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閲覧ありがとうございます!
何かご指摘があればよろしくお願いします。
レインはどうしたもなかと所在なさげに訓練室の前をウロウロしていた。
手元にある魔銃を実戦で使わない手はない。
魔銃をフル活用活用するには、射撃以外のスキルがあった方がいい。
いかにグリモアの火力が強く銃身が頑丈でも接近戦がだめなら、話にもならない。
そう思って格闘術を参考に銃格闘術を訓練しようと思って来たはいいもの、いきなりの自習。
そして、立ち入り禁止と札が貼られているのはどうしてなのだろう。
くそ、立ち入り禁止のためメインデッキの上で野外訓練だと。
と思いながらもレインは周囲の学生達に、自信の実力な低さがバレないように、コソコソと訓練に励んだ。
授業時間が終わってからも、他にすることもないので、レインは訓練を続けた。
彼は一般的な学生やハンターの冒険参加者と違って、車内でする仕事がないので、他の冒険参加者よりも遥かに時間を自由に使うことができる。
「ココニイタンダ。……ユー、ホント頑張ルネ。」
いつの間にか来ていたハーツマンが、生暖かい視線をレインに向けて言った。
レインの体は陽気が立ち上がりそうなほどの熱を帯びていた。
「やれるだけのことは、しておこうかと思いまして。」
そう答えるレインが、ハーツマンには心なしか逞しく見えた。
今なら年相応のハンターに見えなくもない。
「ユーニ才能ガアルカ知ラナイケド、人一倍ノ努力ハ太鼓判ダネ。」
「・・・・・それはどうも。」
レインは元から後衛だったので筋がいいらしく、ゆっくりゆっくりと経験値を溜めて覚えていった。
だが、いくら筋があると言われても、レインは素直に喜べなかった。
すぐ近く、ハーツマンという天才がいると自分が小さく見えるからだった。
「で、なにか用ですか?」
レインは模擬銃をガンベルトにしまい、訊いた。
「ソレガネ、容疑者ニサレチャッタンダヨ。」
「容疑者?」
「トニカク、ツイテキテネ。」
ハーツマンの背中を追っていくと、車内下層にある食料庫に着いた。
そこにはレイン以外にも四人の男が集められていた。
「役者が揃ったようですな。」
後衛のハンター達の前に立った、片眼鏡をかけた巻き髭のハンターは、厳めしい表情をしていた。
「コホン。早速ですが……この中に、犯人がおります。」
超いきなりのクライマックスだ。
「え、ちょっ、ま、待ってください。事情が飲み込めないんですけど……一体全体、何があったんですか?」
レインは動揺をあらわにした。
「ハーツマン貴方、説明してないのですか?」
片眼鏡で巻き髭の男性教官が、ハーツマンをジト目で睨みつける。
「ダッテ、ナマズンが連レテ来イトシカ言ワナカッタジャナイカ。」
ハーツマンは視線を受け流しつつ答えた。
片眼鏡、ナマズンはレインの方に向き直って、言った。
「若きハンターよ。簡単に説明すると、装甲車内の食料庫が何者かに荒らされたのだよ。」
「そ、そうですか。」
で?それが?
「・・・その反応、怪しいですな。」
「はあぁ?」
「もっとショックを受けないとおかしいですな。」
「そんなこと言われても……」
レインは頭痛を感じた。
この巻き髭、後衛を犯人にしたいんじゃないか?過去になにがあって、後衛に恨みを抱かれてもなぁ~
「・・・・わかりました。犯人は、貴方だ!」
「えええええっ!?」
ビシッ、と格好よく俺に指差されてるぞ。俺、このオッサンに恨まれることしたか?
「俺が犯人だと言われても……証拠もなにもありませんよね?」
「証拠ならあるのである。」
「あるんですか?」
・・・ハッ、まずい。これはもしかしてハメられたか?
「貴方が後衛だからですな。他に理由など必要ないのである。」
「・・・・・・。」
うわぁ……なにこのオッサン、思考を放棄してない?
