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右を見ても左を見てもハンターがいる街を、レイン達五人は大きなトランクを抱えて歩いていた。
「出発式がないと、正直味気ないな。」
「アタシはね座祖姉さん。支部長とかのスピーチを聞くとか色々難しいのがあると寝ちゃうから、丁度いいと思うよ。」
「サナは怠け者だからな。」
などと駄弁りながらあること数十分。
巨大装甲車が見えてきた。
ガードフェンスの外側で、探索参加者の家族や友人が参加者達を待ち構えていた。
珍しいもの見たさで集まった野次馬の姿もある。
「胴着を着た坊さんの集団がいるな。」
レインがフェンスのすぐそばに出現したゴッツイ体格をした武道集団をポカンと見ていると、坊さんの中から、一番ゴッツイ体型をしたオッサンが、ズシズシと近づいてきた。
胴着に書いてある名前が牛魔が、とても印象的だった。
「サナ、見送りに来たぞ。」
牛魔のオッサンはサナの父親だった。
彼は武道集団「西遊」の長でもある。
「ちょっと言ってくるね。」
とサナが言った。
レイン達は頷いた。
「パパ、来るとは思ってなかったよ!」
「ガハハハッ、娘の旅路に出るのは親として当たり前だ!」
サナとサナの父親 牛魔の関係は良好のようだ。
それにしても、さすがサナの家族と仲間達だな。よく目立つ。
顔や体型はともかく、性格面やハンターとしての形成に、父親の遺伝子と育った環境は大いに影響してるのではないかと思う。
・・・父さんは、間に合うだろうか……
昨日、部屋にあったパソコンに送られてきたメールによれば、ギリギリ間に合いそうだとのことだったが……
「レイン、カイン。」
二人は温厚そうな顎髭が立派な男性に声をかけられた。
「・・・父さん!」
カインは微笑みながら、その男性……父親の元に歩み寄った。
「私達は先に行ってます。」
「父親と仲良くな。」
藺の家族(支部長のケチだけ)とは自宅で別れの挨拶を済ませてきたそうだ。
娥梨子は家族がいないと言っていたから別れはないらしい。
レインはカインに少し遅れて、父親の方へと歩いていった。
「レイン。探索に参加することになって良かったな。」
「あ、うん……」
正直、良かったのかわからない。
「それにしても、すごい装甲車だ。これだけ大きいのを作り上げた技術者の腕の良さが解る。」
「確かに、すごいね。」
こうして当たり障りのない家族の会話が、これなから当分なくなると思うと、寂しく感じる。
あまり話を長引かせると、旅立つ意欲を失せてしまいそうで、レインは話を切り上げることにした。
「じゃあ、父さん。俺達はそろそろ行くよ。」
レインは普段と変わらない声色で言った。
「レイン、カインを頼んだぞ。」
父親は、どこか抜けているカインを案じて言った。
「はいはい」
頼まれてもカインなら大丈夫な気がするけどね。
「カイン……お前は天性の肉体能力を持っているけど、くれぐれもレインを殺さ……レインに迷惑をかけるないように。」
「・・・・・わかってる。」
カインは父親の言葉を素直に受け止めた。
「それでは、気をつけて行ってらっしゃい。」
レインは頭を下げカインは手を振り、フェンスの間を通り抜け、装甲車へと向かった。
金網越しも、暖かい眼差しの父親の姿を見ることができた。
サナはまだ武道集団に囲まれながら家族と話をしていた。
レインとカインはサナを急かしたくなかったので、娥梨子や蘭と同様、先に行くことにした。
検閲所はフェンスの内側にあった。
質素な白いテントが張ってあり、中では荷物検査とボディチエックが行われているらしかった。
「・・・・ボディチエックだと?」
その単語を聞くと、嫌な予感しかしない。
「・・・いやらしいな。」
それを言うなよカイン。
真面目なボディチエックと〝いやらしい〟は等号で結ばれてはならない関係にあるが、ボディチエックという名目で、過剰な身体的接触などを図ってくる検査官がいるのではないかと考えてしまう。
テント内で取り調べを受けるのは、原則一人ずつのようだった。
プライバシー保護のため、他人が取り調べられている様子を外から見ることはできない。
「あ、いたいた。」
レイン達が列に並んでいると、サナが追いついてきた。
サナは調子よく、レインとカインの間に割り込んだ。
カインの後ろには数人しか並んでおらず、文句を言いたそうな人もとくにいなかったので、問題ないと思い、レインは何も言わなかった。
しばらくして、サナの検査が終わり、レインの番が来た。
テントの中に入ったレインは、三十代前半かと思われる女性検察官に指示されるがまま、机の上に荷物を広げた。
検察官は二重底や隠しポケットが縫いつけられてないかを見逃さないよう、念入りにトランクの中身をチェックしようとしたが、レインがガンベルトから取り出したグリモアを見て動きが止まった。
裏をかいての正面衝突。
それは策とは呼べないが開き直りとほぼ同義である。
レインは挙動不審にならないよう、ポーカーフェイスを心がけた。
「グリモア……のレプリカ、ですか?」
「はい、そうですけど。」
レインは検察官の眼を見て頷いた。
やばいよやばいよやばいよ!バレたらどうしよー!!
