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閲覧ありがとうございます!
どうしよ、ネタが尽きそう!ネタ、どこかにないかなぁ!
唸れ、空想!
燃えろ妄想!
アイディアよ浮かび上がれぇぇ!!
完全に森と一体化しているため、上空からは発見に至らなかったこの集落。
思っていたよりも住民の数は多く、繁栄している印象を受けた。
生活レベルは決して高くはない。
電気や魔法を利用する家具はないし、下水道も整備されてもいない。
けれど、森に溶け込んで暮らしている村人達にとって、それは必要のないものなのだろう。
なくても十分に、満足のいく生活が送れるのだろう。
そしてレイン達は、最後に集落の外れにある花園を訪れた。
朝の陽光に照らされて、色とりどりの花が鮮やかな葉緑と共に輝いている。
「素敵な……場所ですね。」
レインは素直な感想を漏らした。
「そう言ってくれると、死者も喜びましょう。」
「死者?」
花園と死者がどう繋がるのかレインは理解できなかった。
「ここは霊園なのじゃ。」
この集落では樹木葬が一般的で、それぞれの家の者が、一本の樹木の下にまとめて眠っている。
樹木は墓標の役割を果たしていた。
「最近、この霊園に、新たな死者を埋める機会が増えましてのぉ……それも儂よりも若い、これからが熟して……人生を謳歌しようって者が……」
「・・・・・・。」
長老が何か言いかけたのは気になるが。
うぅ……なんていう景気の悪い話なんだ………この村を訪ねたばかりの俺に聞かせる話じゃないよね。
「勇者様、ここに来る時に空を飛び焔を吐く大きな龍を見かけませんでしたかの?」
「見ましたよ。」
その龍のおかげで俺はここにいるんだよ。
「あれは龍チュヴァシ。この地域を縄張りにし、儂らの一族が昔住んでいた都市を滅ぼした凶悪な龍じゃ。それがまた村を襲い始め、死者を増やしておるのじゃ。」
所詮この世は弱肉強食……
しかし、だからといって受けいられる問題ではない。
「儂らが住む村以外に幾つか小さな村があるのじゃが、龍によって滅ぼされてしまった村もあるのじゃ……そこで、勇者様に龍を退治をお願いしたいッ!」
あ~はい、やっぱりそうなりますかぁー
とレインは他人事のように聞いていた。
「伝承によると、過去にグリモアを使えし者は歴史に大きな革変を起こし、大魔導師や勇者と崇められるそうですじゃ。」
極東支部でも聞いたな、こんな話……
この地の伝承が、もしかしたら極東支部における魔銃伝説の基礎になっているかもしれないなぁ。
「そして勇者この地に現れし時、邪龍を倒し永久なる平和を築かん……」
「・・・それも伝承ですか?」
「無論……」
そ、そうなのか……なんか、やらなくちゃいけない気がしてきたな。
「おばば~、ウソんこつくなよ。そんな話、きいたことね~ぞ。」
子ども達が長老にぶーぶー文句を言う。
嘘なのかよウオォイッ!
レイン、心のツッコミ。
「嘘なんかついとらんぞ。無論……儂の創作じゃ、と言うつもりでしたのでな。フェッフエッフエッ。」
「・・・・・・・。」
とても笑えない。
「じゃが、勇者様に龍を退治していただければ、老いぼれ婆の戯言は真実の伝説として、永く語り継がれていくことでしょうぞ。勇者様、龍を退治してくれますな?」
「嫌です。」
「・・・フェ?すまんのぉう、耳が遠くて聞こえなかった。もう一度、言うてくださらんか?」
「無理です。」
「・・・すまんのう、耳が遠くて聞こえなかった。もう一度、言うてくださらんか?」
「だが断る!」
「・・・はぁ?本当にすまんのう、耳が遠くて聞こえなかった。もう一度、言うてくださらんか?」
くっ、ボケではなくループだと!?