「考えてみるのである。食料が補給を長期間受けられない我々にとって、どれほど重要なのか理解していないのは、気楽な後衛しかいないですな。」
「・・・・・・・。」
そうか、これが理不尽な差別ということなのか……
「犯人は、その場の欲望からくる衝動に身を委ね、食料庫に侵入したのである。こんな自分勝手な真似ができる人間は、貴方達しか考えられないですな。犯人は肉を中心に食べることからも、頭の程度が窺えるのですな。」
好物が肉だからって、知力は関係ないだろ。
とレインは心の中で呟いた。
まぁ、欲望に忠実な犯人なのだろう。
集められているレイン以外の連中は、ナマズンの声に聞く耳を持たずといった態度だ。
もしくは、反論の無意味を悟ったか、反論する気力が残っていないのか、生け贄となりつつあるレインのことなど、どうでもいいのか。
「食料庫に、鍵がかかっていたんですよね?」
「うむ、そうである。」
レインの問いに、ナマズンは頷いた。
「では、鍵を持った人物を疑う方が妥当で」
「トラップ解除は鍵開けも含まれているのである。貴方達が得意とすることでは?」
「・・・・・・。」
くっ、なにも言い返せない自分がいる。
「か、鍵の紛失とかは、なかったのですか?」
「未調査であるがな。」
ナマズンは傲慢な態度かつ、なめらかに言った。
「そうですか。」
レインがうんざりした顔をしていると、警備をしていた前衛学科の女子がこちらに向かって駆けてきて、言った。
「教官!所属不明の人間が見つかったそうです!」
「な、な、なんだとぉぉぉぉっ!?」
ナマズンは、周りから見たら演技か?とでも思われてもしまうくらい、激しく驚愕してみせた。
・・・あぁ、なるほど……これくらい驚けば怪しまれなくていいのか……。
「密航者だと思われます。」
「わかったのである。警備レベルを上げるのである。車内清掃の任に就いている前衛と中衛学科の生徒を、一時的に車内警備に変更ですな。密航者の確保を最優先するのである。」
ナマズンは後衛のハンター達にお詫びの一言も言わず、巻き髭をいじりながら女子学生と共に立ち去った。
「食料庫荒シノ犯人モ、密航者デホボ間違イナイダロウネ。」
「ですね。」
レインが相槌を打つと、ハーツマンはナマズン等が消えていった方へと歩き出した。
「どこへ行く気ですか?」
「密航者ノ顔デモ拝見シニ行クンダヨ。」
女が恋しそうな優男の笑いで、ハーツマンは答えた。
「ソレニ、罪ヲ着セラレカケタオ礼モシタイカラ。」
ハーツマンはフフッと笑った。
「最近、出撃命令ガ出ナイカラ腕ガ鈍ッテナイカ確カメルニハ、チョウドイイ機会ダヨ。・・・ユーモ来ルカイ?」
「遠慮しときます。」
これ以上、レインは余計なリスクを背負いたくなかった。
「・・・ツマンナイ奴ダネ。マァ、イイヤ……ジャァネ」
※※〇※
「・・・・・クソッ。」
密航者………バンダナを被った謎の青年は、自信の現状に苛立ちの声をあげた。
彼は今日まで、今のところ利用されていない部屋……格納室にいた。
近づいてくる者の気配はなく、彼はただひたすら、装甲車が止まるまで時を待てばよかった。
しかし、彼には大きな誤算があった。
大陸に入ったら直ぐに竜と鉢合わせ、装甲車が止まるだろうと思っていた。
食料困難で有名な貧乏支部で幼少期を過ごし、十代になる前からフリーのドラゴンハンターとして生きてきた彼は、一週間の絶食には慣れていたので、食料を持ち込まなくても凌ぎきれると思っていたのだ……が、装甲車は一週間で竜とは鉢合わせることはなかった。
空腹が彼の体を蝕み、筋力や体力、精神力などの維持が難しくなってきて彼は仕方なく、車内にある食料を拝借することにした。
