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2.何でも屋の朝はゆるく





「……あぁ。朝、か」


 俺は顔にあたる日差しで目を覚ました。

 むくりと、固くなった身体をほぐしつつ半身を起こす。

 まだまだ不鮮明な視界。目をこすって晴らそうと試みるが、なかなか上手くいかない。だがそれでも、どうにか意識を覚醒させて周囲を見回す。


「はぁ~! ん、っと……」


 そこにあったのは、人間が一人生活できる程度の空間であった。

 単純に言ってしまえば、客間である。あの日以降、俺はここ――アコ村の『何でも屋』となった。その際の条件と提示されたのが、衣食住の保障。


 その一つとして、この部屋が俺に貸し与えられたのである。

 タンスなどの調度品はしっかりと用意されており、今まさに俺が腰かけているベッドも上等なモノであった。どうやら辺鄙な場所にある村ではあったが、ある程度の来客は見越しているらしい。


『おはようございますですよ、リクさん』


 さてさて。ぼんやりしていると、である。

 ベッドの横に立て掛けられていたアディアが話しかけてきた。陽気なイントネーションで語る聖剣は、いったいいつ眠っているのであろうか。そんな素朴な疑問を抱くところではあるが、とりあえずは挨拶を返すこととしよう。


「うっす。おはよう、アディア」

『はい。今日も一日、元気にダラダラしましょ~』

「お前は、毎日毎日ブレないよな。ホントに……」

 

 そんなことを言い合いながら、アディアを手に部屋を出るのであった。



◆◇◆



「あ、リクさん。おはようございます!」

「あぁ、ユリア。おはよう」


 俺が客間を出て階段を下りると、一人の少女が出迎えてくれた。

 彼女の名前はユリア・グリーンフィールド。この村の長の孫であり、俺とアディアの身の回りの世話をしてくれていた。栗色の肩口で揃えられた髪に、円らな瞳が小動物を思わせる。しかしその低い背丈に似合わず、十五歳にしては、ある一部分が非常に成熟していた。


「………………うぐっ」


 だが、そこをあまり見つめてはならない。

 だから俺は極めて自然に視線を上に持っていく。するとユリアは小首を傾げて、こちらを見上げてきた。良かった、どうにか難を逃れたらしい。


「……まぁ、いいです。朝ごはん出来てるので、テーブルで待っててください!」

「わ、分かった。ありがとうな!」


 ユリアはくるっと踵を返し、キッチンへと駆けて行った。

 俺はホッとしながら、顔を火照らせながらテーブルへ向かう。


『お盛んですねぇ』

「うっさい、黙れ」


 その途中、ニヤニヤとした表情があるかのような声でアディアが言った。

 俺はそれを一言で切り捨てて、所定の席に腰かける。


 ……ふぅ。


「はい。今朝はトーストに、隣のクリミアさんから頂いた卵を使ったスクランブルエッグですよ~っ! 結構、上手に作れたと思うので感想聞かせてくださいっ!」


 さてさて。

 そんなこんなで、目の前に朝食が並べられる。

 出てきたのは、こんがりとした焦げ目に芳醇な香りが食欲をそそる厚切りのトースト。そして、とろりとした質感がたまらないスクランブルエッグだった。ユリアの言う通り、どちらも簡素なそれながら、完成度高く作られている。俺はよだれが自然と溢れてくるのを感じながら、手を合わせる。


「おぉ、美味そう! いただきます!」


 そして、素直な感想と共にそう言ってまずはトーストを頬張った。

 サクッという心地良い音と共に、ふんわりとした感触が俺の歯を迎える。


「うめぇ! やっぱり朝はコレだよなぁ!」

「ふふふっ、ありがとう。リクさん!」


 思ったことを口にするだけで、ユリアは満面の笑みを浮かべた。

 そして静かに、あるものを差し出してくる。ゴトっという音がして、俺は何事かとそれを見た。


「ごめんね? アディアさんには何を用意すればいいのか、分からなかったの。だから、こんなものしか用意できなくて……」


 それは、砥石といしだった。


 おそらくは、ユリアなりに考えたのであろう。

 食事を摂ることが出来ない。しかし意思を持ち、感情を持ったアディアには何を与えればいいのか、を。その結論が砥石コレであった。いや、たしかに刃物だからある意味では正しいんだけど、さ……。


『あ、ありがとうございます。ユリアさん……』


 これには、さすがの聖剣様も困惑であった。

 その日の朝の食卓には、トーストとスクランブルエッグ、そして砥石が並んだ。後にも先にも、これほどシュールな食事風景はないだろう。



◆◇◆



「ヌタクサ……?」

「うん、そうヌタクサ。この村の唯一と言って良い名産なんだけど、最近は魔族が多くて。あまり量が取れてないんだ……」


 朝食を摂り終えると、ユリアが世間話の中でそんなことを口にした。

 何やら気になったので話を聞いてみると、ヌタクサとは薬草の一種であり、煎じれば高価な薬となるらしい。しかしここ最近になって、それを狙ったらしい魔王軍が支部を作ったため、収穫数が激減しているとのことであった。


「それって、そんなに貴重なのか?」

「うん。それの収入がないと、この村は……」


 そこまで言って、ユリアは深くため息をつく。

 なるほど。どうやら、本当に危機的な状況のようであった。

 そうとなれば、動かないわけにはいかない。食事と寝床を提供してくれた村を救わなければならないと、そう思った。


「よし。それじゃ、俺が行ってくるよ」


 なので俺は、進んで手を挙げることにした。

 この村の救いにもなるし、依頼をこなすことで資金提供もある。一石二鳥だ。


「ホントに!? ちょっと待ってて、それじゃお爺ちゃん呼んでくるから!」


 俺の申し出を聞いたユリアは、破顔一笑、喜んで家を飛び出していった。

 さて。そうなると、残されるのは俺とアディアなわけだが……。


「あ、そうだ。道先案内はアイツに頼めばいいか」


 俺はふと思い出した。

 そうだった。この家にはもう一人、もとい一体の住民がいるのである。そいつはこの周辺の地理に詳しく、かつ村人ではない。というか、人間でもない。

 したがって、多少は雑に扱っても構いやしない奴なのだった。


「おーい、ライム! どこにいるんだ?」


 そんなわけで、俺はそいつの名を呼んだ。

 すると現れたのは、




「デュフフフwww! なんでござるか、ご主人www?」




 珍妙な喋り方をする、【スライム】であった。

 階段の上からぴょこんと、飛び降りてきたこいつの名前はライム。

 先日の魔族による襲撃の際、惨めにも命乞いをしてきた魔王軍のザコである。無視しても良かったのだが、何でもすると言ったので俺の配下としたのであった。すなわち、温情というやつである。


 さて、そんなライムに俺は指示を出すことにした。


「これからヌタクサを取りに行く。案内しろ」

「ういwww把握www」


 すると、ライムはそう答えてうねうねと身体を動かす。

 よし。これで、案内人(?)は確保できた。

 あとは、現場に向かうだけだ。



「よし。行きますか!」





 そう。思っていた。

 しかし、この時の俺はまだ知らなかったのである。

 ヌタクサの採集において、最も注意するべき事柄について……。



 


消したり上げたり、すみませんでした。

次からは通常通り更新いたします。


よろしくお願い致します

<(_ _)>

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