ならば誠心誠意、耳元で説明するとしよう。
「長老、俺は確かにグリモアに選ばれたみたいだけど、だからといって、俺は勇者なんかじゃないよ。龍を倒せるほど強くないし自信もない。実力も人柄も見ないで、装備だけ見て大魔導師とか勇者とか言われて無茶なお願いをされても困るよ。」
「いやいやいや!謙遜されんでよろしいですぞ。実力のない者にグリモアが持てるわけがないのじゃから。なんせ、龍と敵対した大悪魔が作り出した銃ですからのぉ。」
長老は朗らかに笑った。
屈託のない、とてもいい笑顔だ。
「ゆうしゃさま!お願いします!」
「ゆうしゃさま!お助け~!」
「ゆうしゃさま!ゆうしゃさま!!」
子供達の期待に満ちた眼差しがかなり痛い。
首筋に変な汗が出てきたような気がしたレインであった。
「勇者様、龍を退治してくれますな?」
「・・・はい。」
「おおッ!勇者様ならば、そう言ってくれると思っておったわ!」
「「「やったぁぁぁっ!」」」
「・・・・・・・・。」
なんだこの茶番は……
「今からすぐにも退治に向かって欲しいというのが本音なんなのじゃが、勇者様はお疲れのご様子。今日はこの村で思う存分、休んでくだされ。」
レインは空き家に案内された。
村長の家と同じ、樹木と岩をそのまま利用した屋根だ。
レインはそこで村人に用意してもらった食べ物を口にして、仮眠をとったあと、まだ日が昇りきらないうちに起きだし、家を出て人目を忍んでこっそりと村の名かを移動した。
イーグルアイで空間を把握し、忍び足。
竜に見つからないように動くより、村人に見つからないように動く方が簡単だ。
ごめんなさい……
レインは集落から抜け出して、装甲車を目指した。
龍チュヴァシをどうするかについでは、乗車員達と相談して決めようと思った。
※※〇※
支部長の義娘である藺の熱心な説得が項を奏して、福智は行方不明になった後衛学科【00】の学生……レインの捜索隊を編制することを決定した。
捜索への参加を強く志願した藺は、福智の計らいで、特例として参加することを許された。
サナ達が違反行動を取ってまでレインを探しているのに、自分だけ車内で淡々と仕事をするのは嫌だったからである。
そして前衛五人、中衛三人、後衛二人で一組の捜索隊が四組作られた。
中衛にいる魔術師による範囲感知魔法と後衛のイーグルアイのコンビが捜索対象を探しだし、同行する前衛はそれを護衛する。
「・・・んで、なぜオレまで捜索隊に参加させられているんだい?」
ミハエルはぼやいた。
「捜索隊の私達よりミハエルさんの方が優秀だからですよ。」
ミハエルと同じグループの藺が言った。
ミハエルを入隊させるように推薦したのも藺だ。
ミハエルは身分証の確認により、一応後衛扱いなのでこのグループは実質後衛が三人。
藺は中衛として数えられている。
「優秀って言われてもな……」
褒められている気がしないミハエル。
「頼りにしてますよ。」
藺はミハエルに微笑みかけた。
ミハエルの顔にはこの女……変なやつだと書いてあった。
捜索隊メンバーに選ばれたハンターや学生達は、侵入者であるミハエルのことを忌避していたが、藺は別だった。
極東支部には変人な賢者や絶対人外だと思われる義父がいるからであった。
ならず者や侵入者だからといって、無闇に恐れる必要はない。
堂々と装甲車に侵入した度胸と技術はむしろ利用できる……信頼に足る人物だと、藺はミハエルを評価している。
「出発しよう……ミハエル、先導してくれ。」
「ふぅ、やれやれ……」
不承不承といった風だったが、ミハエルは前衛のハンターの指示に従い、レインがいないか範囲感知魔法で探し始めた。
※※〇※
サナは筋斗雲に乗って上空を飛んで周りに危険がないか確かめて下の五明丸に合図を送る。
合図を受け取った五明丸はカインを背負ってハーツマンと我梨子を従えて森の中を速く、安全に移動する。
カインは五明丸の背中でぐったりしていた。
サナは、できることならどこかでカインを休憩させてやりたかった。
そう思っていると都合よく現地民だも思われる人物が見つかった。
槍を持っている姿を見るところ、狩りの最中なのだろう。
サナは筋斗雲に乗ったまま近づいていた。
「サナ、現地民トノファーストコンタクトハ慎重ニスルベキダヨ!」
「えぇ、めんどいっすよ。話にならなかったらぶっ飛ばせばいいじゃん。」
