足下に臆さず踏み込んだ左膝側面がゴブリンの重心位置を捕らえ、良い感じに距離が出来た。カラスは急に現れたトーカに困惑し、着地した地面から飛び上がろうとする。
バキバキっと鈍いながらもすこし高めな音がして、おそらくカラスの骨が折れた音だろう。
カラスを踏みつけで倒したらすぐさまゴブリンへと警戒。
――複数の敵にも良く戦術が練れてる。
ゴブリンが持つは粗末な剣、短剣だろうか。片手で扱ってもそれなりに狙えそうな感じがする。
走り寄ってくるゴブリンに前蹴りで勢いを殺そうとするが、ひらりと交わしたゴブリンはトーカの太もも付近を突き刺し、股の間を通り抜けた。
「痛っ!!たあああああああああ!!」
太ももの内側は太い血管がある、結構出血があるがこの戦闘中は大丈夫だと思う。
「次で確実に決めて!傷は後で見てあげるから、まずは倒すの!」
ゴブリンは傷を与えたのが嬉しいのか、ピギャっと鳴き声を上げ、再度短剣を振るうべく距離を詰めていった。
痛みがあるのか、右太ももを庇ったように少し姿勢が崩れてる。
「こんのクソガキ!ぶっ殺してやる!」
少し前屈みでハンドアックスを両手に構え、襲ってくるナイフを斧を振り上げ時に弾き、振り下ろしは脳天へと命中させることに成功した。
ウサギとカラスで練習した技術で、ナイフに対して斧を構えて上手く迎撃することができたみたいだ。
「良くやったね。傷見せて、ポーションの使い方教えるから」
トーカにポーションを渡し、蓋を開けさせる。
「半分は傷にかけて、半分は飲んで。その方が全部飲むより効果出るから」
「うん、ぷはっ。悪くない味だね」
そう、少し柑橘系だろうか?フレッシュな味わいがするんだよね。
「もしポーションがない場合は、圧迫止血と包帯が必要だから。そういった方面も勉強と最低限の装備は持ち歩いた方がいいからね」
「このポーションの代金はどうすればいいの?」
「引率時には協会から1本ポーションの支給があるから気にしないで」
やっすい引率の依頼料から使わせたポーションも自腹ってなったら、受けてくれる人が居なくなる。それで少しでも新人が早く慣れてくれるならと必要経費として割り切ってるんだろうね。
「少しミスっちゃったね、アレは距離とるより武器狙った方が良かったかな?」
「刃物や長柄の武器を持ってたら武器弾くの優先かな」
短剣類だと判断迷うけど、素早く蹴りが出せないなら得物狙いがいいはずだ。
「なれたと思ってたけど、奥が深いや」
「そうだよ、ダンジョンじゃ「大丈夫だろう」ってトコからピンチになる事が多いんだ。だから「大丈夫じゃないかもしれない」を念頭にね」
俗に言う「だろう運転」と「かもしれない運転」だ、もちろん後者が推奨。
その後は安全を重視した立ち回りを常に心がけ、大きな怪我なく何度かの戦闘で安定感のある戦いをトーカは会得した。




