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閲覧ありがとうございます!
数日間投稿が遅れてしまいすみませんでした。
暗い森に暖かい日の光が射す。
大陸に夜明けが訪れた。
はぁ……空が白くて眩しいなぁ。
「だいまどうしさま~こっちだよ~!」
「わかったわかった……」
子供達はレインのことを「だいまどうし」と呼ぶようになっていた。
恥ずかしいからやめてほしいと頼んだのだが、「だいまどうしさまはだいまどうしさまだからいいの!!」と訳のわからないことを言って聞いてくれない。
そのうちレインは否定するのが億劫になり、それについて何も言わなくなった。
「ついたよ~!」
子供達の案内で、レインは現地民の生活している集落を訪れていた。
集落と森の境界は曖昧で柵や門は設けられておらず、人工的な建造物も見当たらなかった。
なので、住民達の生活する姿を見るまでレインはここが人間(?)の集落だとは思わなかったのであった。
狐か狸かなにかに自分は誑かされているのではないかと正直に思っていたのだ。
「どうする?」
「やっぱ~、そんちょ~の所でいいんじゃな~い。」
「それがいいね。」
子供達はレイン抜きで話し合い、レインを村長の家に案内することに決めた。
「こっちこっち~!」
レインは子供達の案内に従いついて行く。
しばらくして行き先をよく見ると、樹木と岩の間に扉がついていた。
中に入ると、生活臭のする心地の良い空間が広がっていのだった。
「そんちょ~、おはよ~。」
「おや?朝から珍しいな。」
額には鋭い角、顔に厳つい傷痕がある村長と呼ばれた人物は岩を削ったテーブルについて、木製の食器で白いスープを飲んでいた。
村長は一人で朝食をとっていたようだ。
「それで……その子は?」
玄関で所在なげにしているレインを見て、村長は言った。
「だいまどうしさまだよ~!」
「とっても強いよ!」
「でかい乗り物からきたって!」
子供達が村長に報告した。
「だいまどうし……ああ、大魔導師……おお!そうかそうか!」
村長は立ち上がり、レインの手を取った。
コワモテな顔だなぁ、とレインは思い軽くビビっていた。
「大魔導師殿、こちらから迎えに出れなかった非礼をお詫びしよう。すまなかった。しかし、諸事情あって、ここを離れるわけにもいかなかったのだよ。」
「は、はぁ。」
この厳つい村長は、外から来た人間に対して友好的と見て良さそうだ。
「しかし、子らの話しに合わせて大魔導師っと呼んでみたのだが……なぜそう呼ばれておるのかの?………」
レインの小柄、子供じみた体を見て、村長は髭をいじりながら聞いてきた。
「えーと、この子達が勝手に言ってるだけですよ。」
レインは困ったように(内心はイライラしながら)薄く笑った。
「でもそんちょ~、この人、グリモアもってるよ。」
「絵本でよんだからまちがえないよー」
「ぜったい本物だよ~」
子供たちが村長の袖を引いて告げた。
「な、なんと!」
村長はくわっと目を見開いてこちらを見る。
すいません、目力強すぎて怖いんでコッチ見ないでください。
「貴殿の持つ魔銃グリモアを見せてもらってよろしいかな?」
「は?………いいですけど。」
レインは言われるがままにグリモアをガンベルトから抜いて、村長の前に差し出した。
「おぉ、これが魔銃グリモア……確かに伝承通りの………」
村長はグリモアに触れようとはせず、見るだけに止めた。
「しまってくだされ。物知りの長老の所へ案内しよう。」
村長はすぐにレインを連れ出した。
子供達も後ろからついて来る。
「この銃を……グリモアのことを知ってるんですか?」
「君が、どこでその銃を手にしたかは知らないが………グリモアは、この地にゆかりがある銃なのだ。より正確に言えば、ここから少し離れた都市と……だな。」
「ここから少し離れた都市…?」
レインの頭の中に龍が潜んでいた都市の姿が思い浮かんだ。