彼は、最初は養殖室、菜園室などに深夜忍び込み、食料を得ていた。
しかし、うまくいくことにつれて、欲が出てきた。
もっと美味いものが食べたい。
それで彼は食料庫から加工された肉や乳製品を盗むに至った。
食料庫には鍵がかかっていたが、ハンターとして鍛えた技術が使える彼になら、十分に開けられる鍵だった。
彼の行動は大胆になっていき、ついには昼間だろうと、空腹を感じたら食料庫に行くようになっていた。
それで今日、彼は食料庫に行こうとしていたところを何人かの学生やハンターに見つかってしまったのだった。
足りていたはずの注意は、時間と共に失われていた。
走行中の車内は閉鎖された空間であるため、彼には逃げ場がなく……もう、どうしようもなかった。
だが、それで両手を上げて、はい降参しますと言う彼ではなかった。
彼はどうにもならないとわかっていながら、逃げ出した。
最後まで抵抗することを選んだのだった。
逃走中、彼は養殖室【魚】に駆け込んだ。
床全体がバイオプールになっている養殖室【魚】では、魚を生きたまま保存・養殖している。
人が歩けるのは、水上に鉄網が張ってある場所だけだ。
「・・・いた。逃がさない!」
警備を任された前衛学科の一人……カインが彼を追ってきていた。
「待てと言われて待つ馬鹿がかがいるかよい……」
彼はカインを振り切るため力を使い、魚の泳ぐ水の上を走り出した。
百メートルを三秒で走れる脚があれば水上を走ることができる。
彼は力を使うことによって水を固めることができ、その上を走ったに過ぎない。
しかし、たかが人間がそんなことができるはすがない。
できるはずはないのだが…………
「……!?」
彼は度肝を抜かれた。
カインが当たり前のように水上を走って追ってきたからだ。
コイツ、化け物かっ!?
彼はカインに背中を捕まれた。
形振り構っていられず、彼は上着を脱ぎ捨てることで、カインの手から逃れた。
上着が脱げると同時にバンダナがほどけて取れ、頭上にうっすらと光る輪が現れた。
だが、カインは光る輪なんて気にせず攻撃の手を緩めなかった。
脱げない部分を掴めばいいと考えたカインは、今度は彼の露出している腕に手を伸ばした。
「・・・・捕まえた。」
細マッチョの手とは思えない、腕をガッチリと掴むゴリラ以上の握力だった。
彼は振り切れないことを理解した。
チッ、なら……………
彼は振り返り、捕まれていない方の手で印を結ぶと彼の体が輝きだした。
「!」
捕まえた相手がいきなり輝くのに虚を突かれたカインは視覚を失うことを本能的に恐れ、反射的に手を放し顔にかざしたところを、攻撃された。
「鹿連弾!」
振り返りざまに放たれたのは、我流格闘術とは思えないほど完成された技によって実現される、拳による高速連続打撃。
カインは刹那のうちに、胸部の一点に三発の拳をもらって吹っ飛ばされ、水没した。
あぶねぇ~、七発も止められるとは……とんでもねぇやつがいるな…
これ以上このフロアに留まっていてもいけないと直感的に思い、彼は階段の方へと向かった。
階段はあらかた封鎖されていた。
彼の前に立ちはだかる者が一人、五明丸が悠々と構えていた。
「ッ!?」
彼は五明丸の戦闘力が自分より上であることを肌で理解した。
「止まりな。」
と言うなり、五明丸は彼に向かって殺気を放った。
五明丸の殺気は、精神攻撃と言っても過言ではない。
今までに倒した竜の中には、その恐ろしさのあまりに気を失い死を迎えた竜もいたという。
禍々しい、妖気じみた五明丸の殺気を浴びて、彼は恐怖し、鳥肌が立ち気が遠くなった。
