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ハーツマンが使ったあと魔銃グリモアは誰も触れなかった。
なぜ触れないのか、触ってはいけない規則などないに街の住民は触ろうとしなかった。
そんなグリモアのために作られたグリモワール記念広場は、今では知る人ぞ知る観光スポットとなっていた。
「着きましたよ。」
そこは空から見ると正方形に見える、緑豊かな広場だった。
古びた建物が密集している街並みの中に、ポッカリと空いた穴みたいなばしょだった。
広さは500㎡くらいだろうか。
ただっ広くて、ベンチもない広場だ。
まれに散歩で通りがかっている人の姿を確認できるが、立ち止まっている人の姿はなかった。
「こういう場所は、絵描きやホームレスなどが寄り集まって来そうだと思うんだが……」
レインはざっと広場の敷地内を見回したが、それらは全く見当たらなかった。
巷では知る人ぞ知る観光スポットと評されていりようだが、これでは……ありがちな寂れた場所にしか見えない。
「おかしいですね。いつもは、もっと賑わっているはずなんですけど……」
広場の中央には、台があった。
その台の上に、あまりにも何気なく、レインの持っている銃と同じデザインの銃が置かれていた。
「ただの地味な拳銃にしか見えない。」
「確かに……」
レインはサナの言葉に頷いた。
石の台に質素なデザインの銃をただ置いてそのままにしたように見える。
これが触れない、使えないとは、なにかの冗談としか思えない。
「アタシが触ってみていいかな?普通に触れる気がするんだけど。」
サナはここ極東支部のドラゴンハンターとして幼い時から各地のハンター支部に訪れたりしたが、地元にあるグリモアを目にするのは今日が初めてだった。
「グリモアが触れて使えたら、柳田 サナは人類のため竜殲滅の旅にでます。」
藺がナレーションっぽい語りを挟んだ。
「ウゲッ」
サナは冗談めかして言った。
「なかなか大変そうだね……」
「ドラゴンハンターズギルド協会は戦力になるハンターを全面的にバックアップすると義父が言ってますから、安心して触ってください。」
暗に藺が「触れるわけありません。」と言っているようにも聞き取れた。
「なんか安心できないな……やるだけやってみる!」
サナがグリモアに触れようと手を近づける。
「竜を殲滅って、なかなか大変だよな。さすがに一人っでていうのは辛いんじゃ?」
レインは藺に尋ねた。
「そうだと思います……ですから、触れない方がいいかもしれませんね。」
世界を竜から救い出すには、一人の英雄の犠牲さえいとわないかもしれない。
「それ……あれ?ギァアアアアア!」
何かに邪魔されて手が進まないので、無理矢理力を込めて銃を掴んだら、感電したみたいにサナの髪型パンチパーマになり、サナ本人はビリビリしながら仰向けに倒れていた。
「あ………、ダメだった……アダジにば無理でじだ。……ガク」
サナは空に手を伸ばし、気を失った。
「レイン君も、思い出作りに一つ、試したらどうです?」
「そうだな………えっ?」
藺にてを引っ張られるという誘導によって、レインの指先はグリモアに近づく。
「ちょっ、待って!」
そして、グリモアの銃身に指が当たった。
「・・・・・なっ?」
最初は、指先に何か抵抗する感覚があったが数秒も経たないうちに感覚が消え触れることができた。
・・・やばい。
レインの背中に冷や汗をかいた。
・・・・・ビリビリがこない………触れる。
「・・・・・っ!」
レインは慌ててグリモアから指先を離した。
「レイン、どうしたの?アタシみたいに痺れた?何かアタシより痺れてないよね?」
レインの反応を見て、気を取り戻したサナはなぜか悔しそうな顔をしていた。
「あ……ああ。サナより早く手を引っ込めたからだな。」
レインは触れた瞬間、知覚していた。
触れる。
俺には、この魔銃を触ることが……持ち出すことができる。
※※〇※
闇が空を被い月が昇り、夜になった。
ホテルは、ドラゴンハンターの貸し切りになっていたここ六日間で、もっとも静かな夜を迎えていた。
明日は出発の日とあって、眠れるかどうかはともかくとして、部屋で横になっている者が多かった。
そんな中、レインは、こっそりとホテルから抜け出ようとしていた。
目的地は、グリモアのあったあの広場だ。
レインを突き動かすものは、探求心とたんなる好奇心だった。
俺は本当にグリモアを触れるのかどうか、試してみたい。
そして使えるなら、使ってみたい……
あの〝触れる〟という感覚が思い込みではなかったことを確認したい。
「コラァァァァッ!」
「ヒヤァァッ!」
大声で後ろから怒鳴られ、レインは廊下で身をすくませ、変な奇声を出してしまった。
「HAッHAッHAッHA、ビビリ過ギタネ。ソレデモユーハ玉ツイテルノカナ?」
この片言言葉はと振り返れば、後衛学科【00】の同年代担任教官だった。
「コンナ時間ニ、ドコ行クツモリカナ?」
「どこって……」
レインは返す言葉に詰まった。
「女ノ子ノ所カナ?彼女カナ?マサカ、女湯?」
「・・・・・・・。」
お前とは違うのだよ、お前とは!と言い返したかったが、心の中で怒鳴ることで我慢した。
「マァ、ドレデモイインダケド……」
よくないよねっ!どれもダメだろ!!
