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ドラゴンハンター  作者: ラルゴ
双子のドラゴンハンター
14/19

14

閲覧ありがとうございます!

最前線の極東支部を出てから三十日。


操縦士が指定席から発令所の中央にいる福智を見て、言った。


「エネルギー残量を考えると、そろそろ引き返すことも考えなければなりませんね。」


エネルギー切れ、ガス欠で装甲車が停止し、大陸で動けなくなるようなことになれば、たちまちとはいわないが装甲車は竜達に襲撃を受けてしまうだろう。

そうならないよう、装甲車はエネルギーを充填するため、空気中に漂う魔力(エネルギー)のある地、俗に言うパワースポットといえる地に停車する必要がある。

そのような場所が見つからない場合は、支部へ帰還し、進行方向を変えて再出発するしかない。


「あと四日は行けますが、それ以上は自殺行為になると思います。福智隊長、考えておいてください。」


エネルギーもそうだが、食料や飲料水にも不安があった。

食料庫にある食料は、車内農場から毎日補充されているが、それは永久機関ではない。

農場作物を育てるための疑似太陽をつけるのにもエネルギーが消費されているし、種や水や肥料に餌なども消費している。

それらが尽きれば食料の補充も途切れてしまうであろう。

また、優れた浄水装置がついてはいるが、飲み水として100%の水分が利用できるわけがない。


福智は隊長として機関命令を発するか否か、四日以内に決断しなければならなかった。


「チッ、楽な仕事じゃないな。」


福智は面倒臭いと顔で吸っていた煙草の灰を灰皿に落とす。


「たく、そこら辺にないのかパワースポットは?」




求めていたパワースポットが見つかったのは、それから三時間後のことだった。



※※〇※



停車している装甲車の甲板に、レインは立っていた。


レインは目の前に広がる大地を見下ろした。

緑色の森林が、まるで黄色い砂漠に歯向かうかのように生い茂っていた。

森の奥には、自然に呑み込まれたと表現できる崩れかけた廃墟の街が見えた。

昔は栄えていたのであろう都市の残骸は、今では人類の墓標にしか見えなかった。


昔、カルデラの授業でこの都市とよく似た写真を見た記憶があった。

かつてこの大陸にあった人口規模が最大の共和国。

ドラゴンハンターが生まれる前に大陸から消息不明となった国だ。


果たしてここに住んでいたかつての人種は生き残っているのだろうか?


レインは先遺隊の一員として一人乗り飛行機で先行し、廃墟の街の偵察をする仕事を任された。

それによってこの地域の安全が確認されしだい、装甲車から人員を降ろす予定だ。


・・・・・。


「飛行機に乗るって、普通に初めてなんだが……」


レインは視線を廃墟の街に向けたまま、隣にいるハーツマンに話しかけた。


「極東支部ニ来ル時、乗ッテキタンジャナイノ?」


・・・・・それは荷物にされた、あるいは投下された物であり決しての人として乗ってないぞ。


「マァ、ナントカナルヨ。」


「いやいや、ならないよ。」


二輪車や車にすら乗ったことのない俺に、飛行機を乗りこなせるわけないよ。


「というか、なぜ練習なしのぶっつけ本番なんですか?」


「乗リ方ノマニュアルハ渡シタヨネ?」


スリット・オジサン著[飛行機の操作 初級編]を、レインは乗車した日にもらっていた。

少々、気になる著者名だったが、内容はわかりやすいマニュアルではあった。


「マニュアルを読んだぐらいで乗れるものじゃないぞ。」


ほからなぬマニュアルにそう書いてある。


「ショウガナイナ……甲板デ少シ練習シテイイヨ。」


「言われなくても、そうする。」


いきなり空に飛び立つのは、飛行機を伴う投身自殺としか思えなかった。


「・・・ンデ、ユーノ首ニ巻イテルネクタイ、先生ハイート思ウヨ。」


「いえ、正直いって似合ってないと素直に言ってください。」


ピンクと白柄で萌えキャラがプリントされたネクタイを首に巻いたレインは、どこらどう見てもヲタクの人に見えるのであった。


くっ、………サナと藺に買う服を任せた結果がこうなるなら任せなければよかった。


自分でも一着か二着、予備を買っとけばよかったと今さら後悔。


恥ずかしい……早く終わらせてやる!