だが、それで足を止める彼ではなかった。
「お、立ち止まらずに来るか…」
五明丸は鞘に納刀したまま、愛刀〝ポチ丸〟の柄を掴み、間合いを発動した。
「来いよ密航者。」
しかし、彼は間合いに入ることはなかった。
「ふん、つまらん……立ち向かわないのか。」
彼は体を捻りながら高く跳び上がり、自分よりも巨大な五明丸の頭上を鮮やかに越えた。
冷静に相手の力を推し量り、勝てない相手とは戦わない。
一人でハンターとして討伐する者が生きるための鉄則だ。
「・・・・・・ん?」
階段を駆け上がり七階の運動場に出た彼は、すぐに立ち止まった。
そこらじゅうにワイヤーが仕掛けられていたからだ。
運動場の照明は落とされていたが、強化された彼の眼には、それは見えた。
な、なんだこりゃ……進みようがねぇぞ。
彼の進路はワイヤーによって完全に閉ざされていた。
「ドウモー。」
ハーツマンが足音もなく、彼の目の前に現れた。
「今日マデ見ツカラナカッタコトト、ココマデ来タコト、ユーノ頑張リハ認メテアゲルヨ。」
ハーツマンは、彼の努力を讃えて拍手した。
「デモネ、コレカラドウスルツモリ?車長ヲ人質ニシテ装甲車ジャックデモスル気ダッタノカナ?」
お、おお……その手もありだなと、ハーツマンの質問を聞いてそう思ったのであった。
「ユーニハ無理、無理ダヨ。モウ自分ガ詰ンデルコトニ気ヅイテルンデショ?早ク投降シタライイヨ。」
ハーツマンは、十代には見えない大人の、妖艶な笑みを浮かべて、言った。
「コレ以上、人々ガ傷ツケアウノハ、見タクナイヨネ?」
彼は後ろからユックリと歩いてくる五明丸の殺気を肌で感じていた。
前進するか、後退するか。
どちらを選んでも、どうにもなりそうにないよなぁ。
遅かれ早かれ、こうなることは、見つかった時からわかりきっていた。
彼は前進を選んだ。
後ろから来る殺気よりは前のワイヤーなんて怖くないからだ。
彼は懐からナイフを取り出した。
それでワイヤーを切るため、ナイフを縦に振り下ろした。
ワイヤーが切れて、道ができた……と思ったら、無数の発砲音、彼の体全身に銃弾が直撃した。
彼の視野がフェイドアウトした。
なん……だと?
彼は激痛により意識を失った。
「ア~ア、トラップニ自分カラ引ッカカッテルヨ(笑)」
ハーツマンはニコニコしながら言った。
「マァ、ゴム弾ダカラ死ナナイシ問題ナイヨネ。」
笑いをやめてハーツマンは念のため手に隠し持っていた銃をガンベルトに納めた。
「危ねーな。」
謎の青年を追って運動場に歩いてきた五明丸が別のトラップに引っかかりそうになっていたが、刀で斬り裂いて強引に解除していた。
「うわぁあぁっ!」
「きゃあぁぁぁ!?」
「なんだこりゃぁぁぁぁっ!?」
次々と下から来た学生がトラップに引っかかっていく。
「・・・・・最近ノ若イ子ハ、罠ヲ知ラナイノカナ?・・・ア、ミーモ若イカ。」
ハーツマンはトラップに面白いように引っかかる学生達に、一抹の不安を覚えた。
※※〇※
今後、密航者……謎の青年の扱いをどうするか、会議室にハンターや教官達が集まり、話し合いが行われた。
「ドウスルノ……」
「即刻、彼を降ろすべきですな。何をしでかすかわからん野蛮な者を乗せておくわけにはいかないのである。」
「では、砂漠地帯に降ろすと?」
「気に入らない者は死刑か。それじゃあ、俺達の方が野蛮だな。」
「トリアエズ反省室ニ入レレバ?ソノ方ガ、利用方法モ見ツカルカモヨ。」
「ふん。好きにするがいいである。」
「捨て駒が一人増えたと思えばいいようだな。」
「まぁ、反省室で軟禁しておくことでいいよな?」
「「「異議なし」」」