「チナミニ先生ハ、彼女ノ家カラ帰ッテキタトコロダヨ。」
そのセリフは心の中にしまっておいてほしかった。
「女性ニハ気ヲツケタ方ガイイヨ。先生ナンテ、彼女以外ノ女性ニ話ヲカケタラ彼女ニ肋ヲ三本折ラレタヨ。」
「えええっ!?」
別に知らなくてもいい衝撃的な助言。
さて、この場からどう脱出しようか……
「ネェ、コレカラ遊ビニ」
「遠慮しときます。」
「即答ダネッ!」
なんとかハーツマンから離れることができたレインは外に出れたのであった。
あ、グリモアについて聞こうと思ってたけど……まぁ、いいか。
グリモワール記念広場は極端な静けさ、生命力を感じない静寂さに包まれていた。
紅い、まるで血を浴びたとでも思うほど、禍々しさを醸し出す紅い月が夜空に浮かんでいた。
半月だ。
グリモアは紅い月を背負って、妖艶な光を銃身から放っていた。
広場には誰もいない。
街中には、何を目的にしていりか理解不能な散歩中のコート姿のオジサンや、危なげな足取りで歩く老人、たむろってるヤンキーなどの姿が見られたが、ここは誰もいない。
グリモアがレインとの一対一の対面を望んでいるかのようだった。
レインは、昼間は慌てて引っ込めてしまった手を伸ばし銃に触れ、ゆっくりと掴み持ち上げた。
使えるなら、確かめてやろう。
レインはグリモアの引き金をカチリと引いた。
すると、レイン以外の全ての時間が停止した。
『何者だ?』
『誰かな?』
『なになに?』
『誰か引き金を引いたようだな。』
『触れる人が来たのか?』
様々な人の声が、レインの脳内に響き渡った。
な、なんだこの複数の声は?幻聴みたいだが、ゼロじゃない。もっと多い、五人いる?
『なぜ、力を欲する?』
『お、若い少年だな。』
『キャー、可愛い!!』
『本当に幼く見えるな。』
『この子が触ったのかな?』
老若男女が混ざる五人の声は、レインに問うものもいれば自分勝手に話し出す声もあった。
・・・どーしよう……なにこれ、一体なんなんだよ?
『・・・まぁ、いいか。そろそろ休暇に飽きてたところだし。』
『あれ、この少年……16歳みたいだな。』
『なに童顔!いいわね!!』
『前も、幼子が引いたかな?』
『あ、そろそろ時間が…………』
プツンと音と供に騒がしい五人の声が途絶えた。
いやいや……、説明しろよな。・・・なんか、イヤな予感がする。
レインの時間感覚が正常化した。
「・・・・・・あ?」
と同時に、バキュンッ!と銃声がして、台に銃痕による穴が空いていた。
た、弾が入ってたのかよ……てっきり空だと思ってたのに…
そんなことより、使えてしまった。
ハーツマン以降、誰も触れることさえできなかったはずの魔銃が、使えてしまったのだ。
こ、これから……俺はどうなるのか?
「・・・なかったことにするか。」
勢いでここまで来て魔銃触れ使えた瞬間、急に恐ろしくなってきた?