おいおい。
「すいませ~ん。」
「くぁwせdrftgyふじこlpッ!」
変な奇声をあげた褐色肌に、四角い顔に角生やした男性現地民は、空飛ぶ乗り物に乗ったサナを見て驚嘆し跳び上がった。
「アババババ……はぁーはぁー………すげぇのに乗ってんな嬢ちゃん。」
「フフフ、いかすでしょ。」
深呼吸して何とか落ち着いた現地民の使う言語が世界共通語で使われている言語と同じようで、サナは安心した。
これなら意思の疎通に不自由をすることはない。
「嬢ちゃん達も、あの鉄の乗り物に乗ってきた外の人間だろ?」
達〝も〟と言われ、名探偵(自称)サナはレインがこの現地民と接触しているという確信を抱く。
「アタシ達とは別の人と会ってるんだよね?それって黒髪の男の子かなぁ?」
「そうだ。嬢ちゃんよりほんのちょっと身長が高い小さな男の子だったから、はっきり覚えてんぜ。」
「アタシ達、その男の子を探しているの。今、どこにいるか知らないかな?」
「多分……まだオババんとこの村にいるはずだ。そこの獣道をなぞっていけば着く。一本道だから迷うことはねぇよ。」
「サンキュー!」
サナ達は現地民の指差した先へと進み、何事もなく集落に到着した。
「どこに行きやがった勇者ぁっ!?」
「こっちにはいないわっ!」
「この足跡は!……あ、俺の足跡だ。」
集落では現地民による勇者狩りの真っ最中であった。
「ハーツマンさん、先行ってくださいっす。」
サナは筋斗雲をから降りた。
「エッ、ミーガ行クノ!?」
「「行け。」」
五明丸と我梨子のドスの効いた命令。
「・・・・・・後デグレテヤルゥゥ!」
ハーツマンはホロリと目から流れる涙を手で拭いながら一足先に、騒々しい集落に入った。
どう話しかけたらいいものかと悩んでいると、村人との方から話しかけてきた…いや、怒鳴られた。
「異界人だ!異界人が来たぞ!」
ワラワラとハーツマンの周囲に人が集まる。
「勇者をどこにやった?」
「勇者を出しなさいよ!」
「龍を倒し、オレ達を救ってくれるんじゃないのか!?」
「・・・・・・・・Why?」
ようこそいらっしゃいましたここは〇〇村です、と言われたかったわけではないのだが、酷い非歓迎ムードどある。
さっき会った男は、異界からの来訪者に好意的なように見えたのだが
・・・・エ?ナンデミーハ怒鳴ラレテンノ?
「ソ、ソノ勇者トイウノハ?」
「しらばっくれな!グリモアを持った黒髪の男の子、知らないとは言わせないぞ!」
「ハ?」
黒髪の男の子というのはレインのことだろうか?
レインガ勇者トハ、ドイウコトカナ?
「おい、ハーツマン。レインいないのか?」
待てなくなって、横で欠伸をしていたサナを引きずってきた我梨子が気だるそうな声でハーツマンの背中に尋ねた。
五明丸もカインを背負ったままついていく。
「ウーン……少シ遅カッタミタイダヨ。」
ハーツマンは我梨子に向き直り、村の現状をざっと説明した。
「レインハ、理由ハヨクワカンナイケド、ココデ勇者トシテ祭リ上ゲラレタミタイダネ。」
「それで龍を倒すよう頼まれて、怖くなって逃げ出しちゃった、か……はぁ~」
サナはため息ついたのち、村人達に向き直って言った。
「龍は、アンタ達の世界の問題でしょ?異世界の人間を頼んないでよ。」
「自分達ではどうにもできないから、勇者を頼ったんじゃないか!」
「困っている人を助けるのが勇者じゃない!」
「なんて優しくない外界人だ!」
ワァッ、と村人からの反論が巻き起こった。
「・・・しかし、なぜこいつらにとってレインは勇者なんだ?」
我梨子は首の骨をポキポキ鳴らしつつ、ハーツマン視線をやった。
「グリモアヲ持ッテイタカラダッテヨ。」
「ほぉ。」
我梨子はわめく集団の奥にいる子供に焦点を合わせた。
額に小さな角を生やした子供は憂鬱な顔をして店番をしている様子だ。
暇そうに手で弄っている銃は、グリモアのレプリカらしき物だった。
「そうか、ここでもグリモアは伝説の銃なのか……」
極東支部が世界の全てではないと分かっていたが、この大陸にあった村が見つかったことで改めて思い知った。
この村は竜が世界に出現した直後にギリギリ大陸の外側と交流を持っていたのだろうか、と我梨子は推察した。
でなければ、使われている言葉が同じだったり、共通の魔銃伝説が語り継がれていることの説明がつかないはずである。




