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『困っているようだな。力を貸してやろう。』
「・・・・・・?」
自分の心の声ではない。
それはつい最近……どこかで聞いたことのある声だが思い出せない。
レインは声の出所を探して視線をさ迷わせる。
『後ろだ。』
後ろを振り向くとそこには黒いローブを着て、肩に白い梟を乗せた男が立っていた。
「・・・・・・・。」
姿形は人間なんだがフードで顔が見えず、その体は少しだが宙に浮いていた。
子供達が男の声に反応している様子はないことからも、幻覚と見てよさそうだ。
この竜に囲まれた状況にストレスを感じ、幻覚のパターンが増えてしまったのかもしれない。
『私は、マモンという、貪欲を司る悪魔だ。それと私の僕である梟のゲニウスだ。』
『ホー!』
「な、なんの用ですか?」
ゼロはお休みですか?などと、のほほんとした幻覚との日常会話を楽しむ余裕はこの状況にはない。
「えっと……キミ誰とお話ししてるの?」
気弱そうな子供が虚空に向かって喋りだしたレインを見て怖がっていた。
他人から見たら独り言がヤバい奴に見えているのだろう……解せぬ。
『本来なら儲からない争いは私の好みではないが……数年ぶりの適合者だ。仕方がないが適合者に死なれたら困るので力を貸してやろう。』
『ホホー』
マモンはレインの頭を指を差す。
『試しにその銃で自らの頭を撃ち抜いてみなさい。』
『ホホホホ』
「・・・・・・。」
おいおい、俺が生み出した幻覚が俺に自殺しろと言ってるんだけど。
これは、何か暗い情念を暗示してるとしか思えないんだが……まさか、俺は心の奥底では死にたがってるのだろうか?
『さぁ、撃ちたまへ!痛いのは最初だけだ恐くは無い。』
『ホッホホー』
レインはマモンの態度に圧倒された。
な、なんてアグレッシブな自殺の進め方だ……!
見習いたいとは思えないけど。
『奴らは待ってはくれないぞ急ぎたまへ』
『ホーホッホー』
囲っている植物型竜が包囲を縮め、刻々と接近して来ている。
「・・・・・・。」
いやいや、自分の頭を撃ち抜けとは言われても、いささかの躊躇いを覚えてしまう。
「・・・・どうする、俺!」
『情けない……実に情けない。その腕借りるぞ。』
と葛藤していたら右腕が自然と動き、レインのこめかみに銃口を押しつけた。
「あ」
カチリッ。
引き金を引いてしまった。
発砲された弾丸はゼロ距離でレインの頭に着弾した。
着弾の衝撃に頭は揺れ、激しい痛みにレインは意識を持って行かれそうになるがギリギリ保つ。
そして、レインの体に変化が起きた。
額に黒い五芒星の魔方陣が浮かび上がり、お金を示す記号のような模様が徐々にレインの体を染め上げる。
ミシミシミシ……
と音が聞こえたと供に、大きく身長が伸び始めた。
『力を貸す代わりにと言ってなんだが、意識を融合させてもらう。』
「なっ!」
髪が白金色に染まり、瞳が紅くなった時にはレインの変化は終わっていた。
「『さぁ、このマモンと供に貪欲のかぎり暴れようぞ。』」
「あれ、キミ……どうしたの?」
「・・・誰?」
「・・・怖っ!」
突然自分の頭を撃って、変身するレインを見て子供たちは完全に退いていたのだった。
『うわっ……身長伸びたのは嬉しいけど、どうなってんだ!?』
「ふむ、初めてということもあるのか……もって融合は五分だな。」
マモンはレインの体を動かし、ジリジリと距離を縮めてくる植物型竜たちの頭上に飛び上がった。
「一撃で全部仕留めてみせよう。魔弾貪欲なる竜巻!」
銃口から何重に重なった魔方陣が現れ、それを発砲された弾丸が突き破り、植物型竜達の足下に着弾。
「さぁ、私の貪欲を満たせ。」
ゴオオォォォォォオオ……
大地が揺らぎ地面が大きな口のように開き、割れ目の底から黒い竜巻が出現した。
植物型竜達は竜巻に呑まれ、地面に開かれた奈落の底に引き込まれていく。
それを見て、子供達がなにか言っていたが、空中に浮かんでいたレインは自分が発している(マモンによって発している)高笑いと竜巻の轟音が大きすぎて、レインは聞き取れなかった。
※※〇※
それは、あまりにも荒唐無稽な局地的現象だった。
「あれは……?」
サナが突如現れた黒い竜巻を見て呟いた。
前を走っているカインと五明丸やハーツマン、娥梨子が、足を止めていた。
竜巻の出現のこともあるが地面が揺れているせいである。
浮かんでいる筋斗雲に影響はなかった。
サナは四人に追いついた。
「どうなってるんすか、あれ?」
「知らねぇな……ここの大陸には、色々な龍がいるってことでいいじゃねぇか。」
