04
読んでくれてるかな?
既に極東支部には、約数百人もの未開地への探索を参加する予定のハンターと学生が集まっていた。
レインとカインは最後の参加者として、極東支部の上空にいた。
空は暗く、月が星を従え浮かんでいた。
極東支部は巨大な塔が建っているが本体は塔ではなく、地下にある小規模の都市が本体であった。
入口である塔の周りは対竜壁が二重に建てられ、壁と壁の間にスラム街が広がっていた。
「・・・どこも似ているなスラム街は。」
外を見てカインが呟く。
「いつになったら人類は安泰を迎えられるのか……」
カインがそんなこと言っているが、レインには、そのようなことを考える余裕がなかった。
なぜなら…
「身体中が痛ぇぇぇぇぇぇッ!!」
腰がっ、背中がっ!
あっちこっち打ち身状態で身がもたないんじゃないのか……なんて考えていた。
『頑張れよ、あともう少しだ。』
そう言うハンターの声は棒読みだったのに、レインは腹立だしく感じていた。
『・・・頑張れ兄ぃ!』
弟の声援に涙が溢れ、打ち身に染みる。
『着陸する。お前を先に投下する。』
ハンターの宣言後、突如レインの体がフワッとなり、上下の感覚がなくなった。
「は?………はぁぁぁぁぁぁっ!?」
いつの間にか戦闘機の腹が空いていて、スカイダイビングみたいなことになっていた。
「アアアアアアアア~……ッ!!?」
レインの体はクルクルと縦に回転。
体操選手が見せる演技を思わせる躍動感。
「おっと。」
落ちてくるレインを誰かがキャッチした。
「親方……空から男の子が降ってきた。」
「なに言ってんのよ恭也。親方なんてここにはいないわよ?」
「真季奈、あれだよあれ……えっとその場のノリってやつだ。」
そう言いながら恭也という名のハンターはレインを下ろした。
「あれって……あ、恭也。言うの忘れてたけど秋彦が呼んでたよ。」
「オオッ!頼んだものが完成したのか!!」
恭也が待ちきれないのか、落ちてきたレインを気にも止めず走りだした。
「ちょ、ちよっと待ってよ恭也!あの子はどうすんの?」
「そんなことより真季奈、早く秋彦のとこ行こうぜ!」
恭也は追いかけてきた真季奈の手を掴んで引張って行ってしまった。
「そんなことって酷いなおい。」
残されたレインはただ呟くしかなかった。
「兄ぃ!」
しばらくして、座り込んで脱力しているレインの元に、カインは駆け寄った。
「・・・ごめん。俺が代わっていればよかったよな。俺、兄ぃより体が大きくなければ……」
自分を思ってくれるのは嬉しいのだが、遠回りに体が小さいと言われてみたいで悲しい。
「兄ぃ、立てる?」
「ああ、通りすがりの人にキャッチされたからな。」
戦闘機の中で打った背中や腰はまだ痛かったが、立つには支障はなかった。
「お、生きてるな。」
ハンターは無表情だった。
ドラゴンハンターなら生きてて当たり前だからな。
ハンターは胸ポケットから傷だらけの懐中時計を取りだし、現在時刻を見た。
「間に合ったな。ガキども、ついて来い。」
ハンターは懐中電灯をしまい、歩き出した。
カインはレインを支え、ハンターの背中を追った。
※※〇※
「すごいな。」
「・・・・・うん。」
そんな芸のない感想しか出てこないほど、最前戦の極東支部は巨大だった。
世界中にあるドラゴンハンター支部の中では、文句なしに最大のデカさを誇る。
これまで、竜から人類を護るため、現代の職人や魔法使いに錬金術師、科学者はお互いに手を取り研究を積み重ねてきたが、成果としてできあがったものは、対竜壁や支部に使われている特殊合金等だった。
今もなお、研究を続けている。
塔の中には巨大な装甲車があった。
百人以上の人間や大量の物資を乗せて走ることができる装甲車、見た感じは動く要塞だ。
当然、特殊合金を使っているのだろう。
ほどなくして、装甲車に乗り込むための場所に出た。
装甲車の入口は屋根に取り付けられた扉ではなく、後面に開いた口だった。
