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ミーシャの冒険

ミーシャの冒険

猫のミーシャは青い屋根のお家に住んでいます。

優しい人間の茉莉花と一緒に、森の中で暮らしています。


茉莉花は、月曜日から金曜日まで、街の図書館で働いています。

ミーシャは茉莉花がいない間、茉莉花のパソコンで小説を書いて投稿しています。もちろん、茉莉花には内緒です。

ジャスミンというのが、ミーシャのニックネームです。大好きな茉莉花の名前をもじってつけました。

仔猫のミーシャが仲間を連れて冒険に行く連載小説を、自分のブログにアップしています。

最近では読者も増え、コメントも書かれるようになりました。ミーシャは、自分の物語に共感してもらえるのを嬉しく思っていました。


ある日、ブログのメールボックスに、ある受信がありました。

[街なか出版の青森と言うものです。ジャスミンさんの作品に興味を持ちました。ぜひ、うちの出版社から書籍化させて頂きたく、一度お会いしたいと思っています。

03-××××-××××

★☆市△▲町4丁目

街なか出版 青森秋斗]

ミーシャは困りました。本が出れば、読んでくれる人は増えるかもしれないけど、家猫であるミーシャは、動物病院以外に外出することがありません。出版社の人にお会いすることはできないのです。

それに、ミーシャは茉莉花の前では普通の猫でいたかったのです。小さい頃から可愛がってくれて、猫の自分にも絵本を読んでくれた茉莉花には、自分が文字を読み書きできる猫だとは知られたくありませんでした。

ミーシャは青森さんにお返事を書きました。

[ミーシャの冒険を書いているジャスミンという者です。青森様、私はとある理由から家から出られません。出版には興味がありますが、失いたくない大切なものがたくさんあります。申し訳ありませんが、このお話はお断りさせていただきます。

ジャスミン]

ミーシャは、少し残念に思いながらも、もうすぐ帰ってくる茉莉花を待つため、パソコンの電源を切り、いつもの猫ハウスで寝たフリを始めました。


何日か過ぎたある日、ミーシャのメールボックスにまたメールが入っていました。

[街なか出版の青森です。ジャスミン先生の事情はわかりました。では、お会いせずに出版までお話を進めませんか?きっといいお仕事ができると思います。

街なか出版 青森秋斗]

ミーシャは驚きました。しかし、なんとなく気が進みません。ミーシャは、正直にお話することにしました。

[ジャスミンです。実は、私は猫なのです。親代わりの家族に、物語を書いていることを知られたくないので、本を出すのは遠慮したいのです。申し訳ありませんが、もう一度お断りさせていただきます。]


ミーシャはふざけてると思われるか、頭がおかしい人と思われるだろうかと思いつつ、正直に話したのだからもう良いだろう、と思いながら、パソコンを閉じて猫ハウスで眠りました。

その日、茉莉花が帰ってくると、ミーシャは飛び起きて、茉莉花の足下に絡みつきました。しかし、茉莉花はため息をついて、ソファに沈み込みました。

ミーシャが、どうしたの?という合図で首をかしげると、茉莉花はミーシャの頭を撫でながら、ため息をつきました。

「ミーシャ、今日は寂しいことがあったの。いつも来てるスーツの人とね、仲良くなったんだけど、ミーシャの冒険の作者が病気なんだって…。」

茉莉花がジャスミンのファンだということは、ミーシャも知っていました。だからこそ余計に、茉莉花には知られたくなかったのです。自分が書いてると知られれば、茉莉花をがっかりさせてしまうとミーシャは思っていました。ですが、ミーシャの冒険の作者が病気だとはなんの根拠があって言うのだろう…。ミーシャはスーツの人は青森で、ジャスミンは病気だ、と茉莉花に嘘をついたのだと気が付きました。

ミーシャは怒って、走り出し、激しく爪を研ぎました。そんな嘘をついて、茉莉花を悲しませたことが許せなかったのです。

ミーシャは、しばらくメールボックスを覗くのが嫌になり、メールボックスを閉じてしまっていました。


ある金曜日の夕方、いつものように猫ハウスで休んでいると、茉莉花の車の他にもう一台、車の音が聞こえました。

「ミーシャ、お客さんだよ!大丈夫ですよ青森さん、ミーシャは人見知りしませんから!」

ミーシャは驚きました。茉莉花が青森を連れてきたのです。

「こんばんは。ミーシャちゃん。」

青森が笑いかけると、ミーシャはフーっと唸り声を上げ、毛を逆立てて怒りました。

青森が困った顔をしていると、茉莉花がミーシャを叱り、青森にごめんなさいと言って謝りました。

ミーシャはますます気に入らず、猫ハウスでふて寝しました。

茉莉花は首を傾げ不思議そうにしていましたが、ミーシャにはミーシャなりの理由があったのです。


二人が楽しそうに食事をしている間、ミーシャはイライラしながら、ふて寝を続けていました。

茉莉花が洗い物にキッチンに立つと、青森がミーシャのもとに来ました。

無視してやろうと思っていると、

「先生、ジャスミン先生。」

と、青森が話しかけてきました。ミーシャは驚いて、青森の顔を見ると、真剣な顔で青森は言いました。

「先生が二回目のメールをくれたときに、先生の正体に気づきました。茉莉花さんの周りで起こる不思議な出来事と、ミーシャの冒険の内容、そしてあのメールで気づいたのです。嘘をついたのはすみません。謝ります。ですが、茉莉花さんとミーシャの冒険を書籍化したいと盛り上がってしまった手前、嘘をつくしかなかったのです。自分が未熟なばかりに先生にご迷惑をおかけしてすみませんでした。」


ミーシャは、すくっと立ち上がると、絵本を持ってきて、青森に見せました。タイトルは[ゆるしてあげよう]というものでした。

青森は、うっすら涙を浮かべ、「ありがとうございます。」

と繰り返しました。


それから、ミーシャの秘密は、二人の秘密になりました。

書籍化はどうなったかって?

もう、来年には続編の出版が決まっていますよ。ミーシャは青森に守られ、猫として初めて小説家になり、茉莉花に守られ、猫として普通の暮らしをしています。

青森と茉莉花の関係は、まだまだですけどね。


おしまい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 色んな伏線が仕込んであって、気になるので早く続きが読みたいと思う作品になったかな たまにはファンタジーもいいよね
[良い点] どうも、ミーシャの冒険と動物たちの絵本を読ませていただきました。日常の中のちょっとしたファンタジーを感じる作風でとても素敵です。ミーシャのように猫は自分の冒険をどこかで誰かに語ったりしてい…
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