「色々イルカモ知レナイカラ用心シナイトネ。」
黒い竜巻は間もなく消え、地震も収まった。
竜巻の出所が、目的地の方向に近いことがカインは気になった。
兄レインがあの竜巻に巻き込まれていないことを願うしかないと、その時
「・・・・・ん、な?」
音もなく伸びてきた何かがカインの体に吸いついた。
カインの体は吸いついた何かに引っ張られ、宙に舞い上がって、パクッ、という音とともに消えた。
なにがなんだかわからず、サナはポカンとしてしまった。
「隠れてた竜が出てきたか。」
装甲車から乗車後、初めて五明丸が刀を抜いた。
ハーツマンもベルトから銃を抜き、娥梨子がバキポキと拳を鳴らす。
カインの体が消えた方向には、何も見えなかった。
樹木しかなかった。
それでも五明丸と娥梨子は明確に走り込み自分の得物を叩きつけ、ハーツマンは銃の引き金を引いた。
刃が樹木を斬り、拳が鋭く突き刺さり、銃弾が炸裂。
「ギャアアァァァッ!?」
樹木から体液が吹き出した。
樹木から出血しているのではない。
そこにはカインを食らった何かがいた。
それは体長六メートルはくだらない、目が異様なほど大きな竜だった。
体色を樹皮に同化させて、存在を眩ましていたのだ。
竜は傷を負った痛みから体色を赤や紫に変えて、怒りを表現している。
尾が近くにいる五明丸に向かってビュッと振るう。
「遅い。」
五明丸は刀を翻し、鱗に包まれた長い尾を斬り払い尾を切断した。
「ギイィィッ?」
「オラァァァァァッ!」
怯んだ竜に娥梨子が飛び乗り、背中を拳で連打する。
「ガァァァァァ……ッ!」
娥梨子の激しいラッシュに、あまりの痛さで竜が暴れだして娥梨子を振り落とそうする。
「まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだぁ……ッ!」
ガッチリと竜に噛じりまつきながら娥梨子は殴る勢いを止めなかい。
「娥梨子、離れろ。」
「はい♪」
五明丸の一言でピョンと娥梨子が竜から離れるとハーツマンが撃った銃弾が数発、竜に突き刺さる。
「麻酔弾ダヨ。」
「ガァ…………ッ。」
ズドォォォン…
弱っている体に麻酔弾により、竜は倒れ動かなくなった。
まだ、意識あるようでギョロギョロと目を動かしている。
「・・・ハッ(゜ロ゜)!カインは!?」
筋斗雲に乗っていたサナが急いで竜に近づいく。
「ガァ……ァァ……ゴボォッ………」
「・・・ふぅ、びっくりした……。」
カインは自力で口から這い出てきた。
カインの身体中に消化液と思しき液体にまみれていた。
「だ、大丈夫!?」
「早く拭いた方がいいだろうな……」
「・・・大丈夫、平気だ。俺の体は……」
カインの全身から煙を立ち上がらせながら言った。
「チョッ……溶ケテナイカナ!?」
「・・・これは…………汗だ、だから大丈夫だ。」
「汗だったら大変だろ。」
「・・・俺は、大丈夫だから先を急がなければ。」
「いやいや、死んじゃうよ!?」
「大丈夫だ。それより兄ぃを早く……」
カインは数歩歩いたところで、バッタリと前向きに倒れた。
どう見ても大丈夫には見えない。
全力での運動による疲労と、消化液によるダメージが、カインの体力を削っていた。
「まったく、たいした兄弟愛だな。」
五明丸は倒れているカインを片手でヒヨイッと担ぎ上げた。
「どうしよう。装甲車まで戻ります?」
サナが不安げな顔で五明丸に尋ねた。
「そうだな帰るか」
「・・・うぅ、ダメだ……戻っている場合じゃない……」
五明丸の肩の上で・カインが力の籠っていない声でうなる。
「・・・向コウニアッタ川デカインニコビリツイタ体液ヲ流シタラ、筋斗雲ニ乗セタラ…」
ハーツマンが言うがサナは浮かない顔をしているのに気づいた。
「・・・ドウシタノサナチャン?」
「・・・言いにくいけど……カインは重すぎて…」
サナは筋斗雲を取り出してカインをその上に乗せたが浮かばない。
「・・・・・。」
風が枝木を揺らしてざわめく音と、微かな川のせせらぎが聞こえてくる。
「・・・運べないよ。」
「そうみたいだな。」
本末転倒である。
ドラゴン図鑑
【迷彩竜】 地竜種/迷彩
分布:未開拓の大陸
体長/体重:6m/2t
未開拓の大陸、昔で言うユーラシア大陸にて目撃された。
他には西大陸のジャングル奥で目撃されたことが記録されている。
見た目は全身白い鱗に被われており、長い尾は移動しやすいように巻いている。
翼はあるが小さく、飛行の能力はない。
四つ足歩行で木登りが得意。
性格は臆病であるが食欲旺盛、身を包む白い鱗は外の光りを屈折させ、体の色を周辺に合わせて変える。
獲物の背後から迫り襲う。