嫌ならネクタイを外せばいいのに外さないレインは律儀ものだ。


飛行機が甲板に運び込まれた。

藺が運送係として、飛行機のうち一機を任されていた。

藺はレイン側に飛行機を運び操縦席を降り、レインに気づいてその前に飛び降りた。


「なぜ貴方がここにいるのですか?」


クールな瞳に微かに戸惑いの色が混じっていた。


「弟のカイン君が探してましたよ。早く車内に戻った方がいいと思います。」


「マジか。」


カインが探しているとか、ややこしいことになっている気がしてきた。


カインには、俺が後衛学科【00】として乗車することを伝えていない。伝えたら、カインは俺のために暴れ出しかねないよなぁ。余計な犠牲者(死者?)がでないよう、俺はあえて伝えなかったんだけど……


「・・・・・・・。」


レインは無言で飛行機の操縦席に飛び乗った。

操縦者が乗ったことで飛行機はプログラミングされた通りエンジンが動き出す。


「なぜ貴方が飛行機に乗るのですか!?人の話を聞いてます?」


「これが俺の、仕事なんだ……」


レインは独り言のように小さな声で言った。


「なにを言ってるんですか?これで飛ぶのは貴方の仕事じゃないです。早く降りなさい。」


少し厳しい口調になった藺がレインに告げた。


「ドウシタノ、トラブルカナ?」


他の後衛の面倒を見ていたハーツマンが、レインの近くに戻ってきて言った。


「ハーツマンさんが教官ですよね?あの人に飛行機から降りるように言ってください。」


「ナンデ?」


「なっ、なんでって、見ればわかりますよね?彼は前衛じゃないのですよ。」


「アア、レインハ前衛ジャナイヨ。レインハ後衛学科【00】ダヨ。聞イタコトアルデショ?」


とハーツマンは言った。

レインはばつが悪そうな顔をした。


「普通の後衛じゃなかったんですか?」


藺は険しい顔をして、レインの目を見て言った。

レインは目を合わせない。


「一応、後衛学科【00】モ業界テキニハ普通ダト思ウヨ。」


レインに代わってハーツマンが答えた。


「・・・なぜ後衛学科【00】に?」


「それは…………」


どう藺に説明したらいいものか、レインは悩んだ。


俺がここにいるのは、戦闘機に乗ってきた鬼畜ハンター福智にほぼ強制的に連れ去られ、初めて見た巨大な装甲車圧倒され、お前みたいな雑魚じゃ生き残れないと言われて気づいたら後衛学科【00】に入りシゴかれ……普通じゃ味わえないような非日常に溺れ、気づいたら流されていた………あれ?何か涙が……

その後、魔銃グリモアに選ばれることも足されることにより、

運命の流れを更に加速させられたかと思う。

ここまで流されたなら、行けるとこまで行ってもいいと思ったのだ。

もちろん、純粋に故郷(西の支部)の外の世界を見てみたかったというものあったと思う。

あの世話好きが集まる学園から逃げたかったというのもあっただろう。


色々な要因が重なって、俺は今ここにいる。

けれど、ここにいる最大の理由は、自分のせいで弟が大陸の探索に参加しないということに申し訳なさを覚えたからだ。


カインは武道の才がある。

兄である自分を理由に乗車しないなど、もったいないと思えたのだ。

カインは将来なになりたいか決めていないだから、ドラゴンハンターの総本山とも言っても過言でない極東支部に名前を売るためにも、絶対に探索に参加するべきだと思っていた。

でも、自分が何かを言ったところで、カインは乗車を拒否し続けたんだろうな。

だから自分は無理してでも、ここにいることを選んのだ。

カインが気持ちよく探索に参加できるよう、ここにいることを選んだ。

・・・・いや、違うな。カインのせい、カインのため、そんなのは嘘だ。俺は、俺のせいで、俺のために、ここにいることを選んだんだ。


俺はブラコンではない!



