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ドラゴンハンター  作者: ラルゴ
双子のドラゴンハンター
5/19

05

レインが車内をフラフラと歩き回っていると、突然、豪速球で飛んできたボールに直撃され、弾き飛ばされた。


ボールッ!?


「がふぅぅうううッ!」


あまりの勢いに、床と平行に飛ばされたレインは、壁にぶつかって、ズルズルと崩れ落ちた。


廊下で力尽きたレインは、ドタバタと足音が近づいてくるのを感じた。


足音の正体は、裾が長い学ランを来た女性だった。


「うぉっ……死んだか、コイツ………?」


女性はレインの傍らでしゃがみこみ、どこから持ち出してきたのか、木の小枝でレインの頭を小突いた。


「い、生きてる……あと、頭を小突くな……」


さっきの、戦闘機の中で味わった痛みの数に比べれば、耐えられる。


それはともかくとして、

スカートの丈が少し短いせいで、床に倒れているレインの視点からだと下着が見えそうになっており、目のやり場に困った。


普通、女性はしゃがむ時、股は意識して閉じるものだと思う。

だが、この女ときたら、お構いなしだ。

裾が長い学ランを着てヤンキー座り、豪快というのか、なんていうか。


「・・・・・ん?」


レインは立ち上がろうとしたが、ボールのダメージが足にきたのか、ペタン、と尻餅をついてしまった。


「おい、大丈夫か?」


女性がアルトよりの声でレインに尋ねた。


「すまない、ちょっとな……」


「しょうがねぇな。」


レインは女性に支えてもらい、どうにか立ち上がった。


「悪いな。」


レインは女性に頭を下げた。

そうしたら、開かれた学ランの中にさらしできつく押さえつけられても大きさがわかる胸が目に入ってきた。

視線をどこにやればいいのか、判断に困ったレインは、彼女と目を合わないよう気を遣いつつ、無難に顔を見ることにした。


勝ち気な印象で野生を秘めていそうな瞳、長い睫毛、通った鼻筋、いい感じに日焼けした肌。


野性的な美女であるのだが、個性が強すぎることを窺知れた。

普段のレインなら、絶対に話をかけない、関わりたくないタイプだ。


「なんだ?そんなにジロジロ人の顔を見て。」


女性は不思議そうな顔をしてレインを見返した。


「・・・もしかして、ウチと前にどこかで会ってたりする?」


左手を腰に当て右手を額に当てる。


うーむ、学ランじゃなかったら絵になるのにな。


「あ、いえ……一度も会ったことがないな。」


「そ、そうか。」


期待していたのか女性は、僅かながら落胆した。


「で、さっきのボールは?」


レインはボールが直撃した脇腹をさすりながら女性に尋ねた。


「あれか……逃げたな。」


「ああ、それはよかっ……逃げた?」


一体、なに言ってんだこいつとレインは女性の顔を見た。

少女は考えるような表情をしていた。


「とりあえず、お前が無事みたいでよかった。意外に丈夫だな。」


「・・・・・。」


意外とは失礼だ。


「・・・あの、学生の方ですよね?それとも、先生かな?」


「ウチが先公に見えるかい?」


見えないのだがありえなくはない。

カルデラの教職には、ドラゴンハンターでの実力が認められたら二十歳前後から就くことが可能だ。


外見的には、若手な教官であってもおかしくはない。

では、疑問形で返したということは、この女性は学生だろう。


「ウチは娥梨子、座祖 娥梨子(ざそ がりこ)だ。前衛科一年として来てる。ここで会ったのもなにかの縁だ、仲良く頼むな。」


スッ、と手を差し出されたので、レインはおずおずと娥梨子の手を握った。

娥梨子の手は、なぜかテーピングが何重にも巻かれていた。

しかし、レインは女性の手を握るのは初めての経験だったので気にしなかった。


一年って、俺と同い年か……


「お前は?」


名前を尋ねられているのだと気づくのに数秒かかった。


「俺は……」ゴニョゴニョ


「ほぉ、ウチより歳下の癖にタメ口か…」


「・・・・・え?」


娥梨子の瞳がギラリと光ったのを見て、レインは戸惑いから言葉を止めた。


「歳上には敬語だろうがぁぁぁっ!」


エエエエッ!?なぜキレる!?


