3.ヌタクサ採集にて
「ヌタクサは湿地に群生してるなりwwwこっちでござるwww」
ライムの案内で、俺は森の中を進む。
アコ村を出て小一時間が経過した。村長の話によるとこの辺りだったはず。
アディアの情報でも、ヌタクサはこの周辺にあるとのことであった。それならば、このスライムの言うこともまた正しいのだろう。俺は別段、不審に思うこともなく歩くのであった。
『それにしても、ヌタクサとはどんなものなのでしょうね?』
「ん? 知らないのか。場所は知ってるのに」
俺はその言葉を不思議に思って問い返す。
するとアディアは、
『えぇ。私が持っているのは、あくまでデータです。実物については、この目で見ないと分からないのですよ』
「いや、目……って」
……いや、ないじゃん。お前、目。
そんなツッコみを入れそうになったが、引っ込めた。
何はともあれ、そうなるとこの中でヌタクサを実際に見たことがあるのはライムだけ、ということになる。つまりは同行させて正解だった、というコトだ。
「デュフフフwwwご主人様、ついたでござるよwww?」
「お、やっとか……」
さてさて。
そんな自分の判断を内心で称えていると、ライムがそう言った。
俺は数メートル先にて弾むゲル状生物の方へと向かう。森を抜けて、視界も開けた。すると目に飛び込んできたのは、広大な湿原である。
「うっわ、すごいな……ここ」
それを目の当たりにして、俺は思わずそう呟いた。
何故ならその湿原を満たす水は、どこか粘着質であり、かつ異臭を放っていたのだから。少なくとも長時間はいたくないと、そう思われた。なのでライムに向かって、こう問いかける。
「で、ライム。どれがヌタクサなんだ?」
「んwww? どれって、もう見えてるでござるよwww」
そうすると返ってきたのは、そんな言葉だった。
俺は「え?」と言いつつ足元に視線を落とす。すると、それはあった。
よどんだ水面の底。そこに広がる黒い影のようなもの。見ればそれは湿原一帯に蔓延っているようであった。しゃがんで触れてみると、それは……。
「う、わ……なんだ、これ」
とてつもなく、ネバネバとしていた。
水にどことなく粘性を感じたのは、ヌタクサが原因らしい。
なるほど。こんなものが群生していたら、そのような水質になってもおかしくない。俺は触れたついでに、黒くブヨブヨした感触のそれを鼻先に。そして、おそるおそる呼吸をしてみる。すると、
「う、っぷ……!?」
なんだこれ!? 何というか、汚物の臭いに近い!!
えぇ、これを収穫するんすか。マジっすか、ないわー……。
俺は眉間に皺を寄せながら、げんなりと頭を垂れた。もしかしなくても、とんでもない貧乏くじを引いたのかもしれない。そう言えば俺に説明していた村人も、どこか苦笑いを浮かべながらだったような気がしてきた。
分かってるんだったら言えよ、ちくしょー……。
『……それで、ライム。このヌタクサはどうやって収穫すればいいのです?』
さて。俺が意気消沈していると、だ。
気を取り直すような口調で、アディアがライムにそう訊ねた。
「デュフwww? ご主人様は、村人から採集セットなり、専用の刃物はもらってきてないなりかwww?」
「あれ、そういや。そんなのもらわなかったな……」
その回答に、反応したのは俺。
【空間魔法】を使用し、中空に手を突っ込む。
これはいわゆる見えないポケットのようなものなのだが、ダメだった。いくら中をまさぐっても、そんなものはない。そもそも、受け取った記憶もなかった。
となると、だ。この場において刃物、しかも切れ味が良いとなると……。
『……リクさん? いま、なにか不穏なこと考えてませんか?』
「いや。当然のことを考えてるよ?」
『………………』
さて。それでは、作業に取り掛かるとしますか……。
◆◇◆
『イィィィィィィィィィィヤァァァァァァァァァァァッ!』
「ええい、うるさい! 黙って仕事するんだよ!」
『ヤメテェェェェェェェェ! 鼻が曲がるゥゥゥゥゥッ!』
「だからお前、鼻とかないだろ!?」
……俺はアディアでヌタクサを採集していた。
このネバネバした草のようなブヨブヨを、贅沢にも聖剣をもって切り取っていたのである。するとアディアさんは悲鳴を上げるわけで、頭の中にはそれが延々と響いていた。
『ごめんなさい、何でもしますから許して、勘弁して下さいぃ!?』
「そんなこと言ったって、他にどうしようもないだろうが!」
『うぅ、気持ち悪いよぅ。こんなの、いやだぁ……』
しまいには泣き声のようなものに変わる。
情に訴えようとするものではなく、本気で泣いているようであった。
『ネバネバするのぉ、ぐちゃぐちゃしてるぅ……』
「あー、もう! 分かったから、出来るだけ早く終わらせるから!」
俺もとうとう罪悪感を覚えてしまう。
しかし、俺だって帰りは【空間魔法】の中にコレを入れていかなければならないのだから。その点では、嫌な思いをするのはコイツだけではなかった。まぁ、アディアの身になってみれば、まったくをもって対等ではないだろうけれども……。
『…………………』
「あれ、もしかして気絶したのか……?」
と、そうしているとである。
途端にアディアの声が聞こえなくなった。
俺は手を止めずに作業を続け、そして一通りのヌタクサを回収したのでそれを収納する。そこに至ってようやく聖剣に声をかけるのであった。
「おーい、アディアさん? 生きてますか~?」
『………………ふえぇ』
するとアディアは、まるで幼い女の子のような口調でそう漏らす。
そんな聖剣様に俺は諭すようにこう言った。すると、
「終わったぞ? 帰ったら手入れしてやるから、それで我慢しろよ?」
『やだ。すぐに、身体を洗いたいです……』
やはり、何やら幼児退行したようなワガママを言い始めるのである。
「そんなこと言ったって……」
『今すぐ、水浴びをしたいです。今すぐに……』
「水浴び、って。お前、剣じゃないかよ」
『剣ですよ。聖剣ですよ。でも、もういいです』
「ん? なんだ、もういいって」
さてさて。
アディアと話していると、やがてそんなことを言い始めた。俺は意味も分からずに首を傾げる。と、その時であった。
「……は?」
『リクさんになら、別に見られても良いです』
そう言って聖剣が、アディアが、突然に神々しい輝きを発したのは。
俺はその白き光に目がくらみ、思わずそれを手放した。
ドポン……と、湿原に沈むアディア。
「あ、悪い! アディ――」
そして瞬間のめまいが収まった時に、俺は見た。
言葉を、詰まらせてしまう。
何故なら、そこにいたのは……。
『もう。最後の最後で手放さないで下さいよ、リクさん……?』
純白の髪に、文様の入った肌。
そして、金色の瞳をした絶世の美少女だったのだから……。
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