さて、こんなに長く葛藤したけど……いざ説明しようと思うが、うまく説明ができない。


「藺さん、置いてくよ。」


藺と同じ係りを担当する男子学生が藺を呼んだ。


「先に行っててください。」


藺は流すように返事をして、すぐにレインの方に向き直った。


「レイン君が先遺隊員として飛行機に乗って、一人で飛ぶのは決定事項なんですね?」


「・・・うん、そうだよ。」


「ならせめて、行く前にカイン君に一声かけてあげてください。」


「大丈夫だ、問題ない。」


レインは自分に言い聞かせるように言う。


「なにが大丈夫なんですか?安全な仕事じゃないことは、貴方自身わかっているんですよね?」


「大丈夫だよ……見てみなよ。そんな危険そうに見えないでしょ。」


朽ち果てた都市以外は、わかりやすく危険な要素は、この森林のどこにもなかった。


「・・・それでも」


最前線の極東支部に所属し、幼き頃から多くの別れを経験した藺には、レインの態度が許せなかった。

どれだけ平凡に見える風景でも、竜という危険が潜んでないとは限らない。

とくにここは竜の楽園といえる大陸だ。

たかが偵察と侮って、二度と会えなくなる可能性を考慮しないのは、愚かだ。


「今すぐカイン君に会いに行ってください。じゃないと怒りますよ。」


もう十分、怒っているのでは……という言葉をレインは飲み込んだ。


「ユーノ弟君ニハ、ミーカラモ説明シトイテアゲルカラ、行キナヨ。」


「・・・・・わかりました。」


レインはハーツマンの指示に従い、飛行機を滑走路に導いた。


「待ちなさい!待ってください!レイン!」


ついに名前を呼び捨てにしてまで呼ぶ藺の声が、レインの背中をギュッと掴んだ。


だが、ここで仕事を投げることはできない。


特別に乗車させてもらっている身の俺が、何もしないでいることを許してくれるほど、教官(ハーツマン)は俺に優しくはないだろう。


「なるべく早く戻るつもりだから、カインによろしく言っといてくれ!」


レインは飛行機を走らせ始めた。


「・・・・って、あれ?」


このまま飛ぶの?アドバイスも何も貰ってないんだけど……ヤバいんじゃないの、俺!?


「練習するつもりだったはずが……」


すっかり忘れていた。


ここは鬼畜ハンター福智みたいに颯爽と飛び立つシーンが思い浮かぶ。

だが、自分の身を守るためには、グダグダになってでも停止して、練習すべき。

とはいえ、もう飛行機はトップスピードっ走り出している。

めっちゃ速度出てます、ハイ。

止まる気がしない。

ヘタに止めようとしたら、逆に事故になりそうな予感がする。


・・・・もう、どうにでもなっちまえ~♪


「I Can Fly!」


レインのテンションは極限まで上がっていたのであった。

そう、テンション上げるしかない……そう悟ったのだ。


装甲車から飛び出した飛行機は手動から自動操縦に切り替わり、眼科に広がる緑色の森林へと降下し始めた。

自動操縦の昨日を知らないレインは速度を抑えるよう操縦管を引いたり、レバー引いたが、当たり前のように効果はほとんどなかった。


プログラムされた順路通りに、飛行機は空を飛び回る。。

レインは諦めて、飛行機のしたいようにさせた。

とりあえず落下しなければいい、と考えたのだ。

なんらかの危機を察知すれば、自分が操縦するまでもなく、飛行機は勝手に逃げるであろうと、甘い考えを持っていた。

まぁ、実際に飛行機にはそのような機能があるとマニュアルに書いてあるから問題はない。


地上に広がる森が近づいてきた。

湿り気を帯びた青臭い風がコックピットにいて匂わないはずが鼻を打った。

気のせいかも知れないが森の香りにレインは爽快な気分になってきていた。

このままずっと飛び続けていたいと思うほどに。


空は、思っていたよりもずっと快適だった。

恐怖よりも快感が勝った。森に侵食された街に近づくと、小型の飛竜や蜻蛉のような昆虫型竜がレインの周囲をチョロチョロと飛び回り始めたが、レインが威嚇するまでもなく、ちょっかいを出してくる竜もいなかった。