グリモアに選ばれた者は、時代に大きな波を呼ぶであろう……
レインは今の時代に波を呼ぶなど、毛頭なかった。
そういう面倒な人生は、自分には向いていないと思っている。
むむ、実はきっと、皆にも、この銃は触れるんだ。痺れるのは……静電気だろう。
少し無理がある言い訳である。
触れるが、触ると、俺みたいに「やっぱり触らなきゃよかった」と思うことがわかってるから、わかりきってるはずだから、触らないんだな。
レインが銃を元の位置に戻そうとすると、台にヒビが入った。
というか、原型をとどめていないほど形が崩れた。
も、もう古い台なんだな。
というか、やばい。
ここまでボロいなら銃が置けない。
「・・・も、戻せないだと!?」
最悪だ。
「さ、さ、さ、さて……どう、どうするんだ!?」
キランッ!と供にある考えがレインの頭を横切った。
「・・・捨てるか。」
手に取ったグリモアを地面に放置して、逃げる。
やるしかない。
それを捨てるとは、とんでもない!という警報が脳内で鳴り響いているが、レインは無視することにした。
「ごめん!」
レインは地面に置いたグリモアに頭を下げた。
こうしておけば、誰かしら拾ってくれるはずだ。
いい人に拾われろよ……
レインは心の中で呟き、広場から出ようとした。
「・・・・・ん?おかしいな?」
レインは歩いた。
スタスタと歩いて歩いて、最後は走った。
だが、広場から出ることができない。
で口が一向に近づいてこない。
レインは恐ろしくなりとにかく走った……息が苦しくなるまで走り続けた。
しかし出れない。
解放されている広場に閉じ込められている。
運命から逃れることができない?と同じように魔銃を捨てることができないのか!?
「まさか……」
四方八方を蜃気楼によって囲まれているみたいな視界状況が、レインを焦燥を感じさせる。
幻術の一瞬なのか?
一時間は外へ出ようと走り回ったが、広場の中央にあるグリモアの元へ戻るのには、五秒とかからなかった。
「も、持ち帰るしかないのか……」
広場の敷地内だけで起こる現象なのかもしれないと考え、レインは広場の外へ出て、もう一度グリモアを捨ててみた。
「やはり、ダメなのか……」
それからも、投げ捨てたり、埋めてみたり、あらゆる考えを巡らし実行してグリモアから距離を取ろうとしていろいろと確めたが、何をやってもうまくいかなかった。
広場の中央、グリモアが置かれていた台までグリモアを持って戻ってきたレインは、グリモアがなくなってしまったことを、いかにして誤魔化すか考え始めた。
「・・・あ、あれだ!いいものを持ってたじゃないか!」
レインは休日の昼間に買ったグリモアのレプリカを装備していた。
レプリカを本物の代わりに、ヒビが入った台の下に置いた。
「これでいい……のか?」
※※〇※
「グリモアが偽物とすり替えられた?」
「はい、その通りです支部長。」
女性としては背が高い方である女教官は、困惑の表情を浮かべて言っていた。
「自分がすり替えたと主張する者があとを絶たず、混乱が広がりつつあります。」
女教官のナイスバディーな胸には[花子]と書かれた名札が揺れている。
「・・・そうか、ついにお前の彼氏であるハーツマン以外に資格ある者が現れたか。」
世界最強の男ケチは、輝く瞳を窓の外に向ける。
「あの……私達が確認しに行った時には既にグリモアの姿はなく、ヒビが入った台座の下にレプリカが残されていました。」
「ふむ。」
「どうします?」
「そうだな……直接、現場を見に行くとしよう。」
ケチは花子を引き連れて、グリモワール記念広場へと赴いた。
「・・・ほぉ、確かに市販されているレプリカだな。」
ケチは偽物のグリモアを触り、ヒビが入った台座に触れ、その周辺部を見回した。
「・・・なるほどなるほど、奴らは気に入ったみたいだな。」
「?」
後ろに控えていた花子が首を傾げる。
「見てみろ。導師アルベルトに用意させた聖域を作り出す魔方陣の魔力源をグリモアの弾丸で見事に撃ち抜いている。」
ケチの瞳には、普通のドラゴンハンターでは見えないものを映していた。
「魔力源を失った魔方陣が機能しなくなれば……」
ケチはヒビが入った台座に顔を近づけ、軽く息を吹きかけると、台座は音もなく完全に崩れていった。
「このように簡単に崩れてしまう。」
「・・・では、グリモアを持ち出した者はそれなりに腕があると言うことですね。」
「そうかも知れないな。」
「では、グリモアを持ち出した者を探し出しますか?」
「いや、いい。支部へ帰るぞ。」
いつもは無表情なケチの口元は微笑んでいた。
『楽しくなりそうた。』
そろそろ人物紹介のまとめとか作らないとなぁ。




