プロローグ
「お、お前……! どうして、ここに!?」
「貴様は、勇者の手で葬り去られたはず! 何故だ!!」
「それに、お前の手にしているそれは、まさか!?」
目の前にいる三体の魔族は、声を震わせながら後ずさる。
「本当に久しぶりだな。今日は、お前らに言いたいことがあってな」
右手に握った金の装飾の見目麗しい剣を突き付け、言い放つ。
しかしコイツらが怯えている理由、それは他にあった。何故ならこれは、勇者が手にしていたはずのものであったから。コイツらと同じ魔族である俺の手に、あるはずがない代物――すなわち【聖剣】であった。
その事実に気付いたから、コイツらは怯えている。
「な、なんだ……! 勇者に無残に敗北したお前が、何の用だ!?」
三体の中でも最も筋骨隆々な魔族が、何とも惨めな声でそう言った。
炎を操る竜種型の魔族である。普段は勝気な性格で、過去散々に俺のことをコケにしてくれた、憎き相手であった。
そんな奴が、今ばかりは俺にまったく抵抗できない。
まぁ、抵抗というか。仮に攻撃してきたところで――。
「くそッたれが……!」
――轟っ!
炎が渦を巻きながら、一直線に俺へと向かってくる。
しかし、俺はそれを避けようとも考えなかった。それどころか、
「効かないよ、そんな攻撃はな!」
聖剣を立てて、腕を突き出す。
すると、まるでそこに見えない壁があるかのように。迫りくる炎は2つに両断され、遥か後方の壁へと着弾するのであった。岩でできたそれは崩れ落ち、砂煙と強風を発生させる。それらを背中で感じながら、俺は表情を崩さずに剣を横に払った。すると――。
「がァ――!?」
「ぐふっ――!」
視界の悪化に乗じたのであろう。
もう残り2体の魔族が、襲いかかってきた。
1体は悪魔型の魔族。
もう1体は獣型の魔族。
素早い攻撃を得手とした彼らは、目にも止まらぬ動きで迫ってきた。
だがしかし、それは説明するよりも圧倒的に速く、失敗に終わってしまう。俺がやったのではない。この手にした聖剣が、攻撃をいち早く察知して迎撃したのだ。
「テメェ……な、なにが望みだ」
傷口を押さえながら、一体が息も絶え絶えに言う。
他の2体も同じく。俺の言葉をただ、静かに待っていた。
――何が望みか。
俺はこいつらに、見下されて生きてきた。
同じ立場であるはずのこの3体の魔族から、俺は――。
「いいや。違うぞ、リク……今の目的は、それじゃない」
『そうですね。リクさん』
そこまでであった。
俺は、どうにか逆立った感情を抑える。そうだった。俺がコイツらのもとを訪れた理由は、決して恨みを晴らすためではないのである。
「あぁ、そうだ……」
俺は敵対する魔族たちには聞こえないよう、小さくそう口にした。
そして、ようやく目的を述べようとした――その時である。
「おい待て! そこの人型!」
こちらに向かって、そう声を張り上げる人物があったのは。
振り返るとそこに立っていたのは、人間の青年だった。白銀の鎧に身を包んだ彼は、血相を変えてこちらへと駆け寄ってくる。そして、あからさまに不機嫌な表情をその綺麗な顔に浮かべるのであった。肩口まで伸びたブロンドの髪も、今は汗で額に張り付いている。鋭い青の瞳は、あらゆるものを射抜くように感じられた。
だが彼が睨んでいるのは、俺ではない。
その怒りの矛先が向かっているのは、紛れもなく――。
「――おい。アディア! テメェ、自分が何やってるか分かってんだろうな?」
俺の手にある聖剣に対して、であった。
『勇者さん……』
【聖剣:アディア】も、彼を知っているらしい。
そしてまた、俺も彼のことはよく知っていた。何故ならこの人間こそが、俺を討ち果たし、こちらの名声を地に落とした張本人。【勇者】であったのだから。したがって、そんな彼の目的は【聖剣:アディア】を取り戻す、ということにあるのだろうと思えた。
勇者は、苦虫を噛み潰したような顔をして叫ぶ。
「遊んでる場合じゃねぇんだよ! さっさと魔王討伐に行くぞコラ!」
だがしかし、そんな彼の言葉に言い返したのはアディアだ。
『お断りします! そもそも、貴方が魔王を倒したい理由は、人類の平和のためではなく。その報酬金が目当てではありませんか!』
「うるせぇ! それのどこが悪いってんだ!?」
『金のために扱き使われるこっちの気持ちにもなって下さい! もう、うんざりなのですよ!』
「んだと、てめぇ。黙って聞いてりゃ、ただの道具が講釈垂れやがって……」
気付けば、口論となっていた。
どうやら普段冷静なアディアも、この勇者には気が荒くなるらしい。なので、俺はアディアのことをなだめることにするのであった。
「アディア。いまは、そんなこと言ってる場合じゃないだろ?」
すると聖剣は、はたと気づいたような呼吸をする。
そして――。
『そうですね、リクさん。いっそのこと、私もここで宣言いたしましょう』
そう言った。
よし。そうと決まれば、早速だ。
俺は息を大きく吸い込み、呆然とこちらをみるかつての仲間。そして、怒りに満ちた表情の勇者を見た。続いて、アディアと呼吸を合わせて――。
「俺は今日、この時をもって――」
『私は今日、この時をもって――』
宣言する。
俺は魔族側、アディアは勇者側に。
「――魔王軍を脱退する!」
『――勇者パーティを脱退します!』
直後、俺はアディアを天にかざした。
すると、
「うわぁ、何が起きたんだ!?」
「くっ、この光は!?」
「ぐはぁっ!!」
魔族は口々にそう叫んだ。
そして光が収まった時、そこにあったのはボロボロの四天王と勇者の姿。
「くそが、てめぇ……!」
勇者は悔しげにそう言って、斬りかかってくる。
だが、しかし。
「ぐはっ……!」
『もう、勇者さん。私がいなかったら、一般人レベルなんですから無理はなさらないでくださいね? 今後一切!』
いとも容易く、返り討ちに遭うのであった。
勇者が倒れるのを確認して、俺は四天王のうち一人。まだ意識のあった竜種型の魔族へと歩み寄った。すると聖剣がこんなことを言う。
『もし、リクさん? 一つご提案があるのですが』
「ん? どうしたんだ、アディア」
『ここは一つ。四天王の力を封印、ないしは弱体化してしまうのもアリかと』
「お、採用採用!」
俺は即座にアディアの提案を了承し、再び聖剣をかざす。
するとまた、何やら光があった。どうやら、これで完了したらしい。
「さぁて。ここからが本題だ」
「ひっ……」
俺がそう言うと、力を失った魔族はひどく怯えてみせる。だが、そんなことはお構いなしにずずいっと距離を詰めるのであった。
そして、懐から取り出した紙で頬を叩くのだ。
「これで、俺たちとお前たちは無関係だ!」
その紙に書いてあったのは『辞表』の二文字。
そう。今ここで、俺は正式に魔王軍とは手を切ったのであった。
俺は自由の身となる。
この、手にした聖剣と共に。
新たな生活の始まりを宣言するのであった――。
初めましての方は初めまして!
鮮波永遠と申します。
よろしくお願い致します。
<(_ _)>