ポーカーフェイスをしているがグリモアという単語が出た瞬間から、レインのハートは周りに聞こえてないか不安になるほどドキドキしていた。
「レプリカにしては、ずいぶん年期が入っているように見えますが……」
検察官は銃身やグリップの汚れを見て言う。
「いやぁ、父が銃マニアでよく試し撃ちとかしていて…そのコレクションの一つをもらったもんですよ。」
我ながら苦しい言い訳だった。
「わかりました。」
「・・・なんですか、そのナイフは?」
レインは検察官が手に持ったものを指摘した。
「この先で銃身を引っ掻いてみて、傷がつけばレプリカ、傷がつかなければ本物です。」
「へ……?」
なんて原始的な方法だ……
だが、信頼に足る鑑定かもしれないのも事実である。
「やめてもらいますか。傷つけないでください!」
「ほんのちょこっとだから、目立つ傷はつけないから!」
「父に怒られます!怒られたくないです!」
熱くなってきて、演技で言っているのか本気で言っているのか、自分でもよくわからなかった。
「仕事なんだよォ!!」
「!?」
と検察官が怒鳴る時、検察官の目が爬虫類みたいな目になったのをレインは見てしまった。
驚いて動きを止めたレインを気にせず、検察官(?)はグリモアに手を伸ばし、グリップを握った。
「・・・ぐ、あアああ、ア?あ!」
「・・・・・え?」
検察官(?)の様子がおかしい。
・・・というか、なんかヤバいって!様子がヤバいって!
「アアアアアッ!」
ビックンビックン、と検察官(?)は痙攣した。
そしてなぜかその体は先程より体が大きく見える。
ヤバすぎる。
「ヌァゼェェェェ……ドゥアァァァァァ……」
「・・・・・・・。」
ヤベェ、チビりそう。
レインは目の前のソレに恐怖を感じていた。
人と竜が合成されたような姿。
目の前の検察官(?)は、人から竜に変わりつつある。
え、なに?グリモアの拒絶って人を竜に変えるの?
「ナゼェぇェ…変身ガ、解けはジめたァァァ!」
あ、違うんだ。
変身が解けた原因は一つしかない。
グリモアだ。
グリモアのせいだ……いや、おかげだ。
「ウガァァァァァァッ!」
『少年、逃げろ!!』
ゼロという幻聴の声でレインは我に返った。
唖然としている場合はなかった。
レインは背を向けて逃げ出そうとしたが、興奮状態の人に化けた竜の瞬発力には敵わなかった。
レインは後ろからガシィッと竜に抱きつかれ、うつ伏せに転倒させられた。
「オ前が原因カァァ……何者ダナァァ……」
ペロペロ…ペチャペチャ……
「いやぁぁぁぁっ!!」
竜に戻りかけている人の顔で妙に長い舌で顔を嘗められて、悲鳴をあげ、鳥肌がたった。
「カワイイ悲鳴ダなァァ美味しソぅダナァァ!」
竜は舐めるのをやめて、口を大きく開く。
真珠色の牙を見ながらレインは思った。
・・・やばい、これは死ぬかも。
「おぉぉぉおおっ!!」
「なっ!?キミ待ちなさいっ!!」
兄の危機を察したのか、警備のハンターを振り切りテントに突入したカインが、掌低波……すなまち渾身の掌で竜を吹っ飛ばした。
テントを支えている柱の一つに竜が直撃。
その衝撃でテント全体が震え、柱が折れた。
ドシャッ、と幕が落下し、テントが潰れる。
「オラァッ!」
カインはのしかかった天幕を押し退けて脱出した。
それから、天幕の中に手を差し入れて、近くに埋もれているレインを発掘。
「兄ぃ、無事?腕とか千切れてたり喰われたりしてない!?」
サラッと恐いこと言うなよ。
「何が起こったの?」
サナが近づいてきて尋ねた。
「ああ、酷いめにあったけど……大丈夫だ。」
「な~んだ。」
「・・・・・・・。」
え、なにその態度?ひどくない!
「貴様、なんてことを!」
カインは検査官に暴力を振るったとして、警備のハンターに注意されていた。
「・・・あれをよく見ろ。」
カインが指差す方向にはグッタリとのびていたのが検査官ではなく制服を着た竜の姿を見て驚く。
「・・・竜が人に化けてたから退治しただけです。」
「すいませんが、もう一度、検査を受けてください。」
優しそうなハンターに言われ、レインはハンター達による迅速なテントの再建後、ちゃんとした検査官に荷物をチェックしてもらうことになった。
「・・・兄ぃ、先に行ってる。」
カインはレインが待たされている間に、別のテントで検査を終えていた。
さっきは、竜が出てきたからばれなかったが……
グリモアに触れて感電したら、さすがに隠し通せないだろう。
だが、自分から魔銃の持ち主であることを宣言するつもりはなかった。
自分にはどうにもできないのなら、なるようになればいい。
・・・アレ?
机の上に広げられたレインの荷物、その中に、グリモアがなかった。
テントの崩落のどさくさに紛れて、グリモアが消失していたのだ。
捨てられなくて困っていたものが、呆気なく消えてしまったことに、レインは違和感を感じた。
細かい検査(細かいといってもボディーチェックはなかった)の結果によりレインはテントから出ることになった。
テントから外に出ると、カインとサナが待っていてくれた。
「これ落としてたよ。」
サナがガンベルトに納ったグリモアをレインに見せた。
うえ、えぇぇ!なんでサナが持ってんだ!?
「キミの武器なんだから、堂々と装備しなよ。」
サナはレインの背中に回り、ガンベルトを装着させた。
「オッケー、これで落とすとかの心配はないね。」
「・・・おいサナ、どこか変なことはないか?」
「べつにないけど……急にどうしたの?」
サナはレインに心配される理由がわからなかった。
・・・当たり前だと判断するかもしれないが、直接触らなければいいってことかな?
「・・・兄ぃ、置いてくよ?」
「あ、待てよ。」
装甲車は目と鼻の先にある。