「何を驚く。どう見てもウチより若く見えるし」


「ちよっと、勘違……」


「先輩と後輩の関係とはなっ!後輩たる者は先輩を敬い尊敬して尽くし、先輩たる者は後輩の見本として世のかを教えるものだぞ!」


なに意味不明なことを語ってんだよ!?後輩とか先輩とか、一年同士であってたまるか!


「ちょっ、待て!落ち着け娥梨子!!」


「ああん?姐さんって言えや!!」


「姐さん、聞いてくださいッ!!」


「おう、何だ!」


単純だな、姐さん。


「・・・が……あ、姐さんは、勘違いをしてますよ。」


「なにをだ?」


「俺は、16歳です。」


「・・・な、何だと?」


レインはカルデラの学生証を見せた。


「な、確かにウチとタメだな……すまない。ついさっきまで、歳下だと思っていた。」


ナデナデ…


「なぜ、頭を撫でる?」


娥梨子がまるで子供の頭を撫でるような感じだ。


「いや、なんとなく。」


「なんか悲しくなるからやめてくれ子ども扱いするな!」


あと、癒されるような顔をするな。

美人だな畜生っ!


「いいじゃないか。ウチの体をイヤらしく見てたのを見逃してやろう。」


見られていることに気づいてたのかよ、この女。でも、けしてイヤらしいことなんて考えてないからな!


