自傷癖な少年は追憶した
最初モブ注意です
下手な三人称視点に挑戦してみました
「少尉! 俺こんなに立派なお屋敷初めて見ましたよ」
馬とチーターを足したようなキメラがぱかぱかと軽快な音を立て道路を歩く。
その荷台には黒い軍服を身にまとった二人の青年。
先程、感嘆の声を漏らした彼は群青の瞳いっぱいにその屋敷を映し、飛び跳ねんばかりに葵色の髪を揺らしている。
肩章には真っ白なラインが一本と金の星が三つ、縁取りが無いことから曹長だろうか。
一方、興味がなさそうに隣であくびをしている黒髪に空色の瞳の彼はこれまたつまらなさそうに話し出した。
「そりゃ当たり前だろ。これは不死族の長であるサモネン家のものだぞ」
彼はペラリと資料をめくる。
そこには「リア・サモネン」と「レノックス・ラフォーレイ」、「マリア・ラフォーレイ」の字。
一人目は言わずもがな、サモネン家の者である。
ただし、彼は長男ではない。
跡継ぎになるはずの長男である「レオン・サモネン」より魔法の扱いに長け、なおかつオート回復の能力「永遠の癒し」をもつ。
そして、ラフォーレイ兄妹は双子であり兄のレノックスは爆発魔法を始めとした火属性と闇属性に対する適性が高い。
妹のマリアは魔族には珍しい回復魔法の使い手である。
二人の種族はダークエルフだ。
暗黒の森に住み、その身体のどこかに烙印を持つという堕落したエルフ。
屋敷に入れることに心を躍らせる無垢な曹長と新たな可能性に笑みを隠せない少尉。
異なる想いを乗せながら馬車はサモネン家の門をくぐった。
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「軍の勧誘?」
僕たち三人の声が重なった。
「リアはもう一五になるし、レノとマリアは一八だろ。だから妥当だと思ってな」
愉快そうに笑う父さんにレノが言う。
「でも、軍って士官学校を卒業しないとなれないんじゃ……」
「だいたいの軍人はそうだな。でもたまに軍側から勧誘がくる場合があるんだ」
へーと感想を零すレノを尻目にマリアは心配そうな顔をする。
「でも、軍属になるってその、ヒトを殺さないといけないんですよね……そんなの怖いです」
心優しい彼女には確かに酷かもしれない。
その言葉に反応してレノの綺麗な白い肌が珠に染まる。
「マリア! お前まだそんな甘いこと言ってんのか!! 人間のせいで、アイツは……ダリアは……」
彼の肩がわなわなと震えた。
マリアはハッとした表情になり、唇をぎゅっと結ぶ。
「そうだね、ダリアの仇取らないとね」
彼女はやっぱり優しかった。
そのやりとりから半年。
家に拝命書が三通届いた。
僕の宛名が書かれたのの封を開ける。
「魔王 コーラシィ・インフェルノの名において、汝、リア・サモネンを本日付けでイラバ国軍准佐と軍団長に任命する」
は?
十五で准佐とか荷が重すぎだ。
横でレノとマリアが大尉だったと喜んでいる。
気分転換に庭を出歩く。
北風が強いのか木枯らしができていた。
砂地の庭に腰をかける。
これで明日から軍属か……。
少し重たい心に鞭を打つ。
ひときわ大きな風が吹き込む。
目の前が砂ぼこりで覆われる。
再び、目を開くとそこは粉塵が舞い散る戦場だった。
自らの手に視線を落とす。
今では見慣れていたはずの麻の手袋がやけに汚いものに感じた。