見慣れない物が飛んでいるのを見て興味はあるが触る気はないらしい。



これといって危害を与える竜が潜んていたり、いきなり襲いかかったりする竜も今のところいないようで、装甲車にいるドラゴンハンター達なら安全とまではいわないが探索するなら大丈夫だと思われる。

気候も不安定に変わる様子もないし、空気も澄んでおり、食べれそうな果実もいくつか見えたので食料を得ることも問題はないだろう。

パワースポット周辺は資源が多く野営するのにも適した地といえそうだった。


そのままレインは、というか飛行機は朽ち果てた都市の上空を飛んた。

改めて近づくとかなり大きな都市だとわかる。

ところかしこに蔦が建物を包んだり、道路が割れ木が伸び出てたりしている。


上空を飛んで間近に見ると、多種多様な属性の竜がこの朽ち果てた都市を棲処にしていることがわかった。

アスファルトを貫き果実をたわわに実らせた木、その実を食べる草食竜の群れ、その草食竜を襲う機会を狙って蔦に絡まれた建物の裏に隠れている肉食の一角竜、街の大通りトップスピードで走る走竜などが見えた。

この竜達にとって、朽ち果てた都市は生活の一部だった。


レインが飛行機の高度を下げつつ、一つの大きな建物の周りをぐるっと見て回っていると、突然、建物の壁が吹き飛び、中から巨大な影が姿を現した。

白煙のなかに、金属質の鱗が見えた。

煌めく五本の爪が見えた。



それは鋼より硬い爪と牙を持っていた。

それは灰色の鱗を持っていた。

それは翼を広げて、空へと力強く飛び立った。

その龍名はチュヴァシ。

この滅びた都市の支配者であった。



げぇっ、龍だと!?


竜の中でも最強を誇る竜は龍になる。

龍一匹で大国は滅ぶと言われるほど恐れられる存在。

龍の特徴は他の竜にはない鱗の光沢があり、一個体が秘める力は天変地異を起こすといわれる。


龍はレインが乗る飛行機を外敵と見なし、襲いかかってきた。

レインの視界に影がかかる。

龍の巨体が陽光を遮っていたのだ。

飛行機は龍に反応し、緊急自動逃避プログラムを発動。

急上昇し、雲の中に潜り込んで身を眩ませたが、龍はその翼をはためかせ、雲を吹き飛ばす。

飛行機は龍がおこす突風に煽られ、体勢を崩した。

龍は間断なく飛行機に猛威を振るう。

龍の牙の間から、高熱の蒸気となった息吹が漏れる。

龍の口内から奔流が吐き出された。


龍の吐息。

全てを焼きつくし炭へ変えてしまう劫火。

風に扇がれながらも飛行機は加速、旋回し、迫りくる劫火を……絶対的な死を回避する。

しかし、飛行機は龍の吐息による高熱によりシステムにショートという不具合が起こし、装甲車に向かって飛ぶことや回避のために飛ぶことを両立できなくなっていた。

やがて……ストップなしでフル活動で飛ぶ飛行機のエネルギーは激しく消費し、エネルギー枯渇のため動きが鈍くなってしまった。


獲物の弱体化を見逃す龍ではない。

龍の振るった尾が高度が下がった飛行機を捉える。

尾が直撃した飛行機は粉砕した。

粉砕直前に飛行機にあるパイロット救出プログラムが発動。

レインはコックピットから弾き飛ばされたのだ。

粉砕された飛行機による爆風でレインは吹っ飛んだ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」


吹き飛ばされたレインは空に手を伸ばしたが、そこに掴めるものはなにもなかった。

空が遠退いていく。

レインはなすすべもなく樹海に落下した。



龍とは永い時を生き、自然災害を引き起こすほど強力な竜のことを示す。

とある研究者は全ての竜は龍へとなる可能性を秘めていると唱えた。

しかし、龍となる個体に至るまで永く生きられる竜は非常に少ない。

世界に確認されている龍はおよそ七体である。


また、龍には竜にない個体名がつけられている。


個体名についてはまた後に語ろう。

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