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あの時のぼくたちも、青かった 3



 篤の表情が変わったのが目に見えて分かった。あれから随分時間が経って、結婚までした今でも、私とのことはきっと心のどこかに楔となって打ち込まれていたのだろう。

 あの時、私も物分かりがいいふりをした。

 なにも別れなくていいじゃん。遠距離でも大丈夫だよ。たまに帰ってくるよ。国際電話は高いけどスカイプあるし。アメリカにも遊びにおいでよ、泊めてあげる。

 なんでこう切り返せなかったんだろうと後悔したこともあった。でも、できるわけがなかったとすぐに思い直す。篤がどれだけの想いを込めて「別れよう」と告げたのか。星空の下で彼の横顔を見た時、語る言葉、すがる言葉を失ったのを思い出す。

「さっきも言ったけど、私はあっくんと付き合ってよかったと思ってる。あっくんは?」

 既婚者には意地悪な質問かな、とも思うが構わない。私だけ言いっぱなしじゃ不公平だ。

「えーっと……」

 彼は必死に言葉を探しているようだった。

「……うん。ぼくも優と付き合って良かったと思っている。結局は別れてしまったけど、それも含めて、優と一緒にいた時間が今のぼくを作る一つの要素になってる。優がいなかったら今のぼくとは全然違う人間になっていただろうし、あの時別れていなかったら、やっぱり違う人間になっていただろうと思う。例えば、うちの嫁には見向きもされないようなクソ野郎になってたかもしれない。……えっと、言いたいこと伝わってる?」

 大丈夫。伝わるように話してくれたから。

「つまりあっくんにとっても、私と付き合ってたのはいい思い出だってことでしょ?」

「大体そういうこと。プラス、優には感謝してるってこと」

「それは良かった。じゃあお互いありがとうって思ってるわけでwin-winだね。でもそういうこと奥さんには言わないほうがいいからね。昔のオンナに未練あるのかー! って受け取られかねないよ」

「ん。肝に銘じとく」

 その後、篤はごにょごにょと言葉を濁した。

「ん、なに?」

「なんでもない」

「嘘。気になる」

 私は篤をにらむ。

「……昔なにがあったとしても、今は嫁が一番だから。愛しているから」

 迷ったようだったが、篤は観念したようにテーブルに突っ伏して答えた。

 そっか。愛してる、か。そうだよねぇ、結婚してるんだもん。

「それ、ちゃんと奥さんに言ったげなね。本当に愛し合ってたら言わなくてもわかる、みたいなの、あんなの何十年も連れ添ってなきゃ無理よ。エスパーじゃあるまいし、言わなきゃ伝わんないからね」

「ぼく、結構言ってるかも」

「どのくらい?」

「週に十四回くらい」

 おぉ、と仰け反ってしまった。それなら十分過ぎる。

「まぁ、私はあっくんのこと喋っちゃったんだけどね」

 ペロっと舌を出した。顔を上げた篤の目は丸くなっていた。

「誰に?」

「婚約者」

 おぉ、と今度は彼が仰け反る番だった。椅子ががたんと派手な音を立てる。私の婚約がそんなに意外かコラ。

「結婚するんだ?」

「やっと私もアメリカ行けるからね。向こうはニューヨークに住んでるの」

「あれ? 優、ロサンゼルスに転勤って話じゃ?」

「そう。本当は私ニューヨーク希望してたの。でもニューヨークに行って結婚して華の新婚生活! にこだわってたらいつまでも一緒になれそうにないから、ロスで手を打ったわけ。おかげで結婚してもしばらく別居生活継続よ」

 思わずため息が漏れた。

「彼にはなに話したんだ? つまり、ぼくのことを」

「大体全部」

「は? 全部?」

 もはや篤は驚きを通り越してあきれ顔だ。それが面白かった。

「そしたら、青春だねーって。君が好きだった男なんだから、きっといいやつなんだろう、今度紹介してくれ。だって」

「彼、いいやつだな」

 篤はにこやかな表情をしていた。そう言ってもらえるのが嬉しい。ついでに、もっと一声期待しちゃう。

「そう。いいやつなの」

「おめでとう。幸せになれよ」

 さすが元祖いいやつ。期待通りのセリフだ。

 昔も今も、彼は私の背中を押してくれる。

 大丈夫。私も幸せになるよ。


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