馬や牛ぐらいの大型生物でも、余裕をもって中に入れる幅と高さがあった。
入口の両脇には、完全武装したハンターが二人、立っていた。
二人のハンターは面倒な仕事を引き受けたかというような表情をしていて楽しそうとは思えなかった。
レイン達を連れてたハンター(名前がわからないのでこれから鬼畜ハンターと呼ぼうとレイン思っている。)は顔パスで二人の横を通り抜けた。
レイン達もそれに続く。
装甲車内はレイン達と同世代とそれ以外の男女……未開地の探索に参加する予定の学生達とハンターでひしめきあっていた。
世界にある各支部から集められたというだけあって、彼らの服装や立ち振る舞には、一貫性がまるでなかった。
だって、頭にターバンを巻いて目から下を全て隠すローブを身につけているのは砂漠ある支部、なんの動物か竜なのかわからない毛皮のフードを被っているのは氷河にある支部の出身者だろう。
「個性豊かすぎだろ!」とツッコミたいのだが、レインは我慢して横を通り過ぎた。
着物姿で腰に一本の刀を下げているのは、日本……ここの極東支部にいるハンターで間違いない。
優雅な曲線を描く日本刀は、世界一の切れ味を持つ武器といわれている。
横にいる男は、頬に描かれたハートが印象的で、侍のハンターと仲良さげな感じを見ると極東支部のハンターなのだろう。
レイン達と同じ、西ドラゴンハンター支部と思われる、いわゆる田舎者っぽい人はいなかった。
英雄とまで吟われたドラゴンハンターは、過酷な環境から生まれるらしく、他の支部よりわりと比較的平和な西ドラゴンハンター支部のカルデラから選ばれた参加者は二人しかいなかったようだ。
車内の学生やハンター達は、レインとカインを物珍しげな目で見た。
たぶん二人、いやレインの服が濡れていたせいか、注目されてしまっていた。
カインは四方八方から注がれる視線が気にならないようだが、レインは居心地が悪かった。
いや、戦闘機の中でかいた冷や汗で濡れてるって言えないだろ。
「これからハンターは会議室に学生は用意された各教室でミーティングが行われることになる。」
鬼畜ハンターは足を止めずに進んでいく。
「まぁ、ミーティングとは名ばかりの、自己紹介を兼ねた顔合わせだ。気楽にしろ。」
鬼畜ハンターは説明するのも面倒だと思わせる顔でそう言った。
「・・・わかった。」
顔は無表情のカインだがこの状況を楽しんでいるのがわかるが、レインにはそれを楽しめる余裕はなかった。
正直、合意の上とはいえ、いきなり拉致られた状況を「気楽にしろ」と、鬼畜ハンターの面倒だと思わせる顔で言われても、反応に困るとツッコミたいところだ。
外から見た印象以上に広く感じる車内を歩くこと数分、教室が固まっているエリアに出た。
エレベーターに長く乗って上ったので、どちらかといえば高層の方に位置すると思われる。
「兄ぃ、またあとで……」
前衛科【01】の教室前でカインと別れて、レインは鬼畜ハンターの引率で空き教室に移動した。
黒板や机など、一通りの教具が揃っていたが、誰もいなかった。
前衛科の教室周辺には、それなりに人がいて、活気があった。
ここは、それが全くない。
なぜこんな教室に………?
レインのことは特別に乗せてくれると言っていたが、学生としてではないのか?
「ち、あいつ……ここにいるよう言ったのに……」
鬼畜ハンターはイライラしているのを見て、とばっちりでも来るのではないかとレインは身構えたが
「少し、ここで待ってろ。」
鬼畜ハンターは速足で去っていった。
仕方なく、レインは無人の教室で一人、椅子に座って鬼畜ハンターが戻って来るのを待った。
十分が経過し、十五分が経過した。
初めて来た慣れない場所で過ごす一人の時間は、やけに長く感じられた。
待つのが辛くなったレインは、迷いそうで不安だが、じっとしているよりはマシだと思い、教室の外へ出た。
廊下には誰もいなかった。