「世界が竜に覆われる前、この大陸で大繁栄していた都市の一つなのだ。ここの村の者はかつて大都市に暮らした者が竜から逃げこの森に住み着き、生き残った末裔だ。」
「なるほど……」
竜が現れる前の歴史を知る書類は殆ど失われたが、その後については学園の歴史書にも記されているのだが……
この村長から聞いた歴史の話しは初めて聞いた。
どうやら歴史書に書かされていない事実がここで知ることができるかもしれない。
「いつのことだか、君のようにこの大陸に来た者がいたらしい。その者がグリモアを持ち竜から村を救ったと言い伝えがある。そのことを書き記した絵本があり、今も村の子ども達に読み継がれているのだ。」
なるほどなるほど…子供たちがグリモアを見てわかったのは絵本のイラストのおかげかぁ。
村長に案内された先は、外からは竜の巣窟のようにも見えなくもない岩穴だった。
中の通路の随所に設置されているランプには、竜の血液と骨髄を混ぜて作った燃料が使われており、十年以上にわたって発火し続ける。
岩穴の中では、武器屋や道具屋が販売を始めようとしているところだった。
この大陸には貨幣制度という概念が失われており、欲しい商品があれば、店員に物々交換を申し出ればいい。
武器屋のカウンターの奥に、グリモアのレプリカが飾ってあるのが見えた。
極東支部の職人が作ったレプリカに比べると、オリジナルを見ることができないためか、再現度が低い。
が、それでも一目見ればグリモアとわかる出来映えだ。
岩穴の奥に作られた居住空間の一室に、長老はいた。
螺旋にひん曲がった角を額に生やした梅干しいみたいにしわくちゃな婆さんだ。
鼻先が少し曲がっていて、それが魔女ぽい印象を見る者に与える。
「長老、外界から若者が村を訪れてくれたぞ。」
「おおぉ……」
長老は杖をついて立ち上がり、レインに握手を求めた。
「よくぞおいでなすった。儂はだいたい九十年くらい生きてきたが、外界から来る人を見るのは初めてじゃ。」
長老はフェッフエッフエッと笑った。
「しかもこの者はグリモアらしき銃を持っておる。」
「ほぉ……」
長老は杖の頭を撫でた。
「長老、貴女の目で確かめてほしい。」
「了解した。どれ、グリモアを構えてもらってよろしいかのぉ?」
「はあ。」
面倒くさいから嫌だ、とは言いづらい流れだ。
それに、何となくだが、断るとボケたフリをして何度も同じ質問をされそうな予感があった。
「物語でも語られるグリモアは、無敵を誇る龍の鱗をもいとも簡単に弾丸が貫いたと言う……しっかり当ててくだされ。」
言われて、レインは長老に指差された杖の頭に銃口を向け、照準を合わせる。
「撃ちなされ!」
長老の合図のもとグリモアから弾丸が飛び出した。
杖の頭を貫通し、床に弾丸が突き刺さった。
「おお……素晴らしい!形もそうじゃが、この貫通力……本物に違いない!」
長老は杖頭の空いた穴を見て言った。
「木の杖くらい、普通の銃でも穴ぐらい空くんじゃ……」
「いや、空かない。」
レインの疑問に村長が答えた。
「長老の杖は、鍛えた鋼よりも硬く竜の鱗に匹敵するほど硬い樹木〝硬鋼〟製。並の銃なら、穴が空かないどころか、跳ね返されているところだ。」
長老の杖によって、レインの持つグリモアが本物である可能が高いことが立証された。
「大魔導師様…いや勇者様、お願いがありますのじゃ。」
「お願い、ですか……」
大魔導師から勇者にジョブチェンジされたことに……嫌な予感がした。
だってさぁ……勇者が頼まれることって、厄介なことばかりだろうなぁ。
長老の説明を聞いているうちに、どうやら勇者とやらは災厄のある場所に惹きつけられる性質があるらしい。
ことあるごとに事件に巻き込まれるどこぞの名探偵と似たようなものだろう。
「・・・まぁ、勇者様も思うことがありますでしょうな。時間もあります故、この村を一通り見てもらうとしましょうぞ。」
長老は穴が空いた杖を持ち直し、年齢を感じさせない足取りで部屋から出ていった。
レインは子供達と一緒に長老の後を追った。