「おい、もう止めてくれないかな?」


「いい毛並みしてるな。」


「俺は動物かッ!」


ペット扱いされそうなレインであった。


「しかし、人間とは外見で判断するものではないと改めて思わされたな。ウチとしたことが迂闊だった。」


「・・・・・。」


「あ、そう言えばまだ名前を聞いてなかったな。」


「・・・エルモア・レイン・ラツィオだ。名前が長いからレインでいい。呼び捨てでも構わない。」


「了解したぞ。」


同年代の学生同士で、遠慮なんてされたくはない。


「ところでレイン、ここで会ったのも何かの縁だ。手伝ってくれ。」


「手伝いって、何をだよ?」


「それは、あのボールなんだが……ウチが持ってきた前衛の接近戦訓練の道具だ。」


「あのボールがか。」


接近戦訓練用のボールか……って言うか、個人的な所有物だったのかよ。


「ウチの師匠がウチのために改造して威力が倍になった物なんだが。」


違法改造である。


「あれは、ウチ以外を攻撃しないようにプログラミングされてるはずなんだが……故障したみたいだな。」


おいおい、故障かよ。道理で見事な一撃を物騒なボールにかまされたはずだ。


「どうするんだ?」


「どうするって、決まってるだろ?被害者が出る前に停止させるんぞ。」


娥梨子は幼い頃からスケバンであり、喧嘩殺法を軸とした格闘術を得意とするらしい。

あのボールは格闘術を娥梨子に教えたお師匠様からの贈り物だそうだ。


「というわけで、手伝ってくれ。」


「別にいいけど……」


前のスケバンについてなどの解説いるのか?など気にしながら、断っても無理やり手伝わされそうだったので、レインは手伝える範囲で手伝うことにした。


「アレがどこにいるかわからないな、二手に別れ……」


「いや、わかる。多分だけど、こっちだ。」


レインはボールが飛んでった方向へと走り出した。

娥梨子は一瞬、呆気にとられてたが、彼を信じることにした。


レインは分かれ道出くわしても、迷うことなく進んでいった。


「いたぞ。」


銀色に塗装された空飛ぶボール……近接戦訓練用のボールがいた。

最短ルートで、レインはボールに追いついた。


「・・・・おい娥梨子、なぜあのボールは宙に浮かび生き物みたいに移動してるんだ?」


激突された時は気づかなかったが、ボールの表面に顔が描かれていて二つの目が動いていた。


「魔法と錬金術と科学の結晶だって師匠は言ってたな。高値で売れるのは間違いない。」


魔法と錬金術と科学を混合されてできるアイテムは、非常に珍しい。

普通のアイテムは、大概が三つの技術が合わさっていない。

三つの技術でできたアイテムは普通のアイテムよりはるかに頑丈であり強力な魔力を宿しているケースが多い。


「それにしても、凄い探索能力だな……やるなレイン。なぜ居場所がわかったんだい?」


ボールがぶつかった跡をたどったのではない。

三つの技術で作られたこのボールは人にしか攻撃するようプログラムされているので、壁などにぶつからない。


「・・・勘だ。」


「勘か、レインは鈍そうに見えるがな。」


ゼロという男の幻覚と同じで、レインは常人の眼に見えないものを頼りにボールを探知していた。

なので根拠を聞かれると答えられない。

というか、説明しきれない。

説明がもしできたとしても、(カイン)以外は誰も信じてくれないだろう。


「鈍そうに見えて悪かったな。」


レインは鈍そうと言われて少し腹が立ったが、どうやってボールを停止させるか考えることにした。


「どうすれば……近づきすぎれば近接戦訓練用だし襲って来そうだなぁ。」


やはり遠距離での攻撃が一番なのだろうが、あいにくレインは武器を持っていない。


「安心しろ、アレの停止するボタンがあるからなんとかなる。」


「なんとかって……え?」


ガシッといきなり娥梨子に肩を組まれて、何をされるのかと一瞬ものすごく焦った。

ほんのりと鼻に、花の香水の匂いがする。


ん~こうして密着されると、改めてわかるが……娥梨子、美人だな。


なでなで…


「・・・・・。」


美人だが、ガキ扱いされるのに腹が立つ。


「癒されるな。」


「俺はストレスで胃に穴が空きそうだ。」


がっかり美人め。


「・・・それで、どうやって停止のボタンを押せばいいんだ?」


武器もないし、接近戦は俺は苦手だ。


「ウチに任しとけば大丈夫。」


腕に自信がある前衛は頼もしい。


「じゃあ、俺は後ろから回り込むから……娥梨子は正面からでいいか?」


レインは通路の反対側に回った。


・・・・三つの技術で作られたアイテムは本来持つ機能以外にも特殊な能力を持つと聞いている。

俺と娥梨子が近づいてきていることなど、見通しているかもしれないな。


ボールが見えた。

ジリジリと距離を詰める。描かれた顔の目と目があった。


まずい、襲われる!


「くるならこいッ!」


レインが予感した通り、ボールは飛んできた。

先ほどレインを撥ね飛ばしたのも、たまたま視線上にいたからだろう。


「娥梨子、ヤツの注意は俺に向いたぞ!」


「おし、任せろ!」


娥梨子が前衛がもつ怪物じみた脚力で飛び込んできた。


しかし、ボールは後ろを振り向き飛び込んできた娥梨子を横に飛んで回避した。


結果、娥梨子はボールではなく、その奥にいたレインと衝突した。

しかも、頭と頭でゴチーンとぶつかったのだ。


「グフゥゥゥ……おい、娥梨子……大丈夫か?」


レインは娥梨子を抱き止める形になっていた。


はっ、いかん。不可抗力とはいえ、女子を抱きしめてしまった。何をやっているんだ、俺は。


「・・・・・・。」


「・・・ん?娥梨子?おい娥梨子!」


顔を覗くと、娥梨子は白目を剥いて気を失っていた。


「マジかよ。」


前衛科の娥梨子が戦闘不能、状況は深刻であ


「がっはぁぁぁああ!」


後ろから突撃され、レインの体は弾き飛ばされた。


ボールが娥梨子の上を漂っている。

まるで自分の勝利に酔っているようだ。


そうして漂うボールに、ヌッと娥梨子の手が伸びた。

娥梨子の手はボールを捕らえると物凄い力で床に叩きつけた。

カチッ、と床に叩きつけられたボールから音がして、描かれていた顔が歪み消えた。

あの前衛接近戦訓練用ボールが、銀色のボールになった。


「捕獲成功だ!」


娥梨子はレインの方を見て、白い歯を見せて笑った。


「・・・気絶してたんじゃないのか。」


レインは全く訳がわからないという表情を浮かべる。


「ハハハ、なかなかの演技力だろ?」


タチの悪い女だ。


「そのボールに近づくために俺を利用したな。」


「利用とは酷いな。ただお前をからかってみたい気分だった許せ。」


うっ、こいつ……悪魔か!?


「最悪だ。」


「まぁ、気にするな。ウチの体を抱きしめて喜んでいたことをチャラにしてやるから。」


「・・・・・・。」


な、何も言えない。


「それにしても、プログラムが変わるほど殴ったかな?」


廊下の隅で膝を抱えてるレインの横で、コンコンと娥梨子がボールの表面を指で叩く。


『・・・マナーモードになりました。』


など機械音を発するボールで壁とキャッチボールの練習。

ボールは起動する様子はないようだ。

これでボールが人を襲う心配はなくなった。

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